銀行員のための教科書

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日本はいつまでもデフレの世の中ではないかもしれない

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世界中で様々な商品価格が上昇しています。

原油価格はバレル当たり90ドルを突破し、7年ぶりの高値を記録しました。そして、原油価格の高騰が響き、ガソリンや灯油の国内全国平均価格は13年ぶりの高値に上昇しています。

また今年に入ってからは、パンやお菓子等も次々と値上げされている報道をご覧になった方もいるでしょう。

日本ではまだまだ消費者物価指数(CPI)は上昇が限定的ですが、2022年1月の米消費者物価指数は前年同月比7.5%の大幅上昇となっています。

このような商品価格の上昇は我々にどのような影響を与えるのでしょうか。

今回は物価上昇について少し確認していきましょう。

 

原油・原材料価格上昇の影響

今回の記事では、日本の全体像を見る観点から「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて-令和4年2月」と題した内閣府政策統括官(経済財政分析担当)が発表した報告書から抜粋、引用、加筆修正をしています(分かりやすく文書を換えたようなものです)。

 

原油・原材料価格の高騰が続いています。但し、日本においては、あくまで企業間の取引における価格上昇であると捉えられている傾向にあり、消費者が購入する商品にはまだまだ転嫁されていません。

しかし、原油・原材料価格の高騰を通じた企業価格の上昇は、最終財価格に転嫁されることで、消費者物価にも波及する可能性があります。 

消費者物価の動向について、「生鮮食品を除く総合」の前年比でみると、2020年後半から翌年初にかけて原油価格低下の影響もあってマイナスとなったものの、2021年初以降は、ガソリン等のエネルギーがプラス寄与したことで上昇に転じ、2021年4月以降は前年比プラスで推移していることが分かります。

<生鮮食品を除く総合の寄与度分解>

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(出所 「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて」)

上記グラフを見ると分かるように、原油価格が一段と高水準となった 2021年後半は、前年比1%弱程度で緩やかに上昇しています。 

家計のエネルギー価格の高騰は、低所得者に対してより大きな影響を与えます。電気代をはじめとしたエネルギー関連品目は、生活に必要不可欠な必需品であり、価格が上昇したとしてもすぐに消費を減らすわけにはいきません。このため、世帯収入が低くなるにつれて、家計全体に占めるエネルギーの支出割合が高くなり、価格上昇による負担感も相対的に大きくなることになります。

家計のエネルギー関連品目(電気代、ガス代、灯油代、ガソリン代)への消費支出額について、価格上昇による2021年11月時点の前年比負担増加額(年額換算)を年間収入ののグループで分けて(第1~第5分位までに分割)試算すると、第1分位(平均年間収入255万円)が21,190円である一方で、第5分位(平均年間収入1,217万円)が29,461円となっており、高収入であるほど増額分の水準自体は大きいことが以下のグラフで分かります。尚、各分位の平均年間収入は、第1分位 255万円、第2分位 391万円、第3分位 536万円、第4分位 732万円、第5分位 1,217万円となっています。

<前年平均からのエネルギー負担増加額と収入比(2021年11月、年換算)>

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(出所 「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて」)

一方で、収入に占める割合は、所得水準が最も高い第5分位(平均年間収入1,217万円)が0.24%であるのに対して、第1分位(平均年間収入255万円)はその約3倍の0.83%と最も大きく、収入が低いグループ(分位)ほど負担感が相対的に大きくなっています。 

またエネルギー価格の高騰は、家計に占める暖房費の割合が高い地域を中心に負担増となります。「生鮮食品を除く総合」の消費者物価指数を見ていくと、地域別では、北海道、東北、北陸といった寒冷地では灯油代などの押上げ幅が他地域よりも大きいことが分かります。

<地域別の「生鮮食品を除く総合」の寄与度分解(2021年11月)>

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(出所 「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて」)
このように「生鮮食品を除く総合」の消費者物価は、原油を含む資源価格上昇の影響を反映して緩やかに上昇しており、特に低所得者や寒冷地に対してより大きな影響を与えていることになります。

 

消費者の物価上昇の期待への影響

今まではエネルギーに注目してきました。

しかし、エネルギー以外の品目にも目を向けると、2020年末以降、食料品全般の価格上昇が続いていることが分かります。

食料品価格高騰の背景としては、産地の天候不順など品目ごとの個別の要因に加えて、感染症からの急激な経済回復などによる海上運賃の高騰や中国の旺盛な需要などが挙げられます。例えば、北米の天候不順や中国の輸入量増加、海上運賃の上昇により輸入小麦の価格は高騰しており、各社も小麦粉等の値上げを行っています。 

この食料品の価格上昇も個人消費に影響を与えることは間違いありません。

但し、食料品の前年比負担増加額を試算すると、第5分位(平均年間収入1,217万円)で年9,492円、収入比では第1分位(平均年間収入255万円)で0.21%と、エネルギーに比べて相対的に小さいことは間違いありません。

<前年平均からの食料品(生鮮食品を除く)負担増加額と収入比(2021年11月、年換算)>

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(出所 「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて」)

ただし、食料品は購入頻度が高い品目が多く、消費者が生活の中でその価格変化に直面しやすい商品だけに、その価格上昇は消費者心理に大きな影響を与えると考えられています。

消費者物価指数の品目を購入頻度別に区分けし、前月比で価格が上昇した品目数の1~11月各月の割合を平均すると、過去3年間の同時期と比較して、購入頻度が高い品目グループはその割合が大きくなっていることが分かります。

<購入頻度別の前月比で上昇した品目数の月ごとの割合(各年1~11月の平均)>

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(出所 「日本経済2021-2022-成長と分配の好循環実現に向けて」)

これは購入頻度が高い品目グループほど、食料品の占める割合が高くなっているためです。特に「月2回以上」購入する品目グループは、その約9割が食料品で構成されているため、生活の中で食料品価格上昇に頻繁に直面する消費者の物価上昇期待を押し上げていると考えられます。 

食料品への支出は消費者の総消費支出の約3割を占めており、このような食料品価格上昇の更なる広がりが消費者心理等に与える影響には注意が必要であると、政府の報告書はまとめています。

 

まとめ

エネルギーも食料品も価格が上昇してきています。

この要因は、外部要因であることが多いものではありますが、それだけに日本国内だけで問題は片付きません。

物価の上昇はエネルギー関連が低所得者と寒冷地域に影響をもたらしています。

そして、食料品の価格の継続的な上昇は、消費者心理に大きな影響を与えるものと想定されます。

日本は長らくデフレの世の中に慣れてきました。しかし、世界は物価上昇が著しい局面に入っています。日本でも物価上昇が加速する下地は整って来ているのではないでしょうか。

日本の物価動向には油断しない方が良いように筆者は考え始めています。皆さんは如何でしょうか。