銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

フラット35の事例にみる住宅ローン金利上昇の怖さ

住宅金融支援機構が、「フラット35」(買取型)の11月の適用金利を発表しました。金利は上昇しています。

金利が上昇する時代において、我々が気になるのはやはり住宅ローンでしょう。毎月の家計に大きく影響するためです。

今回は、金利上昇が住宅ローンの支払いにどの程度影響するのか、簡単に見ていきましょう。

 

フラット35の金利

日本の住宅ローンの固定金利指標と言えば、やはりフラット35でしょう。(筆者は変動金利住宅ローンの借入ばかりが増えている現状に少し危機感を抱いておりますので、あえてフラット35を今回の記事では指標として使います)

住宅金融支援機構が発表したフラット35における融資率9割以下・借入期間21年以上の11月金利は、年1.960%(前月比0.080%上昇)~3.530%(同0.260%上昇)でした。

取扱金融機関が提供する最も多い金利 (最頻金利)は年1.880% (同 0.080%上昇)と3カ月連続で上昇し、2%に迫る水準まで上昇しています。過去最高だった3月に並んだことになります。

また融資率9割以下・借入期間20年以下のフラット35の金利は年1.480%(0.080%上昇)~3.050%(同0.260%上昇)でした。 最頻金利は1.480% (同 0.080%上昇) となって います。

尚、フラット35は、機構が民間金融機関と連携して提供しており、金利は銀行や住宅ローン提供会社によって異なるために上記のような幅のある金水準での発表となっています。

フラット35は現行制度になった2017年10月以降の数年間において、返済期間21年以上融資率9割以下の金利は1.10~1.40%台で推移していました。それがついに2%が視野に入ってきたことになります。

ただ、歴史的に見ると金利が2%といっても低いとも言えます。米国では10月の30年物住宅ローン金利が7.5%超えとなっています。フラット35の金利が2%になっても、あまり騒ぐ必要はないと思う方もいるかもしれません。

 

金利上昇の影響はバカに出来ない

住宅ローン金利上昇のインパクトがどれぐらいになるかは、実際に支払う返済総額を見ると良く分かります。

首都圏でありそうなパターンを事例として挙げてみましょう。

借入金額 4,000万円、全期間固定金利1.5%、返済期間35年にてフラット35を借りたとします。

この場合、35年間トータルで支払う総返済額は5,144万円となります(住宅金融支援機構のWebサイトにはシミュレーションが出来るページもあります)。毎月の返済額は12.3万円 (ボーナス返済無し)となります。

同じ借入金額、返済期間で、金利が0.5%上昇する(=金利が2.0%になる)と、総返済額は5,566万円と422万円増加します。毎月の返済額は13.3万円となり、月に1万円の上昇です。

わずか0.5%と思えるかもしれませんが、35年間で422万円、月に1万円の違いが発生すると聞くと金利が大きなインパクトをもたらすことが分かるのではないでしょうか。尚、金利が更に上昇した場合は以下のようになります。

<借入金額 4,000万円、 返済期間 35年>

  • 2.5%の場合:総返済額6,000万円、毎月返済額14.3万円
  • 3.0%の場合::総返済額6,466万円、毎月返済額15.4万円
  • 7.5%の場合(米国30年物住宅ローン金利):総返済額1億1,328万円、毎月返済額27.0万円

金利が上昇するというのはこれだけの影響が出ることになります。

特に米国並みに住宅ローン金利が上昇すると4,000万円借りて、総返済額は1億円を優に超えます。借りた金額の2倍どころが3倍近くの返済総額になるのです。金利の上昇は全くバカに出来ません。

日銀は2023年10月31日に金融政策の運用をより柔軟化し、長期金利が1%を超えても一定の水準までは容認する方針を決めています。今後もフラット35の金利引き上げ、すなわち住宅ローンの固定金利の上昇が続く可能性は高いでしょう。

金利が上昇してくると、個人が住宅を購入する力(購買力)は確実に落ちます。金利が1.5%の時の4,000万円の住宅と、金利が3%の時の4,000万円の住宅は価値が違います。

上記の例を使うと、金利が3%の時に毎月12.3万円の返済で収まる借入額は3,196万円です。1.5%の時には毎月12.3万円の返済となる借入額が4,000万円でしたから、金利が2倍になると804万円も購入可能な金額が減少することになります。ちなみに 7.5%の金利で月12.3万円に返済額を抑えようとすると、借入額は1,824万円であり、借入額は半分以下にまで落ち込むことになります。これが金利の怖さであり、金利が上昇すると不動産価格が落ちると言われる所以です。

これから日本銀行は長期金利を引き上げていくことになるでしょう。これは世界各国が金融政策の正常化を図っている中で、逃れられません。金利上昇の環境下では、住宅ローンを使う個人の購入力減少という形で不動産価格に負の影響を与えることは十分に考えられます。皆さんはどうお考えになるでしょうか。