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KNT-CT(近畿日本ツーリスト)に残された道は近鉄の完全子会社化ではないか

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旅行会社大手KNT-CTホールディングスが2021年3月期3Q決算の決算を発表しました。

もちろん決算は想定通り悪く、債務超過にまで転落しています。

今回はKNT-CTホールディングスの決算状況を確認すると共に、今後の動向について考察していきたいと思います。

 

業績概要

KNT-CTホールディングスの2021年3月期第3Q(2020年4~12月)の連結決算は、新型コロナウィルス感染拡大に伴う国内外旅行需要の激減により、売上高が前年同期比81.1%減の612億円となりました。

本業の損益である営業損失は▲262億円(前年同期は41億円の黒字)、最終損失は▲216億円(同26億円の利益)となり、前年同期と比べて大幅な赤字に転落しています。

この赤字計上により、2020年12月末時点で34億円の債務超過に陥り、自己資本比率は▲3.9%となっています。

更に2021年3月期の通期決算予想も下方修正し、最終損失は、従来予想の170億円から370億円となり、同社発足以来、最大の赤字となる見込みです。

はっきり言って良い情報は一つもありません。

また、募集していた希望退職にグループ全体の従業員約7,000人の2割にあたる1,376人が応募したこと、希望退職の募集結果に伴い発生する特別退職加算金等の費用は約60億円を見込んでいることを発表しています。

KNT-CTホールディングスは、大幅赤字に陥り、債務超過に転落し、従業員の2割が会社を去ることになりました。

 

今後の会社の方向性

KNT-CTホールディングスは中期経営計画も発表しています。

以下がその業績計画です。

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(出所 KNT-CTホールディングス「中期経営計画(骨子)(参考資料)」2021年2月9日)

一見して分かることは、コロナ禍からの自然的な回復を織り込んでいるところです。

2021年3月期の営業損益は▲355億円の見込みですが、2025年までに自然増減で+285億円を想定しています。

そして、コスト構造の見直し(組織再編、人員調整、働き方改革、事業転換等)によって+150億円とし、売上高の拡大施策で+50億円を計画しています。

当たり前といえば当たり前ですが、旅行会社は人が移動しないことには、経営が成り立ちません。コロナからの自然回復はどうやっても織り込まざるを得ないのでしょう。

そして、事業計画は、「コストをとにかく減らして」「新たな事業の芽を仕込みながら」「コロナからの回復を待つ」ということになるでしょう。当面は国内旅行中心ともなるのでしょう。

既報ではありますが、KNT-CTホールディングスは、傘下の近畿日本ツーリストの個人旅行店舗(全国で138店)を2022年3月末までに3分の1に減らし、団体向け旅行を担う店舗(同95店)も約70店に集約するとされています。また、約7,000人いる従業員は今回の希望退職で2割が減少しますが、そもそもの計画は2024年度末までに約7,000名の約3分の2にするとされています。よって、これからも従業員の整理は続くということになります。

尚、KNT-CTホールディングスは、コロナ禍からの回復が厳しく、少なくとも2025年度の業績計画において、売上高は2018年度(現在の中期経営計画スタート時)よりも下回ったままと想定しています。

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(出所 KNT-CTホールディングス「中期経営計画(骨子)(参考資料)」2021年2月9日)

 

資金繰り

KNT-CTホールディングスは、前述の通り2020年12月末時点で34億円の債務超過に陥り、自己資本比率は▲3.9%となっています。

債務超過にあるということは、倒産の危険性が高まっていることに他なりません。

では、KNT-CTホールディングスの資金繰りはどのようになっているのでしょうか。債務超過であったとしても、そして赤字であったとしても、資金繰りに支障が無ければ、企業は存続することができるからです。

KNT-CTホールディングスは2020年12月時点で504億円の現預金(親会社近鉄グループホールディングスへのキャッシュマネジメントシステムによる預け金含む)を保有しています。

また、銀行と300億円のコミットメントライン契約を締結しています。コミットメントラインはいつでも融資を引き出せる枠ですので、実質的には現金を保有しているのと効果は一緒です。

一方で、借入金はありません。そのため、銀行への借金が返せずに破綻に追い込まれるようなことを想定する必要はありません。

KNT-CTホールディングスは、2020年3月期において、いわゆる一般的なコストである販管費は689億円でした。減価償却費は11億円しかありませんので、この販管費のほとんどは外部に出ていく(資金が流出する)コストと想定されます。2020年3月期においては371億円が人件費、123億円が販売経費、57億円が不動産賃借・維持費用でした。

2021年3月期は4~12月までで381億円の販管費となっており、これは通年ペースに換算すると509億円に相当します。

そうすると、非常に簡単に試算すると、KNT-CTホールディングスは現時点では年間500億円の資金流出(コスト)が発生する企業であり、一方で手元資金は500億円あり、更に借入枠として300億円を確保していることになります。

今後は更に人件費含めてコスト削減が進むことを考えあわせると、KNT-CTホールディングスは債務超過に転落していたとしても、少なくとも1年間は(売上が立たなかったとしても)資金繰りでの破綻は想定しづらいことになります。

 

所見

コロナ影響が終わり、国内外の旅行需要がコロナ前の水準にいつ戻るかは現時点では誰にでも分からないのではないでしょうか。

そして、KNT-CTホールディングスが自ら計画に織り込んでいるように、旅行需要はコロナ前の水準には戻らないことを覚悟しておいた方が良いでしょう。

また、店舗型の旅行代理店である近畿日本ツーリストを傘下にするKNT-CTホールディングスは、ネット販売では後れを取っています。計画通りに旅客需要を取り込めるかは分かりません。

このようなことを考えていくと、筆者はKNT-CTホールディングスが自力で苦境を脱出するのは難しいのではないかと考えています。

KNT-CTホールディングスは上場してはいますが、近鉄グループホールディングスの傘下企業でもあります。親会社である近鉄グループホールディングスもコロナ禍において非常に業績は苦戦していますが、資産売却等を行えばまだ余裕はあります。

コロナ禍において、旅行会社を買収しようと考える企業は少ないでしょう。外部からの資本調達は望み薄です。

そう考えると、もう少し株価が下落したところで(近鉄グループホールディングスの負担が低下するタイミングで)、親会社の完全子会社になるというのがKNT-CTホールディングスが資本を調達し、今後も生き残っていくための道なのではないかと筆者は考えます。債務超過に転落したこのタイミングでも資本増強の発表が無かったのは、そのような流れを想定しているのではないかと想定しています。

但し、これはKNT-CTホールディングスからの目線であって、近鉄グループホールディングスが事業領域を見直す中で、「従前型の旅行会社は不要」と考える可能性も捨てきれません。この場合には、KNT-CTホールディングスは結果として更なるコスト削減にまい進し自力で再生するか、良い条件で外部の第三者に身売りするか、という選択肢を迫られることになります。

KNT-CTホールディングスの動向には暫く目が離せなさそうです。