銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

仮想通貨規制の今後~金融庁案の全体像~

f:id:naoto0211:20181216112056j:plain

金融庁の仮想通貨交換業等に関する研究会が報告書の案を公表しました。本研究会は、仮想通貨交換業者の不正アクセス・仮想通貨流出等の状況を受け、仮想通貨交換業等を巡る諸問題について制度的な対応を検討するため、2018年3月に設置されていたものです。

よって、この研究会における報告書は日本における仮想通貨に関する規制の方向について示しています。

今回は日本における仮想通貨(近時は金融庁は暗号資産と呼びたいようですが)の今後について考察していきましょう。

 

報道内容 

まずは新聞記事を確認しておきましょう。一部ですが概要がつかめます。 

仮想通貨デリバティブの上場「認められない」 金融庁が報告書案
2018/12/14 日経新聞

 金融庁は14日に開いた有識者を交えた「仮想通貨交換業等に関する研究会」で、仮想通貨規制に関する報告書案を提示した。報告案では、仮想通貨を原資産とするデリバティブ取引について「積極的な社会的意義を見いだし難い」と指摘し、同商品の上場は「現時点では認められない」と明記した。

 仮想通貨のデリバティブ取引については外為証拠金取引(FX取引)など「他と同様の業規制を適用することが基本」と指摘。仮想通貨の証拠金倍率(レバレッジ)については価格変動が法定通貨よりも大きい点などを踏まえ「実態を踏まえた適切な上限を設定することが適当」と盛り込んだ。

 仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)に関しては、将来的に収益分配の可能性がある「投資型」、事業者からサービスなどを受ける「その他権利型」、「無権利型」といった分類がされる。報告案では、投資商品の販売には金融規制を課すといったICOの性格に応じて必要な対応を行うのが適当だと言及した。

仮想通貨のデリバティブ取引という言葉は、金融庁だけが使っているような気がしますが、いわゆる証拠金取引、先物取引、信用取引のことです。個人が仮想通貨取引所への入金額を超えて取引している場合は、この仮想通貨のデリバティブ取引に該当します。

米国では仮想通貨の先物の上場について申請や検討がされています。

少なくとも日本では上場の必要がないと規制当局が判断しているということです。

それでは、仮想通貨全般への規制についての金融庁の報告案の概要を確認していきましょう。

 

仮想通貨デリバティブ

まずは、新聞記事にあった仮想通貨デリバティブについてです。報告書で述べられているポイントは以下の通りです。

  • 仮想通貨デリバティブ取引については、原資産である仮想通貨の有用性についての評価が定まっておらず、また、現時点では専ら投機を助長している、との指摘もある中で、その積極的な社会的意義を見出し難い。
  • しかしながら、既に、国内において相当程度の仮想通貨デリバティブ取引が行われており、利用者からの相談も相当数寄せられている現状を踏まえれば、仮想通貨デリバティブ取引については、これを禁止するのではなく、適正な自己責任を求めつつ、一定の規制を設けた上で、利用者保護や適正な取引の確保を図っていく必要。
  • 仮想通貨の証拠金取引における証拠金倍率については、現状、最大で 25 倍を採用している業者も存在するところ、仮想通貨の価格変動は法定通貨よりも大きいことを踏まえ、実態を踏まえた適切な上限を設定することが適当と考えられる。
  • なお、仮想通貨デリバティブ取引については、上記のとおり積極的な社会的意義を見出し難いこと等を踏まえれば、これを金融商品取引所のような多数の市場参加者による取引が可能な場で取り扱う必要性は、現時点では認められないと考えられる。

 

仮想通貨の現物取引

次に仮想通貨の現物取引です。こちらも重要な論点が述べられています。

株式のような有価証券取引では以下のような禁止行為・問題行為があります。 

  • 不正行為(不正の手段・計画・技巧、虚偽表示等による取引、虚偽相場の利用)
  • 風説の流布、偽計、暴行又は脅迫
  • 相場操縦(仮装売買、馴合売買、現実売買・情報流布・虚偽表示等による相場操縦)
  • インサイダー取引

一方で、仮想通貨の現物取引については、有価証券の取引とは経済活動上の意義や重要性が異なることや、有価証券の取引と同様の不公正取引規制を課した場合に費やされる行政コストを勘案すれば、現時点で、有価証券の取引と同様の規制を課し、同等の監督・監視体制を構築する必要性までは認められない、と報告書で述べられています。

ただし、金融商品取引法において全ての有価証券の取引に適用される不正行為の禁止、風説の流布等の禁止と同様の規制に加え、仮想通貨にも「顧客間の取引のマッチングの場」があることを踏まえ、有価証券の取引に おける相場操縦に相当する行為の禁止も課すことが考えられるとされています。よって、この点については罰則付きの禁止行為となる可能性はあります。一方で、インサイダー取引規制については、現時点で、 法令上、禁止すべき行為を明確に定めることは困難とされており、導入は難しいでしょう。

 

ICO

ICOについては詐欺的な事案が多いとされ、禁止すべきとの意見も多い分野です。

このICO については、様々な問題が指摘されることが多い一方で、将来の可能性も含めた一定の評価もあることを踏まえれば、現時点で禁止すべきものと判断するのではなく、適正な自己責任を求めつつ、規制内容を明確化した上で、利用者保護や適正な取引の確保を図っていくことを基本的な方向性とすべき、とされています。 

その上で、ICOのうち投資性を有するものについては以下の導入を図るべきだとされています。

<ICO のうち、投資性を有するもの>

  • 発行者と投資家との間の情報の非対称性を解消するための、継続的な情報提供(開示)の仕組み。
  • 詐欺的な事案等を抑止するための、第三者が発行者の事業・財務状況についてのスクリーニングを行い得る仕組み。
  • 不公正な行為の抑止を含め、トークンの流通の場における公正な取引を実現するための仕組み。
  • 発行者と投資家との間の情報の非対称性の大きさ等に応じて、トークンの流通の範囲等に差を設ける仕組み。 

現行の金融商品取引法においては、トークン表示権利が仮想通貨で購入された場合には、必ずしも規制対象とはなりません。しかしながら、購入の対価が私的な決済手段である仮想通貨であったとしても、法定通貨で購入される場合とその経済的効果に実質的な違いがあるわけではないことを踏まえれば、仮想通貨で購入される場合全般を規制対象とすることが適当との意見も述べられており、今後の動きがあると思われます。

 

その他

上記の方向性以外にも仮想通貨については以下の観点が述べられています。 

  • 仮想通貨交換業者に対し、受託仮想通貨を流出させた場合の弁済方針の策定・公表や、ホットウォレットで秘密鍵を管理する受託仮想通貨に相当する額以上の純資産額及び弁済原資(同種・同量以上の仮想通貨)の保持を求めることが適当。
  • 受託仮想通貨について、倒産隔離の観点から、仮想通貨交換業者に対し、顧客を受益者とする信託義務を課すことも考えられるが、仮想通貨の種類や受託仮想通貨の量が増加してきている中で、それに対応した信託銀行・信託会社におけるセキュリティリスク管理等に係る態勢整備の必要性を踏まえれば、現時点で、全種・全量の受託仮想通貨の信託を義務付けることは困難。
  • 受託金銭については、流用防止及び倒産隔離を図る観点から、仮想通貨交換業者に対し、信託義務を課すことが適当。
  • 顧客との取引に関し、以下の情報を公表すること(利益相反の防止)。
    ① 自己が提示する相対取引価格(売値と買値)及びスプレッド(売値と買値との差)、又は、自己が提供する「顧客間の取引のマッチングの場」における約定価格・気配値及び当該約定価格と自己の相対取引価格との差 ② 認定協会が算出する参考価格及び当該参考価格と自己の相対取引価格との差。
  • 問題がある仮想通貨(例:移転記録が公開されず、マネーロンダリング等に利用されるおそれが高い追跡困難なものや、移転記録の維持・更新に脆弱性を有するもの)を予め法令等で明確に特定することは困難であることが想定され、行政当局と認定協会が連携し、柔軟かつ機動的な対応を図っていくことが重要。
  • 現状、行政当局に対する事後届出の対象とされている仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨の変更を事前届出の対象とし、行政当局が、必要に応じて、認定協会とも連携しつつ、柔軟かつ機動的な対応を行い得る枠組みとすることが適当
出典 金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第11回)議事次第 仮想通貨交換業等に関する研究会 報告書(案) 

 

まとめ

今回の金融庁の研究会報告は、今までの議論を総括したものであり、新たな観点はあまり盛り込まれていないといえます。
筆者の感覚でしかないかもしれませんが、2018年は通年で仮想通貨の存在感が低下していった1年でした。その中で、金融庁も、特に仮想通貨(デリバティブ)について「社会的な意義を積極的に見出しがたい」と判断していったことが、今回の研究会報告の全般に表れていると考えます。
しかし、今回の報告書で述べられている規制が整備されれば、仮想通貨(暗号資産と呼ばれるようになるかもしれませんが)は、金融商品等として更に安全なものにはなっていくでしょう。
仮想通貨が普及していくかは分かりません。しかし、仮想通貨が安心して流通しやすくなる手当てが考えられていることは間違いありません。