マイナス金利政策の影響による収益減、国内人口減等を背景に、店舗閉鎖によるコスト削減、AI活用による業務量削減への対応としてメガバンクが人員を削減すると発表・報道されています。
今回はシリーズでこのメガバンクの人員リストラ問題について考察してきました。
最後はメガバンク中、最も規模の大きい三菱東京UFJ銀行についてみていくことに致します。
【三井住友銀行】
www.financepensionrealestate.work
【みずほ銀行】
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人員数分析
正社員のみの人員推移
三菱東京UFJ銀行の人員数推移については旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行の合併がかなりの影響を及ぼしています。
数字で見ると以下の通り非常に特徴的になっており、よく言えば慎重、悪く言えば動きが鈍いイメージとは異なる側面がみてとれます。なお、以下の数字はすべて三菱東京UFJ銀行「単体」での数値となります。
まず他行が新卒採用を急増させた2007年前後の正社員(正規従業員のみ、非正規従業員除く)の推移をみます。これは他メガバンクとは異なる動きがあります。
【正社員数(正規従業員のみ)】
2003年3月末:36,149名
2004年3月末:34,625名
2005年3月末:34,274名
2006年3月末:33,533名
2007年3月末:33,059名
2008年3月末:33,280名(旧東京三菱銀行、旧UFJ銀行合併)
2009年3月末:33,827名
2010年3月末:34,902名
他メガバンクでは、2007年3月期ごろから新卒の採用数を大幅に増加させています。ところが三菱東京UFJ銀行はそのような動きは比較的穏やかです。以下で簡単に比較してみます。
【三井住友銀行の正社員推移】
2006年3月末→2007年3月末=前期比102%
2007年3月末→2008年3月末=前期比109%
2008年3月末→2009年3月末=前期比122%
2009年3月末→2010年3月末=前期比103%
【みずほ銀行の正社員推移】
2006年3月末→2007年3月末=前期比106%
2007年3月末→2008年3月末=前期比102%
2008年3月末→2009年3月末=前期比105%
2009年3月末→2010年3月末=前期比104%
【三菱東京UFJ銀行の正社員推移】
2006年3月末→2007年3月末=前期比99%
2007年3月末→2008年3月末=前期比101%
2008年3月末→2009年3月末=前期比102%
2009年3月末→2010年3月末=前期比103%
以上の正社員数の推移をみると、三菱東京UFJ銀行は2行の合併時期と他行が新卒を大量に採用していた時期が重なっており、この時期に大量採用に踏み切らなかったことがわかります。
これは人事の観点からすると良い判断だったと思います。年次によって人員数がばらつくのは従業員が若いうちは良いのですが、年次が上がりポストが必要になってきた時に処遇をするのが難しくなるためです。バブル採用世代の各行での扱いをみると分かるでしょう。
次に正社員および臨時従業員を合算した従業員全体の動きをみていきましょう。
従業員合計の人員推移
従業員全体(正規従業員+非正規従業員)の人員数推移は以下の通りとなります。
2003年3月末:正社員36,149名+臨時従業員7,808名
2004年3月末:正社員34,635名+臨時従業員8,140名
2005年3月末:正社員34,274名+臨時従業員9,501名
2006年3月末:正社員33,533名+臨時従業員22,243名(合併)
2007年3月末:正社員33,059名+臨時従業員20,908名
2008年3月末:正社員33,280名+臨時従業員3,946名
2009年3月末:正社員33,827名+臨時従業員4,895名
2010年3月末:正社員34,902名+臨時従業員15,421名
2011年3月末:正社員34,797名+臨時従業員13,705名
2012年3月末:正社員35,480名+臨時従業員12,468名
2013年3月末:正社員36,499名+臨時従業員12,283名
2014年3月末:正社員37,527名+臨時従業員12,603名
2015年3月末:正社員35,214名+臨時従業員12,486名
2016年3月末:正社員34,865名+臨時従業員12,399名
2017年3月末:正社員34,276名+臨時従業員12,407名
三菱東京UFJ銀行の従業員数の推移は非常に興味深いものがあります。
特徴としては以下の通りとなります。
- 東京三菱銀行とUFJ銀行の合併時に、大量の臨時従業員を投入し、一気に合併作業を進めていること
- そして合併作業が終了したらすぐに臨時従業員の雇用を終了させていること
- 2007年頃から始まった新卒の大量採用についてはほとんど対応しなかったこと
- その代わり臨時従業員を急増させて対応したこと
- 2011年からは他行に先行して正社員の採用数を増加させたが、足下の3年間は採用をむしろ絞ってきていること
以上の通り、三菱東京UFJ銀行は雇用についてかなり大胆な動きをしていることが分かるでしょう。
人件費分析
上記の通り三菱東京UFJ銀行の人員数は大きく動いてきました。
では人件費はどのようになっているのでしょうか。
従業員数がこの15年間で最も少なかった2008年3月期と直近の2015年3月期の人件費を比べてみましょう。
(なお、他行は2005年もしくは2006年がボトム、2017年が足元のピークとなっており傾向が異なります)
人件費(正規・非正規従業員合算)=2008年3月期:367,802百万円→2014年3月期:438,180百万円
このように7年間で人件費は約1.2倍の水準になっています。
一方、従業員数は2008年3月末:37,226名から2014年3月末:50,130名へと約1.4倍になっています。
すなわち、一人当たりの人件費は減少させてきたということになります。
時系列でみた一人当たりの人件費の推移は以下の通りとなっています。
(なお、人件費は年金等退職給付費用が含まれており、年金の運用がうまくいかず人件費増となっているケースもありますので、一人当たりの賃金を正確に表している訳ではありませんが、傾向値としては参考となります)
2003年3月期:8.5百万円
2004年3月期:8.2百万円
2005年3月期:7.2百万円
2006年3月期:6.1百万円(合併、ボトム、臨時従業員急増)
2007年3月期:6.5百万円
2008年3月期:9.9百万円(臨時従業員急減)
2009年3月期:9.6百万円
2010年3月期:7.4百万円(臨時従業員急増)
2011年3月期:7.6百万円
2012年3月期:7.8百万円
2013年3月期:8.4百万円
2014年3月期:8.7百万円
2015年3月期:9.6百万円
2016年3月期:8.8百万円
2017年3月期:8.7百万円
足下で一人当たりの人件費が増加しているのは、低金利による退職給付費用の増加もあるのでしょうが、サービス残業をきちんとつけるようにしていることが多いのではないかと推察します。
いずれにしろ他メガバンクに比べると正社員数の面では採用を急増させてこなかっただけに取り得る選択肢が多い銀行といえます。
経費に占める人件費と物件費の割合
銀行の人員数・人件費について分析していく際には、総額の営業経費に占める人件費と物件費の割合を比較する観点が外せません。
これは銀行がシステムによってビジネスをしている側面が多い(例:送金手数料)ためです。
経費に占める人件費と物件費の割合は以下の通りで推移しています。
(なお、物件費には店舗賃借料のみならず、システム経費が含まれます)
2003年3月期:人件費38.4%、物件費56.6%
2004年3月期:人件費37.2%、物件費57.6%
2005年3月期:人件費33.6%、物件費60.9%
2006年3月期:人件費34.1%、物件費60.0%(合併)
2007年3月期:人件費33.3%、物件費61.0%
2008年3月期:人件費33.4%、物件費61.0%
2009年3月期:人件費34.1%、物件費60.0%
2010年3月期:人件費36.8%、物件費58.1%
2011年3月期:人件費37.1%、物件費57.7%
2012年3月期:人件費37.0%、物件費57.8%
2013年3月期:人件費39.2%、物件費55.7%
2014年3月期:人件費40.0%、物件費55.0%
2015年3月期:人件費38.7%、物件費55.4%
2016年3月期:人件費36.8%、物件費57.4%
2017年3月期:人件費35.4%、物件費58.9%
この経費全体に占める人件費、物件費の比率も他行とはずいぶんと異なる状況にあります。
三菱東京UFJ銀行は合併作業を短期間で終了させて比較的安定的に経費の運営をしてきました。しかし、足下では他行が取り掛かる前に物件費(=システム経費)を増加させ始めています。
これは想定するにフィンテック等への対応を既に開始していることだと思われます。
他行が経費全体にしめる物件費の割合を「これから」増加させようとしている動きとは対比的といえます。
最大手には余裕があるということでしょうか。
三菱東京UFJ銀行はどのような局面にあるのか、今後想定される事態はどのようなものか
以上見てきた分析で言えることは何でしょうか。
筆者は以下の通り考えています。
- まず「デジタル技術を活用して23年度までに9,500人分の業務量を削減」ということですが、これも5年で9,500人分の「業務量を減らす」と言っているだけです。単純な人員数削減という観点でのリストラを意味する訳ではありません。
- 三菱東京UFJ銀行が今後狙うのは、人員の役割シフトです。定型的な事務をAI等のシステムに置き換え、行員にはクリエイティブな仕事に移ってもらいたいとしています。
- 他行よりもAI等への置き換えを真剣に検討していることは同行の発表したプレゼンで明らかです。
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- 筆者の勝手な想定ですが、3メガバンクの中で最もリストラを断行する可能性が高いのは三菱東京UFJ銀行ではないでしょうか。
- 上述の通りデジタルフォーメーションについてかなり真剣に検討し具体策が出てきていること、店舗の統廃合を進めていくことを公表していること、傘下の信託銀行の貸出業務を一本化していくこと等、フィンテックが普及し、マイナス金利が常態化する時代を見越して先手を次々と打っています。
- メガバンク最大手が、最も現状の環境に危機感を感じていると想定されるのです。
- よって、三菱東京UFJ銀行に今後起きるのは、業務の大胆な転換、事務的な発想をする銀行員の淘汰等企業風土改革、店舗の大幅廃止、リテール部門のスマホ対応・IT化等です。
- この数年は同行の銀行員にとって大きな変化が訪れる厳しい時期となるかもしれません。