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メガバンクの3.2万人リストラ報道について考える~三井住友銀行の事例~

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「3銀行大リストラ時代 3.2万人分業務削減へ」(日本経済新聞、2017年10月28日記事)という記事をご覧になった方も多いのではないでしょうか。

マイナス金利政策の影響による収益減、国内人口減等を背景に、店舗閉鎖によるコスト削減、AI活用による業務量削減への対応としてメガバンクが人員を削減すると発表・報道されています。

今回はシリーズでこのメガバンクの人員リストラ問題について考察します。

まずはメガバンク中、最も収益力が高いと筆者が認識している三井住友銀行についてみていくことに致します。

発表内容・報道内容

現在、メガバンクの人員について報道されている内容の概要は以下の通りです。

  • みずほフィナンシャルグループでは事務作業の無駄を省くことで、2021年度に8,000人分、26年度までに1万9,000人分の業務量を削減
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループでは、デジタル技術を活用して23年度までに9500人分の業務量を削減
  • 三井住友フィナンシャルグループでは、事務の集約により20年度までに4,000人を事業部門へ再配置
  • 以上、3メガバンクグループで「3万2000人」の業務量削減

www.asahi.com

ここで間違ってはいけないのは「業務量の削減」「人員の再配置」といっているだけであり、単純に「人員(人数)を削減」するとは発表・報道されていないということです。

冷静に分析していくために、各メガバンクの中核行の人員数や人件費について以下で簡単にみていきます。

今回は三井住友銀行の事例です。

人員数分析

三井住友銀行が不良債権処理から脱却し、人材採用の面でも攻めに転じたのは2007年3月期からといえるでしょう。

数字で見ると以下の通りとなります。なお、以下の数字はすべて三井住友銀行「単体」での数値となります。

正社員数=2003年3月末:19,797名→2006年3月末:16,050名→2007年3月末:16,407名→2008年3月末:17,886名2009年3月末:21,816名→2010年3月末:22,460名

わずか数年の間に急激に正社員数が増加したことがわかるでしょう。

そして、近時では再度人員数の増加が加速してきました。(なお以下の臨時従業員とはいわゆる非正規雇用のことです)

2012年3月末:正社員22,686名+臨時従業員395名

2013年3月末:正社員22,569名+臨時従業員1,813名

2014年3月末:正社員22,915名+臨時従業員7,359名

2015年3月末:正社員26,416名+臨時従業員7,741名

2016年3月末:正社員28,002名+臨時従業員7,912名

2017年3月末:正社員29,283名+臨時従業員数7,870名

どの銀行も法令対応、海外業務拡大等で人員のひっ迫感が強いのでしょうが、三井住友銀行の人員数の増加はかなりのインパクトです。

この15年間で、最も従業員数(正規・非正規含む)が少なかった際の従業員数は2006年3月末の16,332名ですが、2017年3月末では37,153名と、わずか11年で約2.3倍まで従業員数が増加しています。

人件費分析

上記の通り三井住友銀行の人員数は大きく増加しています。

では人件費はどのようになっているのでしょうか。

上述の従業員数が少なかった2006年3月期と直近の2017年3月期の人件費を比べてみましょう。

人件費(正規・非正規従業員合算)=2006年3月期:192,359百万円→2017年3月期:332,031百万円

これは、11年間で人件費は約1.7倍の水準に膨らんでいるということです。

しかし留意すべきなのは、前述の通り従業員数は2.3倍でした。すなわち、人員数の増加の割に一人当たりの人件費は増えていないということです。

これを端的に表すのが臨時従業員(非正規雇用)の増加です。前述の通り2012年3月末には395名しかいなかった臨時従業員が2017年3月末には7,870名まで増加(=約20倍)しているのです。

時系列でみた一人当たりの人件費の推移は以下の通りとなっています。

(なお、人件費は年金等退職給付費用が含まれており、年金の運用がうまくいかず人件費増となっているケースもありますので、一人当たりの賃金を正確に表している訳ではありませんが、傾向値としては参考となります)

2003年3月期:12.5百万円

2007年3月期:11.4百万円

2009年3月期:10.7百万円(正社員中心時期の底)

2012年3月期:11.3百万円(直近ピーク)

2014年3月期:9.4百万円(非正規雇用大幅増)

2015年3月期:9.2百万円

2016年3月期:9.0百万円

2017年3月期:8.9百万円

三井住友銀行の場合、人件費面では非正規雇用者の活用を行い一人当たりの人件費増を抑制してきたことが明らかです。

経費に占める人件費と物件費の割合

銀行の人員数・人件費について分析していく際には、総額の営業経費に占める人件費と物件費の割合を比較する観点が外せません。

これは銀行がシステムによってビジネスをしている側面が多い(例:送金手数料)ためです。

経費に占める人件費と物件費の割合は以下の通りで推移しています。

(なお、物件費には店舗賃借料のみならず、システム経費が含まれます

2005年3月期:人件費39.2%、物件費55.3%

2007年3月期:人件費31.6%、物件費62.6%(人件費の比率最低)

2010年3月期:人件費35.8%、物件費58.8%

2014年3月期:人件費38.0%、物件費57.0%

2017年3月期:人件費40.6%、物件費53.2%

上記の通り、この10年近く一貫して経費内で人件費の割合が上昇していることが分かります。

三井住友銀行はどのような局面にあるのか、今後想定される事態はどのようなものか

以上見てきた分析で言えることは何でしょうか。

筆者は以下の通り考えています。

  • まず、発表・報道の通り三井住友銀行は4,000名の業務量削減を目指すことは間違いありません。
  • しかし、それは単純な人員数削減という観点でのリストラを意味する訳ではありません。
  • 正確には4,000名の「事務量をAI等も活用しながら削減」し、その事務量削減で浮いた人員を営業等へ再配置したいということです。
  • この動きをサポートするのが経費に占める物件費の割合低下です。すなわち、三井住友銀行はシステムを追加で開発できる状況になってきたということです。
  • この状況を利用して、フィンテックを始めとした攻めの施策に加えて、内部事務量の削減を目指すのです。
  • 従って、三井住友銀行に今後起きると想定されることは、事務から営業等への人員シフトであり、人員の削減とは異なります。
  • 加えて、フィンテック・IT・デジタル対応として余剰の店舗削減等物件費の低下も当然に狙っていくでしょう。ですから、支店での事務・総務を行っている銀行員が本部事務セクション・センターへの異動もしくは営業への配置転換を迫られるというのは十分にありそうです。
  • なお、人員構成を考えると今後はバブル期の大量採用世代が50歳を超え出向時期に差し掛かります。この世代が退職していくだけでもかなりの人員数が今後自然に減少していくのです。よって、大量の人員がリストラされるイメージは正しくはないでしょう。
  • またあえて付言すれば、4,000名の人員を削減するならば非正規雇用から削減されていくことになるでしょう。三井住友銀行には約8,000名弱の臨時従業員がいる訳ですから、この人員を契約期限到来時に更新しないのであれば人員削減は可能なのです。
  • 特にこれから有期雇用契約の無期雇用契約への転換がなされ始めます。このタイミングでは臨時従業員(=有期雇用社員)の雇止めが大量に起こる可能性もあるのです。以下は参考記事です。

www.financepensionrealestate.work

以上が筆者が考える三井住友銀行における今後の人員数・人件費に関する想定です。

 

なお、みずほ銀行、三菱東京UFJ 銀行等については以下の記事をご参照下さい。