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仮想通貨に関する規制動向~今後は風説の流布、相場操縦、インサイダー取引等の規制が検討の俎上に~

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金融庁から「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第9回)議事次第が公表されています。この議事は2018年11月12日に開催されたものです。

今回は仮想通貨の呼称、インサイダー取引等について議論がなされています。

仮想通貨についての今後の規制動向を把握する参考になると思いますので、今回ご紹介させて頂きます。

 

金融庁における研究会の論点

以下は今回の研究会における論点です。

この論点を見れば、規制当局の問題認識および今後の動向が分かると思います。公表文書を抜粋します。

 

仮想通貨の呼称

○ 仮想通貨交換業への規制導入時、資金決済法では、以下の理由により、「仮想通貨」との呼称を使用することとした。

  • FATFや諸外国の法令等で用いられていた「virtual currency」の邦訳であること
  • 日本国内において「仮想通貨」という名称が広く一般的に使用されていたこと

○ 一方で、最近では、G20等の国際的な場において、「暗号資産」との表現が用いられつつある。また、仮想通貨交換業者に法定通貨との 誤認防止のための顧客への説明義務を課しているが、仮想通貨の呼称の使用は誤解を生みやすいとの指摘もある。

○ こうした国際的な動向等を踏まえ、仮想通貨の呼称を「暗号資産」に変更することも考えられるが、この点についてどのように考えるべきか。

 

仮想通貨の不公正な現物取引への規制の要否等 

(1)現状

○ 仮想通貨の現物取引については、以下のような事例もあるとの指摘がある。

  • 仮想通貨交換業者に係る未公表情報(新規仮想通貨の取扱開始)が外部に漏れ、情報を得た者が利益を得たとされる事案
  • 仕手グループが、SNSで特定の仮想通貨について、時間・特定の顧客間取引の場を指定の上、当該仮想通貨の購入をフォロワーに促し、価格を吊り上げ、売り抜けたとされる事案

○ 金融商品取引法では、有価証券の売買やデリバティブ取引について、投資者保護及び資本市場の健全性(公正な価格形成)の確保の観点から、行為主体を限定せず、以下の行為を禁止している(罰則等あり)。
① 不正行為(不正手段・計画・技巧、虚偽表示等による取引、虚偽 相場の利用)
② 風説の流布、偽計、暴行又は脅迫
③ 相場操縦(仮装売買、馴合売買、現実売買・情報流布・虚偽表示等による相場操縦)
④ インサイダー取引

○ 一方、現状、仮想通貨の現物取引については、個人が容易に参加できる顧客間取引の場が存在し、また、価格が乱高下しているとの指摘があるが、こうした行為を禁止する規制はない。

(2)不公正な行為への対応の要否(総論)

○ 多くの仮想通貨には、企業価値等に基づく本源的価値が観念し難く、また、その取引は資本市場の形成に必要不可欠な株式等の取引とは経済活動上の重要性が異なるとも考えられるが、仮想通貨の現物取引について、不公正な行為に係る行為主体を限定しない罰則等の導入といった対応を通じ、取引環境の健全性や公正な価格形成を確保していくべき経済的意義があるかどうかについて、どのように考えるべきか。

○ 仮に、現時点で評価が定まっていない場合でも、仮想通貨の不公正な現物取引に関して、何らかの対応が求められるかどうかについて、以下のような視点も踏まえ、どのように考えるべきか。

  • 現時点において、仮想通貨の公正な価格形成等を観念し難いとしても、足許において仮想通貨が投機の対象となっているとの指摘も踏まえ、仮想通貨の価格を不当に変動させて利用者被害を惹起させるような不公正な行為を防止するための対応が期待されるかどうか。
  • 仮想通貨デリバティブ取引に対しては、他のデリバティブ取引同様の不公正行為規制を導入することが考えられる。一般的に、ある 商品の現物価格とデリバティブ価格には相関があると考えられ、また、現状、仮想通貨デリバティブ取引と仮想通貨の現物取引がともに投機の対象となっているとの指摘があることを踏まえると、仮想通貨の現物取引についても不公正な行為を抑止するための対応を行わないと、仮想通貨デリバティブ取引に係る不公正行為規制が有効に機能しないおそれがあると考えられるかどうか。

○ 対応が求められる場合、仮想通貨交換業者以外の行為主体の不公正な行為により利用者が被害を受けるおそれもあることを踏まえると、仮想通貨交換業者による取引審査や取引停止等の措置といった対応に加え、仮想通貨交換業者を含めた全ての者を対象とする(行為主体を限定しない)罰則等の導入といった対応も必要と考えられるかどうか。

○ なお、有価証券取引等に係る不公正行為規制においては、その取引の経済活動上の重要性に鑑み、証券取引等監視委員会における取引監視体制の整備・調査など、国費に基づく相応の行政リソースを費やしている。
仮想通貨の不公正な現物取引への対応が求められるかどうか、また、仮に対応が求められる場合に、具体的にどのような枠組みとするかを検討するに当たっては、こうした行政のリソースや優先度等に留意する必要があるとも考えられるが、この点についてどう考えるべきか。

(3)不公正な行為への対応の要否(各論)
(①不正行為、②風説の流布等、③相場操縦について)
○ 金融商品取引法では、一部の不公正な行為については、罰則のほか課徴金の納付を求める規定やそのための審判手続の規定等も存在している。これは、株式等の取引が資本市場の形成に必要不可欠であることに鑑み、刑事罰を科すに至らない程度の違反行為に対しても行政上の措置として金銭的負担を課すことによって、違反行為の抑止を図る観点から設けられているものと考えられる。
仮想通貨の現物取引にこうした対応が必要かどうかについて、どのように考えるべきか。規制の実効性の観点や行政リソース等の観点からはどうか。
(注) 現状において、課徴金制度は、前述の金融商品取引法上のもののほか、独占禁止法上のカルテル・入札談合等の違反行為に係るものなど、一定の経済行為について設けられている。商品先物取引法の場合は、商品先物取引に関して不公正行為規制を課しているが、課徴金制度は設けられていない。

(④インサイダー取引規制について)
○ 金融商品取引法では、上場会社等に関する未公表の重要事実を知った会社関係者が、当該重要事実の公表前に、当該上場会社等の有価証券に係る売買等を行うことを禁止している。
○ 一方、仮想通貨(株式等に相当するICOトークンを除く)の現物取引については、以下の点を踏まえると、法令上、発行者等に係るインサイダー取引規制を設けることには困難な面があるとも考えられるが、この点についてどのように考えるべきか。

  • ビットコイン等の多くの仮想通貨には発行者が存在しないこと
  • 発行者や仮想通貨の仕様を決定するインナーが存在する場合でも、発行者等はグローバルに存在し得るものであり、また、該当者を特定することにも困難な面があると考えられること
  • 多くの仮想通貨には企業価値等に基づく本源的価値が観念し難く、何らかの権利が付与されたICOトークン(仮想通貨に該当するもの)についても、その設計の自由度は高いため、様々な権利が付与される可能性があることを踏まえると、金融商品取引法のインサイダー取引規制のように、何が顧客の取引判断に著しい影響を及ぼす未公表の重要事実かをあらかじめ法令で明確に特定することには困難な面があると考えられること

○ 他方、インサイダー取引規制のような規制が困難である場合であっても、少なくとも仮想通貨交換業者が把握する取引に係る不正の抑止や仮想通貨交換業者自身による不正行為の防止の観点から、仮想通貨交換業者に以下のような対応を求めることも考えられるが、この点についてどのように考えるべきか。
(ア) 取引審査を行うこと
(イ) 「取り扱う又は取り扱おうとする仮想通貨に係る自己が有する未公表情報」の適切な管理を行うこと
(ウ) 当該未公表情報に基づき自己又は他人の利益を図る目的で取引を行わないこと
(注) (ア)に関し、日本仮想通貨交換業協会の自主規制では、会員である仮想通貨交換業者に対し、内部者(仮想通貨の発行者等)と会員(役職員を含む)による「仮想通貨関連情報」(以下)に基づく取引がないかを審査することを求めている。また、上記(イ)(ウ)に相当するものも求めている。

  • 発行者等の事業譲渡・破綻等、プロジェクトに加わる重要人物の異動、発行者等による新規機能の開発・廃止
  • 会員による仮想通貨の取扱開始・廃止
  • 仮想通貨の大量管理者に対する深刻なハッキング など

 

仮想通貨デリバティブ取引に係るその他の論点

○ 金融商品取引法上、金融商品取引所は、多数の市場参加者による円滑な取引を通じて、公正な価格形成の実現を図るという公共性を有する場であることを踏まえ、当該市場の開設には免許を必要とし、免許制の下、市場取引の公正性や投資者保護等の観点から規律を働かせている。
○ 仮に、仮想通貨デリバティブ取引を金融商品取引法の規制対象にし、当該市場の開設に免許を必要とする場合、以下の点も踏まえ、多数の市場参加者の参加を可能とする公共性を有する取引所市場の存在が必要かどうかについてどのように考えるか。

  • 第7回の研究会における討議において、仮想通貨デリバティブ取引は、社会的意義の程度と比して、過当な投機を招くこと等の害悪の方が大きいとの意見があったこと
  • 多くの仮想通貨には企業価値等に基づく本源的な価値が観念し難い中で、取引所の取引には、多くの個人の取引を誘引するおそれがあること
  • 天候デリバティブ等と異なり、経済活動を行う上でのヘッジ手段としての性格を見出し難いこと

 

以上が議論の論点でした。

 

所見

以上見てきたように金融庁の問題意識は、仮想通貨の取引において、不正な取引を防止するための規制を導入すべきではないか、ということです。

現在、株式取引等では導入されている以下のような行為への規制が検討されているのです。

  • 不正行為(不正手段・計画・技巧、虚偽表示等による取引、虚偽相場の利用)
  • 風説の流布、偽計
  • 相場操縦(仮装売買、馴合売買、現実売買・情報流布・虚偽表示等による相場操縦)
  • インサイダー取引

一方で、発行者が存在しない仮想通貨やグローバルなインナーが存在する等、いわゆるインサイダー取引を規制することには、高いハードルがあるともしています。

また、不正な取引を防止するにしても、行政がどこまでリソースを投入すべきか(例えば証券取引等監視委員会)については、金融庁側に迷いもあることが見てとれます。やはり、仮想通貨というモノが経済的に価値があるのか、そして保護されるべきモノなのかについて迷いがあるのです。

今後は、このような観点から議論がなされていくのでしょう。