米証券取引委員会(SEC)が暗号資産(日本政府や当局は暗号資産と読んでいますが、仮想通貨の方が一般的な名称と思います)であるビットコインを運用対象とする上場投資信託(ETF)の上場申請を初めて承認しました。
そして、1月11日から米資産運用大手のブラックロックやフィデリティ、アーク・インベストメンツ等が承認申請していたETFに加え、グレースケール・インベストメンツが求めていたビットコインで運用する未上場投資信託の転換ETFが米国の証券取引所で取引可能となっています。
仮想通貨やビットコインは「億り人」という言葉でも有名です。億り人とは仮想通貨や株取引で億単位の資産を築いた人のことを言います。それほどにビットコインは世に送り出されてから投機(投資)の対象となり、価格が上昇してきました。
今回ビットコインETFが米国で上場承認されましたが、そもそもビットコインETFとはどのようなものなのでしょうか。そしてこのビットコインETFの誕生はどのような意味を持つのでしょうか。ビットコインETFについて簡単に確認してみたいと思います。
ビットコインETFが登場してきた背景
今まで、投資家は現物のビットコインを、暗号資産(仮想通貨)交換業者、いわゆる取引所 (東京証券取引所のような公的な取引所ではありません)を通じて売買してきました。日本だとコインチェックやDMM、ビットフライヤーあたりが有名でしょう。
仮想通貨交換業者では確かにビットコインの売買が可能でしたが、株式のように証券取引所に上場している有価証券と比べると取引ボリュームが少なく、価格形成が大口の売買に伴って大きくブレることがありました。また仮想通貨の種類によっては仮想通貨交換業者と相対で売買せざるを得ない仮想通貨もありました(仮想通貨交換業者に安く売って高く買わざるを得なかった)。
そして、仮想通貨交換業者が破綻すると、預けていたはずの仮想通貨や資金が無くなってしまうこともありました (米 FTXの破綻事例が有名でしょう)。
このような問題点を解決するのがビットコイン ETF です。
ビットコインETFのメリット
まずETFとはExchange Traded Fundsの略で、日本語にすると「上場投資信託」です。証券会社や銀行で購入出来る投資信託(非上場)と異なるところは、東京証券取引所や米ニューヨーク証券取引所等に上場していることです。通常の(非上場)投資信託は、1日1回算出される基準価額で、1日1回しか取引できませんが、ETFは1日のうちに価格が変動し、何度も取引をしようと思えば可能となっています。これは投資家が多数存在する公的な証券取引所に上場したことによって売買が活発になり(流動性が高まり)、所有者同士で売買が成立するからです。流動性が高くなれば「売りたい時に売れない」といったリスクが低減されます。流動性は資産運用を行う上で、投資家にとって重要な要素です。流動性が高まることで価格が安定することも期待されます。
ETFは、特定の指数、例えば日経平均株価、S&P500、そしてビットコイン等の動きに連動する運用成果を目指し、運用されるインデックス型が多くを占めています。但し、連動対象指数を定めないアクティブ型のETFも存在します。今回のビットコインETFは、ビットコイン価格に連動して取引されるように設計されているETFとなります。
ビットコインそのものではなく、ビットコインを裏付けとしたビットコイン価格に連動するように運用していくビットコインETFですが、前述の流動性以外にも投資家にとってメリットは多いものとなります。
まず、仮想通貨交換業者と同じ役割であるものの、ビッコインETFを取引している(預けている)証券会社が破綻しても投資家の資産は保護されます。これは証券会社が分別管理を義務付けられているからです。FTX破綻劇のようにはならないのです。
他のメリットとしては、上場によって価格上昇の可能性があるということです。投資家層が爆発的に広がることで需要が大きくなるためです。従来の株式投資家やビットコインに懐疑的な見方を持っていた投資家にとっても、投資のハードルが低くなるでしょう。上場する ことによって機関投資家からの資金流入も期待出来ます。公的な証券取引所で売買が出来 るのですから、機関投資家の中にも投資対象とするところが出てくる可能性があるという ことになります。
更に、ビットコインETFには信用取引が出来る(売りからも売買が出来る。手元の資金以上の取引が可能となる)、税金面で負担が軽くなる(株式と同じ税率が適用される)というメリットもあります。
一方でデメリットもビットコインETFには存在します。一つは、信託報酬等のように管理手数料がかかるということです(但し、これは他のETFも同様です)。また、通常の仮想通貨交換業者の取引所ではビットコイン現物が24時間365日取引可能ですが、ビットコインETF は米国の証券取引所が開いている間しか基本的に売買が出来ません。流動性は高いものの取引時間に制限があるということになります。
ビットコイン ETFの今後
筆者の考えでは、ビットコインに投資したいならばビットコイン現物よりもETFに投資した方が良いと思います。これは上述のようなメリットがデメリットを大きく上回るからです(但し、日本ではビットコインETFの上場は予定されていないので米国の株式を取引できる証券会社で取引するしかありません)。
また、ビットコインETFは良いタイミングで上場した可能性もあります。利払いや配当等のキャッシュフローを生まないビットコインは、金利が上昇している時期には、国債等よりも選好されにくい傾向にあります。ただ米国はこれから利下げ局面に入ると見込まれており、国債等の利回りが下がってくるとゴールドのような資産と共に魅力が増す可能性があるのです。まさに承認のタイミングが非常に良かった可能性があるのです。この利下げ局面で上場出来たことはビットコインETFにとっては追い風でしょう。
ただ、SECのゲンスラー委員長はビットコインETFを承認したものの、ビットコインETF には否定的であることが明らかです。ゲンスラー委員長は「仮想通貨の投資やサービスは、 証券法などの法律を遵守していない可能性がある」「仮想通貨証券の投資家は、重要な情報や保護が提供されない可能性があることを理解すべきである」「仮想通貨投資は非常にリスクが高く、価格が大きく変動することが多い」「多くの大きなプラットフォームや仮想通貨が、破産したり価値がなくなったりしたリスクもある」と主張したと報道されています。
確かに、ビットコインETFの参照資産であるビットコイン現物自体の状況は変わっていないため、市場規模が小さく流動性も他の金融商品(例えばゴールド)に劣ります。また、ビットコイン現物は価格操作を完全に排除出来ていません。2019年にSECに対して提出された調査レポートでは仮想通貨の取引高のうち95%が水増しまたは仮装売買であると報告されています。仮想通貨交換業者自身が顧客に売買させるために自己売買を繰り返していると指摘されているのです。
ビットコインETF(もしくはビットコイン市場)には追い風が吹いているのは間違いないでしょうが、ビットコインは価格の変動が激しく、価値が安定していません。筆者としてはビットコインETFは価格の変動が激しい時期が続くと考えており、投機的な資産だと考えています(頭が古いからか、本質的にはビットコイン自体には価値がないようにも思います)。それでも多額の利益を狙うにはビットコインETFの活用はアリなのでしょう。今後の価格推移を見守りたいと思います。