銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

輸入物価の上昇と円安

円安が止まりません。

ご承知の通り、1ドル130円を突破するのは約20年ぶりの円安水準です。

円安が加速する一方で、昨年後半に入ってからは物価の上昇が続いています。

ガソリン、電気代、都市ガス代のような生活に関わるコストが上昇しているだけでなく、食パン、パスタ、マーガリン、コーヒー豆のような食品も値上がりが続きます。

まさに値上げラッシュの春です。2022年3月の消費者物価指数は、原油価格の高騰などで2年2ヵ月ぶりの高い伸びとなっています。

一方で、政府が引き上げに動いてはいるものの、我々の所得が上昇するイメージは持ちづらくなっています。

今回は、我々の生活に影響を及ぼしている輸入物価の上昇と円安について、少し皆さんと確認していきたいと思います。

 

物価上昇

まずは、足下の日本における消費者物価がどのようになっているかを確認しましょう。

以下は消費者物価指数の月次推移です。

(出所 2020年基準消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)3月分)

この表を見ると分かることがあります。

  • 総合指数が昨年9月から上昇に転じていること
  • 足もとでは指数の上昇率が高くなってきているように思われること
  • 生鮮食品およびエネルギーを除くと消費者物価指数はマイナスのままであること

すなわち、日本において物価が上昇していると感じられる要因は、ほとんど生鮮食品とエネルギーにあるのです。

もう少し詳しく見ていきましょう。以下は10大費目の指数です。

(出所 2020年基準消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)3月分)

これを見ると食品が前年同月比で+3.4%、特に生鮮食品は同+11.6%となっていること、そして光熱・水道が同+16.4%となっていることが分かるでしょう。

食料については、2022年3月の消費者物価指数の発表資料には、以下のように記載がなされています。

  • 生鮮野菜 11.3% ・・・・・ たまねぎ 74.9%など
  • 生鮮魚介 13.6% ・・・・・ まぐろ 19.5%など
  • 生鮮果物 9.8% ・・・・・ りんご 33.8%など
  • 調理食品 2.3% ・・・・・ 調理カレー 10.7%など
  • 肉類 2.6% ・・・・・ 牛肉(輸入品)10.4%など
  • 外食 1.2% ・・・・・ 牛丼(外食)9.2%など
  • 油脂・調味料 4.6% ・・・・・ 食用油 34.7%など

このように生鮮野菜・魚介・果物が大幅に値上がりし、油脂・調味料も値上がりが急です。輸入品の牛肉、そしてそれを使う牛丼(外食)も大幅な値上げとなっています。

また、光熱・水道、そして交通・通信では以下の通りとなっています。

  • 電気代 21.6%
  • ガス代 18.1% ・・・・・ 都市ガス代 25.3%など
  • 他の光熱 30.6% ・・・・・ 灯油 30.6%
  • 自動車等関係費 3.8% ・・・・・ ガソリン 19.4%など

エネルギー関連も大幅な値上げです。

日本は、食料とエネルギーの値上げラッシュの中にいることになります。

 

円安が物価上昇要因なのか

ドル円のレートは、2022年1月31日の終値は115.07円、2月28日の終値は114.95円、3月31日の終値は121.69円です。

2月の1カ月でドル円は0.1%の円高、3月の1カ月でドル円は5.8%の円安となりました。

ちなみに2021年10月29日のドル円のレートは113.96円です。すなわち足下では3月に入ってから円安が加速しているのです。

それに対して上記の通り、消費者物価は電気代やガソリン代が3月だけで2割程度上昇しています。電気代やガソリン代は当然ながら原油等の輸入価格に影響されますが、その輸入価格は相応に以前から決まっているはずです。円安となったからといってすぐに販売価格に転嫁されるものでもないでしょう。すなわち、最近の値上げ要因は円安だけでは説明できません。

最近の値上げの要因は、コロナ禍での供給制約や経済の再開に伴う需要増加による、原材料価格の上昇なのです。更に、ロシアのウクライナ侵略に伴い、ロシアが主要輸出国となっている原油や天然ガス、小麦をはじめとする穀物などの商品価格が上昇し、燃料や原材料価格が上昇していることが、最近の値上げ要因ということになります。

 

今後について

4月28日に開催された日銀の金融政策決定会合では、金融緩和政策の継続を決めたのみならず、長期金利を抑制する国債の「指値オペ」を毎日実施することが決定されました。これは、0.25%を超える長期金利の上昇を日銀は決して認めないということを高らかに宣言したことになります。

この施策によって、日銀は円安を抑制する道を断たれた可能性があります。円安リスクの軽減に資するのは長期金利の上昇を一定程度は容認することだったと筆者は考えています。ところが、日銀はこの方法を自ら封印してしまいました。近時の円安は、日米の金利差が影響しているものと思われますので、金利差を縮小する方向に柔軟性を発揮できなくなったということになります。

このまま円安が加速していった場合には、悪い円安であるとして、日銀が批判にさらされる可能性はあるでしょう。しかし、日銀としては、近時の物価上昇は円安要因ではないと考えているでしょうから、円安に歯止めをかけても無意味であるとして、円安阻止に動かない可能性もあります。

これが日本の現状であり、円安が続く可能性は十分にあるということです。