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全国地方銀行協会(地銀協)加盟行の2018年3月期決算について

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全国地方銀行協会(地銀協)から加盟地方銀行(64行)の2018年3月期決算についての概要が発表されました。

マスコミ報道等では、地方銀行(地銀)の業況は厳しさが加速しているとされています。

今回は第一地銀の2018年3月期決算状況について考察します。

 

全国地方銀行協会とは

全国地方銀行協会、略して地銀協は、いわゆる第一地方銀行が加盟しています。

誤解を恐れずにいえば、地域で歴史があり規模が大きい地銀が第一地銀であり、相互銀行から銀行に転換した、県内で規模が小さい地銀が第二地銀であるといえます。

現在の加盟行は64行あります。

地銀協加盟行(地銀協ホームページ)
http://www.chiginkyo.or.jp/app/entry_file/about03_20170919.pdf

 

第一地銀の決算概要

まずは全国地方銀行協会が発表した第一地銀の2018年3月期決算概要を確認していきましょう。

 

地方銀行2017年度決算の概要(2018年6月13日公表)

※計数は、特にことわりがない限り地方銀行64行の単体ベース。
( )、[ ]内は、前年同期比。

1.損益
コア業務純益
資金利益、役務取引等利益がともに増加し、コア業務純益は前年同期比+2.1%(+227億円)の1兆887億円。
業務純益
コア業務純益が増加したものの、国債等債券関係損益の損超幅の拡大に加え、一般貸倒引当金繰入額が繰入超に転じたことから、業務純益は▲8.5%(▲884億円)の9,463億円。
経常利益
株式等関係損益の益超幅が拡大し、不良債権処理額が減少したものの、業務純益の減少により、経常利益は▲2.7%(▲301億円)の1兆1,015億円。
当期純利益
7,838億円(▲1.5%[▲115億円])。
2.資産・負債
○貸出金(平残):194兆8,116億円(+7兆3,761億円[+3.9%])
○有価証券(平残):69兆7,624億円(▲5兆6,394億円[▲7.5%])
○預金(平残):255兆7,127億円(+6兆5,308億円[+2.6%])
3.自己資本比率(国際統一基準行は連結、国内基準行は単体)
○国際統一基準行(10行):14.54%(+0.16%ポイント)
○国内基準行(54行):9.81%(▲0.13%ポイント)
4.不良債権額
○金融再生法開示債権額:3兆3,656億円(▲2,309億円[▲6.4%]

以上が、第一地銀の業績のまとめになります。
では、より詳細に第一地銀の決算内容を見ていくことにしましょう。

 

損益のポイント

コア業務粗利益(一般企業の売上高に近い概念)は前年度比▲3億円とほぼ横ばいです。

 

<コア業務粗利益の内訳>

  • 資金利益(本業の貸付利息、有価証券の利息配当金等)は2兆9,256億円、前年度比+134億円、+0.5%の増益
  • 役務取引等利益(いわゆる手数料)は4,308億円、前年度比+252億円、+6.2%の増益
  • その他業務利益(トレーディング業務等、国債等債券関係損益を除く)は150億円、前年度比▲390億円、▲72.2%の減益

以上の通り地銀の業績はかなり悪いというイメージとは異なり、比較的堅調な業績であることが分かります。

しかし、細かいところをみていくと上記資金利益の内訳では、貸出金利息が前年度比▲209億円、▲0.9%、有価証券利息配当金が前年度比+337億円、+6.2%となっており、貸出金利息は減少していることが分かります。

貸出金利回は前年度比▲0.06%の1.14%となっており、貸出残高(平均残高)が前年度比+7兆3,761億円、+3.9%の194兆8,116億円となったものの、貸出金利回の低下により貸出金利息額は減少しました。

しかし、これでも第一地銀の決算としては悪くはないといえます。本業の貸出金利息収入が減少しても、有価証券での運用で穴埋めが出来ているためです。

第一地銀の決算における最大の問題点は、国債等債券関係損益です。

同損益は前年度比▲600億円となり、前年度の▲467億円から赤字幅が拡大し▲1, 067億円となりました。

また、一般貸倒引当金(貸出先の破綻に備え事前に引き当てておくもの)も前年度比▲511億円と悪化しています。

これを受けて、第一地銀の業務純益(一般企業の営業利益に相当)は前年度比▲884億円、▲8.5%の9,463億円となりました

纏めると、第一地銀の業績としては以下がポイントとなります。

  • マイナス金利政策導入の影響が続き、貸出金利息は▲1%程度の減少が続く代わりに、有価証券(株式型の投資信託も含む)での運用は比較的堅調を保ち、手数料収入も増益
  • 一方で、国債等債券での運用は赤字幅が拡大
  • 債務者の業績悪化に備えて引当金を積み増し、貸出業務におけるコストは上昇

なお、2019年3月期の業績予想では、経常利益段階で増益を計画しているのが21行、減益を計画しているのが41行となり、全体としては▲638億円、▲6.3%の9,471億円を第一地銀全体としては予定しています(経常利益を公表していない2行を除く)。

 

バランスシートのポイント

次に、バランスシート面での決算におけるポイントを確認しましょう。

最大のポイントは有価証券です。

有価証券の平均残高は、前年度比▲5兆6, 394億円、▲7.5%の69兆7,624億円となりました。

この内訳をみていくと、国債が前年度比▲4兆7,926億円、▲ 17.2%の23兆544億円、外国証券が▲1兆6, 461億円、▲ 13. I %の10兆8, 824億円となりました。

第一地銀は有価証券投資を縮小していく方向にあるものと思われます。

貸出金残高は法人向けが前年度比+4兆3.493億円、+3.9%の117兆209億円、地方公共団体向けが前年度比+2,641億円、+1.3%の20兆7,608億円、個人向けが前年度比+2兆2,406億円、+4,0%の58兆3,481億円となっています。
全てのカテゴリーで貸出金は増加しているのです。

不良債権(当該項目では金融再生法開示債権額とします)は、前年度比▲2,309億円、▲6.4%の3兆3,656億円となりました。

前述の項目では債務者の業績悪化に備えて第一地銀が引当を増やしているとされていますが、不良債権額は減少していることになります。

 

第一地銀決算の何が問題か

以上、第一地銀の2018年3月期決算についてみてきました。

貸出という業務では苦戦しているものの、第一地銀が存続できなくなるレベルまで業績が一気に悪化しているようなものではないことが理解できるでしょう。

表面上の決算数値からみると、マスコミ報道で取り上げられているほどには第一地銀の経営は悪化していないのです。

第一地銀の業績は徐々に悪化してきているという表現が最も適切でしょう。リーマンショック後の2009年度決算と2017年度決算とを比較すると傾向がつかめます。

2009年度 業務純益 1兆3,519億円
2017年度 業務純益 9,453億円

2009年度 貸出金利息2兆9,604億円
2017年度 貸出金利息 2兆2,371億円

2009年度 資金調達費用(預金の利息支払等) 4,975億円
2017年度 資金調達費用(預金の利息支払等) 2,602億円

2009年度 有価証券利息配当金 7,345億円
2017年度 有価証券利息配当金 8,886億円

2009年度 国債等債券関係損益 751億円
2017年度 国債等債券関係損益 ▲1,067億円

2009年度 人件費 1兆1,468億円
2017年度 人件費 1兆1,450億円

2009年度 物件費(店舗·システム等) 1兆950億円
2017年度 物件費(店舗·システム等) 9,863億円

 

この数字を見れば分かるように、本業の利益である業務純益は低下しています。

この要因は、金融緩和に伴う低金利が続き貸出金利息が大幅に減少する一方で預金金利には下限があるため本業の貸出収益が減少していることが主因です。

これを有価証券利息配当金(投資信託の解約利益も計上可)で補おうとしていますが、貸出収益の低下分をカバー出来てはいません。

そして、国債等債券関係損益は赤字に沈んでしまっています。この要因はマイナス金利政策導入に伴い金利の低下余地がほとんどなくなり、金利低下による国債の含み益(債券は金利が低下すると価格が上昇するため)が枯渇したことによるものと想定しています。

このように第一地銀の収益は低下してきていますが、これに対応するためには通常はコストを削減するしかありません。

しかし、第一地銀の人件費は横ばいとなっています。店舗·システム費用が含まれる物件費では相応のコスト削減がなされていますが、減益傾向をカバーするには至っていません。

これが今の第一地銀の状況なのです。

第一地銀が生き残るためには、何らかの形で業務粗利益を増加方向へ転換させなければなりません。それが簡単に見つからないから苦戦しているということなのでしょう。

単純な話ではありますが、以上が第一地銀の2018年3月期決算の概要です。

 

(第二地銀の決算分析は以下となります)