銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行員数という観点でリストラが遅れているのは第一地銀である事実

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銀行が「構造不況業種」と言われて久しい状況が続いています。

特に、地方銀行の苦境は、新首相が「地銀の数が多すぎる」と発言していると報道されていることからも、一般に認識されてきているでしょう。

メガバンクもRPAやAIを導入し業務量の削減、新卒採用の抑制による人員減等の動きがあります。

銀行のコストは主に物件費と人件費です。

物件費はシステムコストと店舗コストであり、このうち特に店舗コストの削減については各銀行が取り組んでいる最中でしょう。

そして、店舗が減少し、業務量が減少するのであれば、もちろん銀行員も必要無くなるでしょう。特に支店で業務を行う窓口業務や事務が減少していくからです。

今回は、全国の「銀行員数の推移」について焦点を当て、銀行の現状について確認してみることにします。

 

銀行員数の推移 

では、苦境にある銀行員の人数は減少しているのでしょうか。

全国銀行協会の統計データを基に確認しましょう。

以下は2001年3月~2020年3月までの20年間にわたる銀行員数の推移となります。

決算期 全体(人) 都市銀行 第一地銀 第二地銀
2001/3 352,805 113,140 147,966 62,855
2002/3 332,730 104,847 141,237 59,830
2003/3 321,181 101,958 135,623 57,446
2004/3 302,028 93,412 130,213 53,421
2005/3 288,032 86,764 126,944 49,791
2006/3 282,638 85,531 124,274 48,542
2007/3 282,101 84,695 124,911 47,840
2008/3 286,273 86,826 126,634 48,194
2009/3 294,801 91,142 129,498 49,054
2010/3 300,709 94,613 132,692 48,555
2011/3 300,243 94,000 133,413 47,916
2012/3 298,128 92,859 132,888 47,395
2013/3 295,045 91,808 132,428 45,984
2014/3 292,910 91,101 131,623 45,253
2015/3 294,442 93,416 130,818 44,889
2016/3 296,595 95,107 130,788 44,825
2017/3 299,462 97,601 130,944 44,790
2018/3 299,121 97,837 130,509 44,344
2019/3 294,279 95,922 130,101 41,734
2020/3 286,112 92,826 128,977 37,682

(※職員数は事務系職員、庶務系職員、出向職員および在外勤務者の在籍総数。ただし、長欠・休職者を含め、嘱託・臨時雇員を除く。また、全体数には信託銀行4行および新生銀行・あおぞら銀行含む) 

(出所 全国銀行協会/統計資料)

これだけ見ると分かりづらいかもしれません。以下は上記データを図表化したものです。

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(出所 全国銀行協会/統計資料)

銀行員数全体は20年で約2割減少しました。

全国銀行協会がWeb上で公開している銀行員数の統計は2001年3月末からですが、2000年代初頭は不良債権処理時代であり、銀行員の数は大幅に縮小しました。

2000年代後半になると不動産ファンドが隆盛となり景気が持ち直します。従業員が少なくなり過ぎた銀行も採用を増やします。

それがリーマンショックよって景況が悪化し、かつ東日本大震災が起き、アベノミクスのスタートにより低金利時代が続きます。

リーマンショック後も都市銀行や第一地銀はあまり人員数が増減していません。一方で、第二地銀は人員数を継続して減少させてきました。

そして近時は主に第二地銀と都市銀行が人員数の減少に動いています。

この20年で全体の銀行員数は▲19%となりました。

業態別の内訳では、都市銀行は▲18%、第一地銀は▲13%、第二地銀は▲40%となります。

この20年、銀行員数という観点で安定的に経営してきたのは地元の雄である第一地銀であり、一方で地元の二番手であることが多い第二地銀は銀行員数を大幅に減少させてきたのです。

 

所見

銀行員数という観点からは、メガバンクを中心とした都市銀行が適正化に向けて動き出しています。

また、従前から収益が厳しかった第二地銀は人員数を大幅に減少させてきました。

一方で、銀行員数という観点で最もリストラがなされていないのが第一地銀です。

日銀のマイナス金利を含む金融緩和政策は、すぐに出口を迎える可能性は限りなく低いでしょう。経済状況のみならず、日本政府の財政を破綻させかねないため、金利の上昇を簡単に行うことはできないからです。

すなわち、時限的に導入されたように思われたマイナス金利政策、そして日本の低金利環境は、常態化すると考えていた方が良いのでしょう。

銀行はこのような環境下で、本業の収益力を低下させてきました。

誤解を恐れずに言えば、国債に投資するとマイナス金利のため損するので市場での運用ができなくなり、資金ニーズが限られる法人や個人の貸出分野において低金利で貸出競争をするしかなかったのです。

この傾向はコロナ禍の中で一時的に変化しています。次々と借入相談がなされたからです。しかし、低金利環境の背景も、競争環境の背景も変わっていません。そのため、コロナで一時的に資金需要があったとしても、すぐに銀行の経営環境は厳しい状況に戻るでしょう。

筆者は、経営基盤の弱い第二地銀はこれからも統合やリストラを模索していくのは間違いないと思いますが、同時に第一地銀も厳しいリストラを加速させるものと想定しています。