銀行員のための教科書

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日独GDP逆転の要因と考えるべきこと

日本のGDP (名日国内総生産)がドイツに抜かれ世界4位に転落したと大きく報じられています。日独のGDP逆転は1968年以来となります。

日本は2010年に中国に抜かれて以来、世界3位のGDPでしたが、ついに4位まで転落してしまったことになります。

なぜ日本はドイツにGDPでの逆転を許してしまったのでしょうか。今回は、日独のGDP逆転について少し確認してみたいと思います。

 

日独のGDP

日本の2023年のGDPは591兆4,820億円でした。

一方でドイツのGDPは4兆1,211億ユーロでした。

両国のGDPは通貨が一緒ではありませんので、単純には比較できません。そのため、世界で最も使われている通貨であるドルに両国のGDPを換算して比較することが一般的です。

2023年の為替平均レートにおいてドル換算すると、日本は4兆2,106億ドルとなった一方で、ドイツは4兆4,561億ドルとなり、日本はドイツよりも約2,400億ドル少なく世界4位に転落しています。

ちなみにGDPの世界5位はインドであり3.7兆ドルとなっています。インドは2023年に中国を抜いて人口世界一となりました。人口の3分の2以上がいわゆる生産年齢(15~64 歳)であり、今後も高い経済成長が予想されています。そのためインドは2026年にも名目GDPで日本を上回り世界4位の経済大国に浮上すると予測されています。日本はドイツに抜かれたのみならず、インドにも早晩抜かれることになります。

 

GDP逆転の理由

2023年の日本の名目GDP成長率は物価上昇の影響もあり+5.7%でした。これだけの成長率であったのに、ドル建てのGDPは▲1.6%となっています。これは大幅な円安進行に伴うものです。一方で、ドイツはユーロ高がドル建てGDPを押し上げています。

コロナ禍において、日本は成長率ではドイツに引けを取っていませんが、為替要因と物価要因で差をつけられています。

以下は第一生命経済研究所が発表している「日独GDP逆転の背景を確認してみる」からの引用です。

<日本のドル建てGDPの要因分解>

(出所 第一生命経済研究所「日独GDP逆転の背景を確認してみる」)

2020年以降の3年間のドル建てGDPの累積変化をみると、日本では円建てのGDP成長率要因が+5.6%、物価要因が+3.9%だったもの、為替要因が▲23.9%となり、トータルで は▲16.6%となっています。

<ドイツのドル建てGDPの要因分解>

(出所 第一生命経済研究所「日独GDP逆転の背景を確認してみる」)

ドイツでは為替要因による押し下げが▲5.3%と日本ほどの下げにならなかった一方で、物価要因が+15.6%、成長率要因は+5.0%でした。

この3年間の日本とドイツのドル建てGDPの逆転要因は、日本が大幅な円安でドル建てのGDPが大きく減少し、ドイツのインフレ率が高かったことが理由となります。自国通貨建ての成長率だけであれば、両国にはそこまでの差はありませんでした。

 

所見

日独のGDP 逆転は、円安とドイツの高インフレが主な要因ということになります。

日本の歴史的な円安は皆さんも良くご存知のところです。様々な見方があるかとは思いますが、主には日米の金利差が影響しているものと思われます。

一方で、ドイツの高インフレの要因は、主にエネルギー価格の急騰にあります。ロシアのウクライナ侵攻によりドイツはロシアからの天然ガス輸入を絞り、エネルギー高が続いています。ドイツはエネルギー要因で物価が上昇しており、コストが急上昇している訳です。従って、ドイツの景気が良い訳ではありません。

2023年の実質GDP成長率(自国通貨建)は、日本は+1.9%だったのに対して、ドイツは▲0.1%とコロナの感染拡大時以来のマイナス成長に転落しています。

この数字だけを見れば、日本のGDPが世界4位に転落したのは為替の要因であり、GDPの成長率では日本の方が良いのだから日本がドイツに劣っている訳ではない、もしくは騒ぎすぎであると考える方もいるでしょう。

但し、ここで忘れていけないのは、日独の人口の差です。

ドイツは日本の外務省のデータ(2023年6月時点)によれば8,482万人です。一方、日本の人口は2023年9月時点で1億2,434万人です(総務省統計局/人口推計)。ドイツの人口は日本の7割弱しかいません。それなのに、少なくともドル建てで比べるとドイツの方がGDPの規模が上なのです。すなわち、国民一人当たりのGDPでは、日本が大きく負けているのです。

2022年のIMF統計によれば、国民一人当たりの名目GDPは以下の通りです。

  • 米国 76,343 ドル
  • ドイツ 48,756 ドル
  • 日本 33,854 ドル

日本の一人当たりGDPは米国の44%、ドイツの69%です。

国全体の GDP 規模も大事ですが、我々個人にとっては一人当たりGDPの方がよほど重要です。これは個人としての生活の豊かさに関わってくるからです。

この点で、元から日本はドイツに大差を付けられています (米国とは更に差があります)。ドイツにGDPで抜かれた要因が為替とインフレだからといって安心して良い訳ではありません。ただ、逆に「日本はダメだ。ドイツは優れているので見習うべきだ。」という発想も単純すぎます。

日本は円安である間に国内の製造業を立て直す努力はすべきですし、円安を放置することが良いかも検証すべきです。なぜ物価が低迷してきたのか、なぜ国民一人当たりのGDPが低いのか、人口減少へどのように対応していくべきなのか等々、考える必要のあることは山積みですし、早く対応策を決めて実行していくことも必要です。

日独GDPの逆転、日本のGDPが世界4位に転落したという衝撃的な事実を糧に、今から でも遅くないので対応策を国全体として真剣に考えていくべきでしょう。