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第二地銀は冷静にみてヤバいのか(2018年3月期決算分析)

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第二地方銀行協会(第二地銀協)の会員である第二地方銀行(41行、第二地銀)の決算の概要が、第二地銀協から発表されています。

前回の記事では第一地銀が会員となっている地銀協(64行)の決算について考察しました。

今回は、特に業績が悪いとされる第二地銀の2018年3期決算について見ていくことにしましょう。

 

第二地方銀行とは

第二地方銀行(以下第二地銀)とは、第二地方銀行協会の会員であり、金融庁の「免許・登録業者一覧」において「地域銀行 / 第2地方銀行」とされた銀行です。

第二地銀協の定款には以下のように会員を定義しています。

この協会の会員は、平成元年2月1日以降、金融機関の合併及び転換に関する法律(昭和43年法律第86号)第6条第5項の規定に基づいて銀行法により免許を受けたとみなされた銀行及び会員から営業を譲り受けることを目的として新たに免許を受けた銀行であって、主たる営業基盤が地方的なもののうち、次条の承認を得たものとする。

出典 一般社団法人 第二地方銀行協会定款第5条

第二地銀は規模の大きい第一地銀とは異なり、相互銀行が前身です。相互銀行は庶民金融機関であった無尽会社から転換したものであり、いわゆる中小の金融機関でした。

相互銀行から普通銀行に転換した際に、全国相互銀行協会も第二地方銀行協会に改称し、今に至ります。

 

決算概要

では、早速に第二地銀の業績について見ていくことにしましょう。

以下は第二地銀協のホームページに掲載されているものから引用しています。。

第二地銀協地銀の平成29年度決算の概要について

平成 30年 6月 14日
一般社団法人 第二地方銀行協会

加盟地方銀行の平成29年度決算(単体)の概要は以下のとおり。
(注)計数は平成30年3月末時点の加盟地方銀行41行ベース(特記ある場合を除く) 。

1.損益概況
 加盟地方銀行の平成29年度決算は、業務純益、経常利益および当期純利益のいずれも減益となった。
 業務純益は、資金利益の減少および国債等債券関係損の計上等により、1,946億円と前年度比△213億円、△9.9%の減益となった。
 経常利益は、株式等関係益が増加したものの、業務純益の減益、個別貸倒引当金繰入額の増加および貸倒引当金戻入益の減少を受け、2,206億円と同△144億円、△6.1%の減益となった。
 当期純利益は、1,583億円と同△117億円、△6.9%の減益となった。
因みに、コア業務純益は、2,041億円と同△26億円、△1.3%の減益となった。

2.業務純益の状況
 ⑴ 資金利益(8,102億円、前年度比△207億円、△2.5%)
   資金利益は、前年度比△207億円、△2.5%減少して、8,102億円となった。
  この内訳をみると、預貸金収支は、貸出金が増加したものの、預貸金利鞘の縮小により、同△130億円、△2.0%減少して、6,339 億円となった。
  また、有価証券利息配当金は、同△46億円、△2.5%減少して、1,812億円となった。
 ⑵ 役務取引等利益(770億円、同+29億円、+3.9%)
  役務取引等利益は、投信窓販業務手数料および預金・貸出金業務手数料等の増加により、同+29億円、+3.9%増加して、770億円となった。
 ⑶ その他業務利益(14億円、同△189億円、△93.1%)
  その他業務利益は、国債等債券関係損の計上等により、同△189億円、△93.1%減少して、14億円となった。
⑷ 経費(6,964億円、同△123億円、△1.7%)
  経費は、人件費および物件費の減少により、同△123億円、△1.7%減少して、6,964億円となった。

3.経常利益および当期純利益の状況
 経常利益は、業務純益の減益等を受け、2,206億円と前年度比△144億円、△6.1%となり、当期純利益は、1,583億円と同△117億円、△6.9%の減益となった。

4.与信関係費用の状況
 与信関係費用は、前年度比+160億円増加して、269億円となった。
 また、金融再生法開示債権(破産更生等債権、危険債権、要管理債権の合計)は、前年度末比△683億円、△6.2%減少して、1兆375億円となった。開示債権比率は、同△0.20%ポイント低下し、1.95%となった。

5.単体自己資本比率(国内基準40行ベース)
 単体自己資本比率は、リスクアセットの増加等により、前年度末比△0.26%ポイント低下し、9.21%となった。

6.預金および貸出金
 ⑴ 預金(66兆 8,308億円)
  預金は、前年度末比+1兆432億円、+1.6%増加して、66兆8,308億円となった。預金者別にみると、要求払預金を中心に一般法人預金および個人預金のいずれも増加した。
⑵ 貸出金(52兆 3,843億円)
  貸出金は、同+1兆5,837億円、+3.1%増加して、52兆3,843億円となった。貸出先別にみると、中小企業向けを中心とした法人向け貸出、個人向けおよび地方公共団体向けのいずれも増加した。

7.平成30年度通期業績予想(業績予想を公表している37行ベース)
 平成30年度通期業績については、経常利益は増益予想が9行、減益予想が28行である。
 また、当期純利益は増益予想が7行、減益予想が30行である。

以上が第二地銀全体の業績でした。


業績内容の詳細

では、第二地銀の業績についてもう少し詳しくみていきましょう。

業績のポイントは以下の通りです。

  • 業務粗利益(一般企業の売上高に近い概念)は前年度比▲367億円、▲4.0%の8,887億円
  • うち、資金利益(貸付金利息、有価証券利息配当金等)は前年度比▲207億円、▲2.5%の8,102億円
  • うち、役務取引等利益(投資信託の販売手数料、為替手数料等)は前年度比+29億円、+3.9%の770億円
  • うち、その他業務利益は前年度比▲189億円、▲93.1%の14億円
  • 資金利益は預貸金収支(いわゆる貸出収益と預金費用の差額) と有価証券利息配当金で構成
  • 預貸金収支は前年度比▲130億円、▲2.0%の6,339億円
  • 有価証券利息配当金は前年度比▲46億円、▲2.5%の1,812億円
  • その他業務利益を構成する国債等債券関係損益は前年度比▲217億円の▲118億円(赤字転落)

以上が収入面のポイントとなります。

地銀は業績が悪いというイメージがあるかと思いますが、特に苦戦しているはずの預貸金収支は▲2.0%となっています。

イメージとしてはもっと落ち込みが厳しいように考えている読者もいらっしゃると思いますが、第二地銀全体でみれば、これが現実の数値です。

第二地銀全体の貸出金残高は52兆3,843億円です。前年度比+1兆5,337億円、+3.1%となりました。
金利は低下していますが、貸出残高のボリューム増もあり、落ち込み幅はある程度カバーされたということになります。

有価証券利息配当金は、私募投信の解約(利益確定)等である程度嵩上げ(筆者から言わせれば「決算を作ること」)が可能ですので、そこまで重要視しなくても良いでしょう。

ただし、第一地銀は貸出金利息(※こちらの項目には預金費用が含まれておりません)が▲0.9%ですので、預貸金収支が▲2.0%となっている第二地銀の方が厳しいと言えるかもしれません。

また、第二地銀の特徴として、業務粗利益に占める役務取引等利益の割合が第一地銀に比べて低いという点があります。

業務粗利益に占める役務取引等利益は、第二地銀が8.6%ですが、第一地銀は12.8%です。

すなわち、リスクを取らない、かつマイナス金利政策の影響を受けない手数料収入の割合は第一地銀の方が多いのです。これは第一地銀と第二地銀の大きな違いといえます。

そして、第一地銀でも同様の問題が起きていますが、国債等債券関係損益については大幅な赤字転落となりました。

今までは金利低下の恩恵を受け、国債に投資していれば誰でも(このように表現すると地銀関係者に怒られそうですが)利益を計上出来ていましたが、マイナス金利政策の効果により金利が下がるところまで下がってしまい、利益を計上する原資の「含み益」が枯渇してきたということでしょう。

第二地銀の有価証券は前年度比▲8,493億円、▲5.4%の14兆9,927億円となりました。

マイナス金利で利益の出ない国債は▲9,143億円、▲18.4%と大幅に減少しました。

また、金融庁からの為替リスクもしくは金利リスクを過大にとっているのではないかと問題視されている外国証券は前年度比▲492億円、▲2.6%の1兆8,254億円と減少しています。

その代わりに地方債を+1,260億円増やし、また利益を求めて株式を前年度比+892億円、+8.1%増やし1兆1,877億円、その他の証券(私募投信等)を+927億円、+4.2%の2兆2,323億円としました。

第二地銀は国債等債券での運用を相応の規模で行っていたのですが、マイナス金利政策の導入により運用が難しくなってきています

 

第二地銀の問題点

第二地銀が中長期的にどのような収益等の変遷をたどってきたかを確認することは第二地銀の問題点を認識するのに非常に有用です。
以下はリーマンショック後の年度からの変遷です。

<業務粗利益>
2009年度 1兆582億円
2017年度 8,887億円(▲16.0%)
<預貸金収支>
2009年度 7,903億円
2017年度 6,339億円(▲19.8%)
<有価証券利息配当金>
2009年度 1,709億円
2017年度 1,812億円(+6.0%)
<役務取引等利益>
2009年度 605億円
2017年度 770億円(+27.3%)
<国債等債券関係損益>
2009年度 301億円
2017年度 ▲118億円(赤字転落)
<貸出金利回>
2009年度 2.19%
2017年度 1.31%(▲0.88ポイント)
<預貸金利鞘>
2009年度 0.64%
2017年度 0.24% (▲0.40ポイント)
<人件費>
2009年度 3,672億円
2017年度 3,584億円(▲2.4%)
<物件費>
2009年度 3,252億円
2017年度 2,922億円(▲10.1%)
<貸出金>
2009年度 43兆4,891億円
2017年度 52兆3,843億円(+20.5%)
<国債>
2009年度 6兆9,449億円
2017年度 4兆642億円(▲41.5%)
<外国証券>
2009年度 1兆615億円
2017年度 1兆8,254億円(+72.0%)
<その他証券>
2009年度 6,483億円
2017年度 2兆2,923億円(+253.6%)

 

以上をみると分かるとおり、一般企業の売上高に相当する業務粗利益は貸出金の利回り低下に伴い▲16%減少してきました。主因は約2割低下した預貸金収支という本業収益の低下です。

貸出残高は金融緩和政策により約2割も増えたにもかかわらず、預貸金利鞘が約1/3に低下してしまったのです。

これをカバーしようと第二地銀は有価証券に投資したり、手数料を増やそうとしてきました。この施策はある程度の効果は発揮しましたが、本業の貸出収益の低下をカバーするには至っていません。

マイナス金利政策導入により国債での運用も難しくなりました。

外国証券への投資は大幅に増やしましたが、金融庁からの指導により足元では頭打ちです。

また、その他証券(私募投信等)への投資も大幅に増やしてきましたが、こちらも金融庁から問題視されつつあります(含み益を抱えた投信のみ解約し利益を計上する一方で、含み損のある答申をそのままにしておく事例が見られたと金融庁は発表済)。

このように、第二地銀は現在の環境に対応してきましたが、業績は厳しくなってきています。

そもそも、現在の第二地銀の預貸金利鞘(貸出金利と預金金利との差)は0.24%(前年度比▲0.04%)です。

この利鞘の薄さはかなりのものです。

1億円を貸すと年間で24万円しか儲からない計算になります。

1億円を融資する稟議を書くのは、銀行員にとって相応に時間がかかるでしょう。

その稟議を審査する人件費もかかり、貸出のオペレーションを行う人件費もかかります。もちろん、お客様のところに訪問する交通費も無視はできません。

この預貸金利鞘の薄さは第一地銀でも同様の問題を抱えています。第一地銀全体の預貸金利鞘は0.25%であるのであまり変わりません。

ただし、第一地銀の方が、規模が大きく財務内容が優良で信用力の高い取引先へ融資していることが多いため、一案件当たりの貸出額が大きく (=効率が良い)、不良債権の処理費用が少ない(=信用力が高い) ことを想定すると第二地銀の方が、更に苦しいということがいえるでしょう。

そして、第一地銀と異なり役務取引等利益(投資信託の販売手数料、為替手数料等)の収入に占める割合が少ないという問題点もあります。

今の環境が続くならば、第二地銀は貸出一本槍ではない新たな収益源を探さなければならないということなのです。

しかし、上述の通り外国債券や私募投信等への投資は金融庁に目をつけられています。

第二地銀からすれば八方ふさがりの状況といえるかもしれません。

そのため、第二地銀(実際には第一地銀も同様でしょうが)は、合併を模索し、コストを削減する方向に動くしかないのです。

これが今、銀行業界で起きている事象です。

ただし、一つだけ言えることは、報道されているように、すぐに地銀が立ち行かなくなるほどには収益は悪化していないということです。

少なくとも利益は残っていますし、不良債権も少ないのです。

この事実も一方で認識すべきでしょう。

第二地銀の動向にはこれからも注目です。