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島根銀行は近未来の他行の姿か、ただの周回遅れか~2018年3月期決算~

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島根銀行の業績が苦戦しています。

金融庁が島根銀行に業務改善命令を出すとも報道されています。しかも、業務改善命令は、法令違反ではく経営再建に関するものとされています。これは異例のことです。

島根銀行の経営状態はどのようになっているのでしょうか。

今回は島根銀行の業績における問題点について確認します。

島根銀行の決算分析は他の地方銀行(地銀)の分析をする際にも参考になるものと思います。

 

報道 

島根銀行を取り巻く最近の動きについて、概要をつかむため、以下の記事を引用します。

まずは金融庁が業務改善命令を出す方向で検討しているとの報道です。

島根銀に改善命令検討、収益力向上求める 金融庁 

2018.6.4 産経ニュース

金融庁が島根銀行(松江市)に対して、収益力の向上を求めて業務改善命令を出す方向で検討していることが4日、分かった。法令順守違反に対する行政処分ではなく、経営再建に関する内容とみられる。

島根銀の平成30年3月期連結決算は、純利益が前期比38・5%減の6億円。本業のもうけを示す「コア業務純益」は赤字だった。1日には店舗の統廃合を発表し、業務の効率化を進めている。
金融庁は低金利や人口減少が進む中で、持続可能なビジネスモデルを構築できない地銀などに立ち入り検査を実施し、経営の改善を促す姿勢を表明している。30年3月期に赤字に転落した福島銀行に業務改善命令を出しており、島根銀にも近く検査結果を通知した上で、業務改善命令などの対応を決定するもようだ。

島根銀は、5月に旧大蔵省出身で頭取や会長を含む取締役を28年にわたり歴任した田頭基典取締役相談役の退任を発表。金融庁は元トップの長期にわたる取締役在任も企業統治の観点から問題視していた。

加えて、以下は店舗網の見直しに関する記事です。

島根銀、5出張所を事実上廃止店舗網を見直し
2018年6月1日 19:31 日経新聞

島根銀行は1日、支店から出張所への種類変更、出張所の事実上の廃止を内容とする店舗網の再編を10月1日付で実施すると発表した。同行は2018年3月期決算で本業のもうけを示すコア業務純益が2期連続で赤字になり、経営再建を進めている。店舗網の再編による効率化でコストを下げ、収益力の立て直しを急ぐ。

同行の店舗数は現在25支店、9出張所。10月1日からは3支店を出張所に変更し、5出張所を「店舗内店舗」として他店に統合する。統合後の出張所跡地はATMコーナーだけが残り、事実上の廃止となる。

(中略)

出張所は支店と異なり、融資業務を行わない。出張所となる3支店には現在各7~8人の職員がいるが、出張所化による業務減により各4人程度となる。一方、5出張所には各4人前後の職員がいるが、統合によりゼロとなる。その結果、支店や出張所から合計30人程度の人員が減る見通しだ。

同行は融資拡大のため優良企業向けよりも高い金利が見込める「ミドルリスク層」の開拓を進めている。店舗再編は本部で営業にあたる人員を捻出する目的もある。

 以上が近時の島根銀行に関する報道です。

 

業績概要

では、島根銀行の単体業績について数値を確認してみましょう。

以下はポイントとなる数値です。

  • 業務粗利益(一般企業の売上高に相当) 5,356百万円(前年度比+44百万円)
  • うち、資金利益(預貸金利息、有価証券利息等) 4,541百万円(前年度比▲125百万円) 
  • うち、役務取引等利益(受取手数料、支払手数料) ▲96百万円(前年度比▲131百万円)
  • うち、その他業務利益(債券関係損益等) 911百万円(前年度比+301百万円)
  • 人件費 2,331百万円(前年度比▲48百万円)
  • 物件費(店舗・システム経費等) 2,194百万円(前年度比+70百万円)
  • コア業務純益(債券関係損益除く)▲281百万円(前年度比▲178百万円)
  • 業務純益(一般企業の営業利益に相当) 496百万円(前年度比+2百万円)
  • うち、債券関係損益 699百万円(前年度比+101百万円)

以上が数値の概要となります。

まず、最も注目すべきは一般企業の営業利益に相当する業務純益は黒字ということです。

表面の数字だけをみれば、金融庁から収益力改善を求められるのは疑問を感じるのではないでしょうか。

しかし、業務純益496百万円のうち、699百万円は債券関係損益(国債の売却益等)です。すなわち、債券関係損益を除けば本業の利益である業務純益は赤字だったことが分かります(これがコア業務純益)。

島根銀行は2017年3月期もコア業務純益が赤字であり、コア業務純益はさらに悪化していることから、収益力改善は果たされていないということになります。

金融庁が裏で何を考えていようとも、この数字自体は厳然たる事実です。

 

決算内容のポイント

上記で島根銀行の本業が赤字に陥っていることが分かったと思います。

同行の資金運用利回(貸出金と有価証券利回の合算)は1.33%となり、前年度比▲0.06ポイントとなっています。

一方で資金調達原価(預金等利回と外部負債利回)は1.41%となっており、前年度比▲0.01ポイントしか低下していません。

資金運用利回と資金調達原価の差額はマイナスとなっており(▲0.08%)、これが同行の総資金利鞘です。

端的にいえば、本業のバンキング事業では、貸出をしたり、有価証券投資をしても儲かっていないということになります。

そこで、この赤字を債券の売却による利益でカバーして、黒字を維持したのが島根銀行の決算のポイントです。

島根銀行は開示情報が少ないため、分析が甘くなってしまいますが、間違いなく、債券売却によって永続的に利益を「作る」ことはできません。

マイナス金利環境下では金利の引き下げ余地が(基本的には)ないため、債券の含み益を作ることが非常に難しいためです。

<債券評価損益>

2017年3月末 +2,667百万円

2018年3月末 +2,260百万円(前期末比▲407百万円)

このように2018年3月期に債券売却益を計上したため含み益が減少しているのが分かります。

また、その他有価証券のその他(投資信託等への投資と推測される)の評価損益も大幅に悪化しています。

<その他(その他有価証券)評価損益>

2017年3月末 +1,086百万円

2018年3月末 ▲598百万円(前期末比▲1,684百万円)

こちらは、投資信託等であれば売却益が本業の資金利益に計上できることことから、本業の資金利益の落ち込みを補うために2018年3月期に売却(=含み益の顕在化)を行った可能性もあるものと想定されます。

もちろん、将来への財務懸念を残さないように、含み損の処理もしているかもしれません。

しかし、それだけではないだろうと筆者は予想しています。

以下をご覧ください。

  • 同行の貸出残高(平均残高)は2018年3月期で261,707百万円
  • 2018年3月期の貸出利回の低下は▲0.10%
  • ざっくりとした試算だが、平均貸出残高 × ▲0.10%=▲262百万円分の資金利益が減少していることが想定される
  • 一方で、2018年3月期の資金利益の低下は▲125百万円
  • この差額は、投資信託等の売却益により穴埋めされたと想定される
  • 参考値として、同行の有価証券(=有価証券「利息」も資金利益に計上される)は平均残高ベースで90,997万円、前期末比▲3,687百万円となっており、有価証券利回も▲0.01%となっていることから、有価証券利息が増加して、資金利益が増加しているということは考えにくい

このような状況が島根銀行の状況です。

同行は、事業を持続させるためには本業である預貸業務(バンキング業務)やその他付随業務を強化するしかないのです。

しかし、2018年3月末時点では同行の貸出が増加したセグメントはほとんどなく、実質的には個人向け貸出と不動産業・物品賃貸業向貸出が増加要因のほとんどを占めます。

特に個人向け貸出は、+201億円増加し991億円の残高となりました。2018年3月末の同行全体残高2,682億円と比べると、年間の増加額が急激であることが分かるでしょう。

この個人向け貸出の基準までは開示資料では分かりませんが、将来問題となる可能性はあるでしょう。

また不動産業向けや個人でもカードローン・アパートローン向けの貸出は、金融庁が厳しく注目している分野です。この分野で更に貸出を増やしていくのは難しいのではないでしょうか。

収益向上が難しいならばコストを削減するしかありません。

しかしタイミングが悪いことに2018年3月期には新本店が完成しました。

約58億円の建築工事を発注したとすでに公表していましたので、同行は年間1億円程度の減価償却費が計上されることになります。業務純益が5億円程度しかない同行にとっては非常に重い負担です。

このコストアップ要因をどのように対応していくか(実際には上記の店舗統廃合が一つの対応でしょう)は重要な課題です。 

金融庁の業務改善命令は黒字企業に対しては異例といえます。しかし、島根銀行の決算を見る限りでは、金融庁が懸念を抱くのは妥当とは思えます。

島根銀行の決算における問題点は、他の地銀でも大なり小なりあるものです。ただし、決算におけるインパクトを見ると、島根銀行は他行よりは様々な処理・対応が遅れている感は拭えません。

しかし、もしかしたら、今回の島根銀行の決算は、地元が人口・企業減となり地盤沈下していった後の他地銀の姿かもしれません。

貸出で収益を上げられず、有価証券の運用もうまくいかず、個人や不動産業にしか貸出ができないが将来の人口減少を鑑みると懸念がある、コスト削減も遅れている、そんな状況が、島根銀行以外にも起こる可能性は十分にあるのです。