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地方銀行の2018年9月中間決算を総括してみる~第二地銀の苦戦が明らか~

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全国の地方銀行の業績が厳しいと報道されて久しい状況にあります。

そこで、今回は全国地方銀行協会および第二地方銀行協会が集計した地方銀行の2018年9月中間決算について確認しておきましょう。

 

第一地銀の業績(概要)

まずは全国地方銀行協会が公表した第一地銀の中間決算について確認していきましょう。

全国地方銀行協会、略して地銀協は、いわゆる第一地方銀行が加盟しています。
誤解を恐れずにいえば、地域で歴史があり規模が大きい地銀が第一地銀であり、相互銀行から銀行に転換した、県内で規模が小さい地銀が第二地銀であるといえます。
現在の加盟行は64行あります。

(加盟行一覧)

https://www.chiginkyo.or.jp/app/entry_file/about03_20180426.pdf

 

では、以下で損益と資産について概要を確認しましょう。 

 
  • コア業務粗利益(≒一般企業の売上高) 16,949億円(前年同期比+73億円、+0.4%)
  • 資金運用収益 16,202億円(同+194億円、+1.2%)
  • うち貸出金利息 11,291億円(同+115億円、+1.0%)
  • うち有価証券利息配当金 4,542億円(同+0億円、+0.0%)
  • 資金調達費用 ▲ 1,482億円(同▲184億円▲14.2%)
  • 役務取引等利益 2,212億円(同+84億円、+4.0%)
  • その他業務利益 16億円(同▲20億円▲55.7%)
  • 経費 ▲11,395億円(同+120億円、+1.0%)
  • 国債等債券関係損益 ▲332億円(同▲272億円▲450.2%)
  • 一般貸倒引当金繰入額 ▲291億円(同▲308億円、‐%)
  • 臨時損益 ▲31億円(同▲1,365億円-%)
  • うち不良債権処理額 ▲1,529億円(同▲1,198億円▲362.2%)
  • うち株式等関係損益 1,169億円(同+ 1億円、+0.1%)
  • 経常利益 4,897億円(同▲1,752億円、▲26.4%)
この決算数値だけ見ると、一般的なイメージを裏切り、第一地銀はそこまで業績に苦戦していないとの評価もできます。
本業の売上高に相当するコア業務粗利益や資金運用収益は増益となっています。この主な要因は貸出金残高の増加です。上述の通り、貸出金は+4.8%増加しています。また有価証券は減少していますが、2018年9月中間決算時点では有価証券利息配当金は前年同期比横ばいとなっています。
国債等債券関係損益は悪化していますが、これはマイナス金利政策導入から時間が過ぎ、国債の含み益が枯渇しつつあることが要因といえます。
そして、経常利益は大幅に減益となっていますが、この主な要因は、第一地銀の「スルガ銀行」単独の不良債権処理費用によるものです。
従って、国債等の債券関係損益を本業ではない損益として勘案しなければ、損益の観点から言えば第一地銀の業績は報道されているほどには苦戦していないとの評価もできるのです。
次に資産ですが、第一地銀の資産の残高、前年同期比較は以下の通りです。
  • 貸出金 2,019,964億円(前年同期比+92,085億円、+4.8%)
  • 商品有価証券 475億円(同▲8億円、▲1.7%)
  • 有価証券 667,186億円(同▲39,330億円、▲5.6%)
  • うち国債 200,857億円(同▲38,845億円、▲16.2%)
  • うち地方債 109,101億円(同+8,809億円、+8.8%)
  • うち短期社債 2,537億円(同+1,089億円、+75.2%)
  • うち公社公団債 86,470億円(同▲5,096億円、▲5.6%)
  • うち金融債 12,511億円(同▲2,667億円、▲17.6%)
  • うち事業債 41,043億円(同+1,304億円、+3.3%)
  • うち株式 32,013億円(同+144億円、+0.5%)
  • うち外国証券 97,229億円(同▲13,111億円、▲11.9%)
  • うちその他の有価証券 85,419億円(同+9,042億円、+11.8%)
  • コールローン等 56,224億円(同+8,463億円、+17.7%)
  • 預け金(無利息分を除く) 132,618億円(同+6,311億円、+5.0%)
  • 運用勘定計 2,899,128億円(同+70,593億円、+2.5%) 
この資産構成で確認できるのは、貸出金が増加する一方で、有価証券は減少しているということです。国債はマイナス金利政策導入に伴い減少していることは理解できます。また、外国証券については米国の利上げに伴い含み損を抱えている地銀が増え、金融庁もリスク管理を問題視していますので、残高は減少してきています。
その代わりに「その他の有価証券」、すなわち投資信託等の運用商品が増加しています。この内容は千差万別ですので、リスクは外からは把握できません。外国証券が問題視されたために代替投資として実施している投資信託等へのシフトは、外国証券投資よりも大きなリスクを取っているという可能性は十分にあるでしょう。
 

第二地銀の業績

第二地方銀行(以下第二地銀)とは、第二地方銀行協会の会員であり、金融庁の「免許・登録業者一覧」において「地域銀行 / 第2地方銀行」とされた銀行です。
第二地銀協の定款には以下のように会員を定義しています。
この協会の会員は、平成元年2月1日以降、金融機関の合併及び転換に関する法律(昭和43年法律第86号)第6条第5項の規定に基づいて銀行法により免許を受けたとみなされた銀行及び会員から営業を譲り受けることを目的として新たに免許を受けた銀行であって、主たる営業基盤が地方的なもののうち、次条の承認を得たものとする。
出典 一般社団法人 第二地方銀行協会定款第5条
第二地銀は規模の大きい第一地銀とは異なり、相互銀行が前身です。相互銀行は庶民金融機関であった無尽会社から転換したものであり、いわゆる中小の金融機関でした。
相互銀行から普通銀行に転換した際に、全国相互銀行協会も第二地方銀行協会に改称し、今に至ります。
なお、今回の中間決算の集計対象は40行となっています。
 
<2018年9月中間決算> 
  • コア業務粗利益 4,249億円(前年同期比▲74億円、▲1.7%)
  • 資金利益 3,902億円(同▲52億円、▲1.3%)
  • 貸出金利息 3,180億円(同▲58億円、▲1.8%)
  • 有価証券利息配当金 881億円(同▲16億円、▲1.8%)
  • 資金調達費用 214億円(同▲23億円、▲9.7%)
  • 役務取引等利益 308億円(同+3億円、+1.0%)
  • その他業務利益 38億円(同▲25億円、▲39.7%)
  • 経費(▲) 3,340億円(同▲53億円、▲1.6%)
  • 国債等債券関係損益 ▲36億円(同▲73億円、‐%)
  • 一般貸倒引当金繰入額(▲) 21億円(同+30億円、‐%)
  • 臨時損益 107億円(同▲100億円、▲48.3%)
  • うち個別貸倒引当金繰入額(▲) 108億円(同▲65億円、151.2%)
  • うち貸倒引当金戻入益 36億円(同▲72億円、▲66.7%)
  • うち株式等関係損益 245億円(同▲49億円、▲25.0%)
  • 経常利益 957億円(同▲226億円、▲19.1%)

第二地銀は第一地銀と異なりコア業務粗利益(≒売上高)が前年同期比減少しています。貸出金は第一地銀同様に残高が増加していますが、貸出金利息は減少しており、貸出金利の低下が厳しいことが見て取れます。

2018年9月中間時点では貸出金利回りは1.26%(前年同期比▲0.07ポイント)となりました。0.07ポイントの低下は、約5%の減少となります。

第一地銀と第二地銀を比べると、役務取引等収益=手数料収益の占める割合が異なることが分かります。第一地銀は手数料収益がコア業務粗利益に占める割合は13%です。一方で、第二地銀は7%です。

第二地銀は収益の多様化にまだまだ課題があると言えるでしょう。

次に資産ですが、第二地銀の資産の残高、前年同期比較は以下の通りです。

  • 貸出金 504,876億円(前年同期比+15,457億円、+3.2%)
  • 有価証券 137,524億円(同▲10,120億円、▲6.9%)
  • 国債 37,968億円(同▲8,462億円、▲18.2%)
  • 地方債 18,076億円(同+1,195億円、+7.1%)
  • 短期社債 132億円(同+10億円、+8.2%)
  • 公社公団債 17,501億円(同▲1,353億円、▲7.2%)
  • 金融債 2,606億円(同▲715億円、▲21.5%)
  • 事業債 14,818億円(同▲339億円、▲2.2%)
  • 株式 6,576億円(同+93億円、+1.4%)
  • 外国証券 16,864億円(同▲2,685億円、▲13.7%)
  • その他の証券 22,978億円(同+2,138億円、+10.3%)
  • 商品有価証券 126億円(同▲10億円、▲7.4%)
  • 金銭の信託 542億円(同+165億円、+43.8%)
  • コールローン 4,064億円(同+1,112億円、+37.7%)
  • 預け金(無利息分を除く) 39,980億円(同+1,035億円、+2.7%)
  • 運用勘定計 690,112億円(同+8,198億円、+1.2%)

この資産の状況は第一地銀と状況は同様です。貸出残高は伸びていますが、低金利によって有価証券での運用は減少させています。その中でも、国債・外国証券は大幅に減少し、その代わりにその他の証券が大幅に増加しています。この「その他の証券」は第一地銀同様に投資信託等への投資であり、株式や私募REIT等で運用されているものとなります。

 

第一地銀と第二地銀の比較

第一地銀と第二地銀を業績・資産等を比較すると以下のようになります。

  • 第一地銀のコア業務粗利益は第二地銀の4.0倍
  • 第一地銀の貸出金利息は第二地銀の3.6倍
  • 第一地銀の有価証券利息配当金は第二地銀の5.2倍
  • 第一地銀の役務取引等収益は第二地銀の7.2倍
  • 第一地銀の経費は第二地銀の3.4倍
  • 第一地銀の経常利益は第二地銀の5.1倍(※実際にはスルガ銀行の不良債権処理費用が含まれているため、実際の差は更に存在)
  • 第一地銀の貸出金残高は第二地銀の4.0倍
  • 第一地銀の有価証券残高は第二地銀の4.9倍

この比較で分かるのは、第一地銀が第二地銀と比べて貸出以外の収益を獲得できており、経費も規模比で見ると低い(効率が良い)ということです。

第二地銀が目指す姿というのは、このあたりの比較から見えてくるのかもしれません。