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仮想通貨における今後の動向~金融庁の研究会から~

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金融庁が開催している「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第4回)の議事録が公開されました。

この研究会では、仮想通貨に対する今後の規制等について有識者の間で議論がなされています。

仮想通貨の取引所、マイナーの責任、税制等、幅広く議論がなされており、今後の仮想通貨に関する規制がどのようになっていくのかの参考となります。

今回はこの研究会でなされた議論について確認していきましょう。

 

議論の内容

今回の研究会では、マサチューセッツ工科大学メディアラボから仮想通貨(暗号資産)の説明および質疑がありました(他にリップル社の取組等)。

当該記事では、このMIT Media Labのセッション部分に焦点をあてます。

以下、研究会の議事録から抜粋します。

少々長いですが、興味深いので是非ご確認下さい。

 

〈議論内容〉

  • 世界にある200近い交換所は、「集権化」されている傾向にあります。ここでいう「集権化」とは、多くの取引所-例えば東京証券取引所、香港証券取引所のような取引所-が持っている、コンピューターのアルゴリズムによって売り注文と買い注文を付け合わせることのできる、マッチングエンジンを有するような(管理者のいる)交換所であるということです。しかし、交換所は、ほとんどの従来の取引所が行わないことを2つ行っています。1つは資産のカストディアンになることです。これは特異なことです。ニューヨーク、東京、香港の証券取引所は、消費者のお金のカストディアンとしての役割を持ちません。普通、銀行、証券預託機関、クリアリングハウスがカストディアンだったりするわけです。このモデルでは、カストディアンが交換所そのものになっていったのです。
  • ビットコインの統計ですが、1日あたりの全てのビットコイン取引のうち、ブロックチェーン上で行われているのは5パーセントにすぎず、価値に換算して、残りの95パーセント、日によっては98パーセントや99パーセントになることもあります、については交換所で取引されています。実際、私と伊藤先生は、ビットコインをそれぞれ、ブロックチェーンと呼ばれる技術によらないで取引しています。自分のビットコインと相手のビットコインをコインチェックまたはその他世界にある交換所の帳簿において、交換しているにすぎないわけです。
  • それから、分散型ネットワークと呼ばれる新しい種類の交換所もあります。この交換所については、後ほどご説明します。これは不正行為対策という面から見ても、その他の理由からも、課題であると思います。何故ならば、分散型の交換所は、たとえばアジア居住者とヨーロッパ居住者がマッチングし、アルゴリズムによって自動的に取引が行わるという単純なものになりえて、中央管理者が存在しないからです。3,000万人を超える消費者がいます。ご存知の通り、システムへの不正アクセスによる大きな損失も生じており、世界中で“investor protection”はほとんどかかっていない状態です。
  • Global Approachの話です。どういった取組みが行われ、どういったことが議論されているのでしょうか。公的セクターにおいては、不正行為対応を行い、金融の安定性のためにモニタリングを行うということについて概して意見の一致が見られます。しかし、多くの地域ではそれ(実際にそうした対応を行うこと)を難しい課題だと考えているようです。目標を達成するということに関して意見が一致していますが、その手法がはっきりとしないということです。一番難しいのは、誰かが暗号資産を売って別の暗号資産を買う、すなわち暗号資産対暗号資産の取引をした場合、そして法定通貨を取り扱う商業銀行が関与しない場合、公的セクターが(暗号資産の流れを)追跡することがより難しくなるということです。特に多くの課税当局は、(そういった取引が行われた場合、)課税申告がされるべきだと考えますが、暗号資産対暗号資産の取引においては、多くの人がその申告をしません。アメリカではそれが現実に問題となっています。私は日本の法律に詳しくはありませんが、恐らく日本でも同じように問題になっているのではないでしょうか。さらに、暗号資産対暗号資産の取引が行われる場合、あるいは新しい分散化されたP2Pの交換所で取引がなされる場合には、不正行為対策もより難しくなります。
  • 5番目のポイントはとても難しく、しかし、不正取引対応として非常に重要なものです。どのように受益所有者をトラッキングするかということです。アンチマネーロンダリング法制、税制の要です。更には信じられないかもしれませんが証券法制の要になるのです。この問題に関しては、技術的な解決策があります。MITの同僚も幾つか思い当たる解決策があるようです。受益所有者のトラッキング法に関しては、国際機関がその基準を検討する価値があると考えています。(基準策定は)技術だけでなく、公共政策の目的も支援するものであると思います。(情報を)プライベートのままにしておくことを望み、そうしたトラッキングの網の目をすり抜けることを望み、(こうした試みは、ブロックチェーン)技術を損なうものであると考える人もいますが、私は、むしろ技術を改善させていくものであると考えています。
  • 現在の仮想通貨交換業者の多くが、実際には本人がカストディアンを兼ねてしまい、かつディーラー、自分でポジションを持つものも含めて、様々な取引をやっていて、それを自分たちの中のオフチェーンの取引の中で維持しているという実態があるわけですが、これをどのように改めるべきか。
  • 世界中の何千万人という人が関心を持ち、3,000万から5,000万の人たちが、ある種の暗号資産に既に投資をしているほど、この(暗号資産)市場は発展してきたわけです。そういった人たちは、直接ブロックチェーン上で取引をする能力・願望がないわけです。暗号(資産)交換所というのはそこに商機を見出しました。そして、既にご説明しました通り、約95パーセントの取引がオフエクスチェンジ、カストディアンの中で行われているわけです。この市場発展に対する答えは、カストディアンに対し、交換所としての機能とカストディアンの機能を分離させるような程度の義務を課すことにあると思います。(分離自体を)要求したり、命じたりする必要があるとは思いません。しかし、非常に強力なカストディアンの義務を課せばよいのだと思います。カストディアンの義務から分離された方が、取引所が儲かるという現象が、他の市場においてもう1世紀以上にわたって見られます。
  • 現実には仮想通貨自体の取引というもの、仮想通貨間の取引というものを、規制当局として介入することは非常に難しいわけですが、そうすると、それを運営していく、あるいは運営に関与していくということは、一方で法的な責任というのが多分発生してくると思うんです。例えばそこで犯罪の収益の移転が行われている場合ですとか。そういったときに、運営者がいない、ディスセントラライズされている中における法的責任というのをどういうふうに考えていくべきか。例えばマイニングをしている採掘者の責任というのは、そこに法的責任は発生するのか。こういったことについてどのようにお考えでしょうか。
  • 主要国の、財務大臣、証券規制当局、中央銀行、にとって最も重要な判断は、この暗号対暗号、あるいは仮想通貨対仮想通貨の取引を、マネーロンダリング、脱税、その他不正行為を防止するとの理由、あるいは証券法上の理由で、法定通貨対法定通貨、法定通貨対暗号の交換と同じように扱うことだと思います。恐らく、この経済システムの中にいる多くの人たちが、今、私が言ったことをやるべきではないと仰るでしょう。違う、違う、それは税法では、同種交換と呼ばれるものであるからと。私は、アメリカの課税当局のように行動すべきだと思います。彼らは暗号対暗号の交換に関しても、課税対象であると言っています。何かを買って何かを売っている以上、課税対象となるということです。
  • 金融庁に登録済みの、「集権化」された交換所は、暗号対暗号、暗号対法定通貨、両方の取引の報告義務を負うべきだと思います。
  • 公共セクターが現状を把握するための最善の方法は、登録済みの交換所に、取引記録帳を開示するように求めたり、課税当局へ報告を求めさせたりすることで、暗号対暗号の取引においても、例えば銀行秘密法その他法定通貨対法定通貨に係るような法律の適用がある場合と同じような扱いをすべきです。法定通貨を取り扱っている商業銀行は、法定通貨対暗号の送金が行われた場合、常に報告できるようにしなければなりません。
  • ディスセントラライズされた仕組みになってくる中で、いろいろなことについて誰が責任を負うのか。マイニングする人が責任を負うということもありなのか。
  • マイナーを規制する1つのやり方は、(マイナーの)所在地がどこなのかを特定するということになるだろうと思います。アメリカに所在するマイナーもいれば、日本に所在するマイナーもいて、それらは、法人格と実際にそれを運営している起業家です。もし、そこに生きている人間がいれば、例えば「伊藤穰一2018年バージョン」の人がいたとしたら、この人はこういう人だというふうに規制できると思います。問題は彼がマルタのような友好的な国に容易に移ってしまうかもしれないということです。しかし、家族がいて、子供が学校に行っていたら、彼らは移動したがらないかもしれません。マイナーの捕捉はいつも課題になると思います。
  • 管轄内に人または法人格が存在するのであれば、それらを通じて規制をかけるということが、マイナー経由で規制をかけるということが、適切だと思いますし、商業銀行で例えば暗号通貨から法定通貨に交換するというところで、あるいは逆に暗号通貨を法定通貨に替えるときに規制すればいいのではないかと思います。大きな課題は、暗号から暗号への取引を行う場合です。法定通貨に変換する点が存在しないからです。
  • インターネットの会話を見ていると興味深いことがあります。人々はイーサリアムを、法定通貨に変えるものとしてではなく、口座の単位と考えているようです。それこそ、真の意味での暗号通貨経済の始まりです。一旦、法定通貨に替えることなく、物を購入できるようになると、法定通貨へと変換される時点が消失し始めてしまいます。中央銀行はあまり大きな問題とは捉えていないようですが、もしも暗号通貨のマーケットが非常に大きくなると、もはや法定通貨を通して規制することができなくなるのではないかと思います。

以上が議論の抜粋です。

 

まとめ

以上抜粋してきた議論のエッセンスは以下のようになるのではないかと思います。

  • ブロックチェーンは、非中央集権化を実現させる技術であるとされてきたが、仮想通貨のほとんどの交換所は「集権化」されている。
  • 交換所は、株式等の証券取引所と異なり、資産管理・保管(カストディアン)も兼務している。
  • 約95パーセントの取引が(ブロックチェーン上ではなく)オフエクスチェンジで行われている。
  • 仮想通貨(暗号資産)の投資家は、直接ブロックチェーン上で取引をする能力・願望がない。
  • 交換所はそこに商機を見出し、実際には交換所がカストディアンを兼ねてしまい、かつディーラー、自社でポジションを持つものも含めて、様々な取引を行い、それを自分たちの中のオフチェーンの取引の中で維持している(利益相反等)。
  • 交換所とカストディアンの機能は分けるべきであり、カストディアンとしての義務を課すべき。
  • 仮想通貨対仮想通貨の取引を、マネーロンダリング、脱税、その他不正行為を防ぐ観点から、法定通貨同士の交換、法定通貨対仮想通貨との交換同様に規制すべきであり、課税もすべき。
  • 非中央集権の取引等において法的責任等をマイナーに負わせるという考え方もある。
  • 交換所に、取引記録帳を開示するように求めたり、課税当局へ報告を求めさせたりするべき。

これが、金融庁の研究会で議論された内容なのです。

もちろん全てがこのようになる訳ではありません。しかし、議論がなされ、それが記録され、公表されている訳です。今後の規制動向に全く影響を与えないということはないでしょう。

今後の仮想通貨関連ビジネスでは、カストディアンの業務が新規参入の狙い目となる可能性があります。

また、仮想通貨交換所ビジネスは当局への報告義務がさらに強化されることになり、規制対応でコストが増加することになるのではないでしょうか。加えて、顧客資産と自社資産の厳格な分別管理が求められ、顧客と交換所との利益相反が発生するような取引は難しくなるかもしれません。これも交換所の利益を減少させる要因となります。

マイナーにも何らかの責任が求められるかもしれません。

これが、今回の研究会において留意すべき内容です。