銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

消費者金融でお金を借りる人はバカなのか?

論破王として名高い、実業家の西村博之(ひろゆき)氏がWeb上の番組に出演し、借金についての持論を語ったとして話題になっています。

ひろゆき氏は「消費者金融でお金を借りる人は基本的に皆さんバカだと思います」と発言したと報じられています。

この発言について皆さんはどのように感じるでしょうか。正しいことを言っていると思うでしょうか。感情的に反発しそうになるでしょうか。

今回は、簡単に消費者でお金を借りることについて考えていきたいと思います。

 

消費者金融の借入金利

消費者金融は過去にはサラ金(サラリーマン金融)と言われていました。

1980年代の日本では、サラ金による過剰な借金、そして借金苦を理由にした自殺数増加が問題となったことを記憶している方もいるでしょう。

その後、アコムが無人契約機を導入し、更に「はじめてのアコム~」という歌のCMを大量に流したあたりでサラ金は消費者金融と呼ばれるようになり、少しイメージが変わりました。ただ、その後も当時最大手の武富士による「ジャーナリスト宅盗聴事件」が起きる等、常に問題は発生していました。

このような流れを消費者金融に対して、一般的なイメージは「よく分からないけど何となくこわい」「金利が高い」ということでしょう。但し、闇金(違法な金融業者)と違って、消費者金融の上限金利は法律によって定められたものがきちんと適用されるため歯止めはかかっています。

消費者金融を含む金融事業者からの借入を行う際には、金利には上限が法律で設定されています。それが利息制限法です。この法律が制定されたのは、過去に、高金利での過剰な貸付や、それに伴う過酷な取立などによって、返済に苦しむ借り手が増え、社会問題となったことが背景にあります。利息制限法は、経済的弱者の立場である借り手を保護するために制定され、貸付における金利の上限等を定めています。

<金利の上限>

  • 10万円未満    年利20%
  • 10万円以上100万円未満    年利18%
  • 100万円以上    年利15%

このように日本においては金利は上限が20%となっています。いわゆるグレーゾーン金利撤廃前は29.2%が金利の上限でした。

 

消費者金融の金利水準

消費者金融は、基本的にはこの金利の上限近くで貸出をしていることが多いものと思われます。

この上限金利水準は過去に比べると随分と低い水準ではあります。ただ、それでもこの金利水準は実際に借入を行うとどのようなインパクトがあるのでしょうか。

一つ例を出しましょう。

30万円を18%の金利で借りた事例を考えます。

金利が無い場合、この30万円を毎月1万円返済していくとすれば、30ヵ月で返済が完了します。

一方で、金利が18%ある場合には、元利均等(毎月一定額の返済を行う場合)返済であれば、41ヵ月まで返済完了が伸びてしまいます。これは、返済スタート当初は、支払に占める利息額が多く、なかなか元本が減っていかないためです。アコムのWebサイトにあるシミュレーションを使った場合、1万円の元利均等返済の内訳では、当初の元本返済額5,500円に対して、利息が4,500円となっています。金利が18%もあるということは、金利の負担が非常に重いのです。最終的には41回(すなわち3年5ヵ月)の返済を行う中で101,523円の利息を支払うことになります。借入額が30万円でしたから、1/3も借入が増えたことと同義です。

次にもう一つの事例を出しましょう。

月に3万円の元利払いを行う場合、消費者金融から借りることのできる上限額はいくらでしょうか。

こちらはアイフルのWebシミュレーション結果ですが、結果は140万円です。Web上では、月3万円の返済を行い71ヵ月で完済するプランが示されます。借入元本140万円に対して、15%の金利で計算した利息支払額は714,325円です。借入元本の半額超が6年弱の借入期間で利息支払いとして負担されることになります。

月に3万円を貯蓄して71万円貯めようとすると、24ヵ月程度、すなわち2年かかります。

月々3万円の返済は結構な負担である個人は多いでしょう。140万円を借り入れたことで、月3万円の2年分の費用負担が増加したと考えると、金利負担というものがいかに重いかが分かるのではないでしょうか。

 

所見

消費者金融で借り入れた場合の負担感について、今回はちょっとした事例を挙げて見てきました。

この記事のタイトルにある「消費者金融でお金を借りる人はバカなのか?」に対して、筆者なりに答えるならば「おおむねバカである」「消費者金融業界に食い物にされている」ということになります。

ただ、銀行等から借入が出来ず、どうしても消費者金融を頼らざるを得ないことだってあるでしょう。遊興費ならばお話になりませんが、事業を継続させるための資金等、どうしてもおカネが必要になる場合もあります。そのような場合の消費者金融からの借入までを「バカ」と筆者は思いません。(但し、恐らくわずかな時間、延命するだけで意味はないことがほとんどだと思います)

借入を行うというのは、「時間を買う」意味があります。将来の貯蓄や支出を諦めて、現在に費消するということです。消費者金融から借入を行うということは、金利が高いだけに、この諦める貯蓄や支出の水準が高くなるということになります。

消費者金融から借入を行う個人は、前述のようなシミュレーションを果たして実施しているでしょうか。将来の自分の支出や貯蓄を諦めることを本当に理解しているのでしょうか。理解せずに、感覚だけで借り入れを行っているのだとすれば、その方は確かに「バカ」でしょう。ただ、クレジットカードのリボルビング払いだって、消費者金融とは本質は何も変わりません。

消費者金融やクレジットカード会社がCMをどんどんと出しているのは儲かるからであり、儲かっている理由は、「おおむね借入人がバカだから」なのです。