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「全く喜べない」年率6%増加したGDPの裏側

日本の2023年2Q(4~6月)の国内総生産=GDPが発表されました。年率換算で+6.0%という数字は市場の予想を大きく上回るサプライズとなったと思われます。

日本は景気が良くなってきたのでしょうか。それともこの数字には何か落とし穴があるのでしょうか。

今回は直近で発表されたGDPについて、簡単に内容を見ておきたいと思います。

 

GDP の速報値

2023年4~6月期のGDPは物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比年率6.0%増 (4~6月だけでは年率1.5%増)となりました。このGDP成長率は2020年10~12月以来の大幅な伸びです。この時期はコロナの影響により大幅に落ち込みがあった反動で一時的にGDPが回復した時期でした。今回は、円安もあり日本製品が安くなり輸出が増加したためと報道で説明されていたり、4月末に政府が入国制限を解除したことからインバウンド消費が高まった(サービスの輸出という形で統計上は集計される)との報道もあります。そういう観点では、本当の意味で日本経済が復調にあると考える人もいるでしょう。実質GDPは年換算で560.7兆円となり、過去最高となっています。3四半期連続のプラス成長であり、日本経済が成長軌道に乗ったと思えるかもしれません。

しかしながら、 数字は冷静に見る必要があります。今回のGDP上昇の本当の主役は、輸入の落ち込みです。液化天然ガス(LNG)とワクチン、スマートフォン等が落ち込んだ為にGDPが大幅上昇したと客観的に報道しているマスコミは多いようです。この詳細を次の項目で見ていくようにしましょう。

 

GDP の中身

今回の1.5%増(年率換算6.0%増)のGDPの中身をざっくりと把握するには、内閣府が発

表している 「2023年4-6月期GDP速報 (1次速報値)~ ポイント解説〜」が有効です。その中では以下のコメントがあります。

「実質GDP成長率(季節調整済前期比))に対する内外需別の寄与度を見ると、国内需要(内需)は▲0.3%と2四半期ぶりのマイナス寄与となった。財貨・サービスの純輸出(外需)は 1.8%と2四半期ぶりのブラス寄与となった。」

すなわち、今回のGDPの大幅成長は、内需はマイナス成長だったものの、外需が強くてGDPが増加したことになります。

まず、内需ですが、民間最終消費支出については、実質▲0.5%と3四半期ぶりの減少となっています。外食や宿泊等が増加に寄与した一方で、飲食料品や白物家電等が減少に寄与したとみられています。要は、価格が高くなったので個人は消費を控えていると言って良いでしょう。また、民間住宅については、実質1.9%増と3四半期連続の増加となり、民間企業設備については、実質0.0%増、民間在庫変動は実質▲0.2%となりました。政府の最終消費支出は実質0.1%増でありほぼ横ばいです。

一方で、輸出入の動向では、財貨・サービスの輸出については、実質3.2%増と2四半期ぶりの増加となりました。自動車や旅行(訪日外国人の国内消費)等が増加に寄与したとみられると内閣府はコメントしています。

財貨・サービスの輸入については、実質▲4.3%と3四半期連続の減少となりましたが、鉱物性燃料(LNG等)、医薬品(ワクチン等)、携帯電話機等が減少に寄与したとみられています。これを一覧としたものが以下となります。

<四半期別の実質成長率(季節調整系列)>

(出所 内閣府「2023年4~6月期四半期別GDP速報(1次速報値)」)

実質GDP1.5%増への寄与という観点では、民間需要が▲0.4%、公的需要が+0.1%、財貨・サービスの輸出が+0.7%、財貨・サービスの輸入が+1.1%となっています。GDPの計算というのは、財貨・サービスの純輸出がGDPの増加に寄与することになっていますが、この純輸出というのは、輸出から輸入を差し引いた(控除した)ものとなり、輸入が減少するということは、輸出が増加したことと同じ効果をもたらします。今回のGDP 増加は、本当に単純化すれば輸出が増えた以上に輸入が減少したことで、大幅な伸びになったのです。これは単なる統計の計算式によるものと思っても誤解はないでしょう。

 

GDPの裏側にあるもの

財貨・サービスの輸出が増加したことは日本経済にとっては喜ばしいことです。一方で、財貨サービスの輸入については、国内の需要低迷で輸入が大幅に減少したと考えても間違いはないでしょう。「GDPが増えたから良い」ということではなく、国内の需要が低迷したからGDPが増えたということは、要は経済が弱いということに他なりません。GDPの過半を占める民間需要が低調で、それを反映して輸入も落ち込んでいる、これが2023年4~6月の日本の姿です。GDPが増加しても全く喜べるものではありません。

日本の実質賃金は6月までで15ヵ月連続の前年割れです。物価上昇が賃金の伸びを上回っており、家計は苦しくなっているのです。少なくとも個人から見た日本経済は回復していません。統計で発表された数字に惑わされず、我々は日本経済を見ておかなければなりません。