銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

全銀システムとは何か?どこに問題があったのか?

全国銀行資金決済ネットワークが運営する銀行間の送金システムである「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」に障害が発生したニュースがマスコミで大きく取り上げられたことは記憶に新しいでしょう。三菱UFJ銀行、りそな銀行等の金融機関で他行宛ての振り込みが出来なくなりました。

銀行業が社会の重要なインフラであることが改めて認識されたと共に、全銀システムが古いシステムであることもクローズアップされました。

今回は、この全銀システムについて、簡単に確認したいと思います。

 

内国為替とは

内国為替取引とは、個人や企業の間で現金を直接授受することなく、資金の受渡しを国内で行うことをいい、金融機関がその仲立ちを行います。

内国為替取引には、受取人の預金口座に入金する「振込」、送金小切手等により直接受取人に支払いを行う「送金」、手形・小切手等の証券類の取立を行い代り金を入金する「代金取立」があり、それぞれ金融機関相互間において為替通知を授受することにより
取引が行われます。為替通知の送付方法には、全銀システムを利用する方法(テレ為替および新ファイル転送)と郵便や手形交換などを利用する方法(文書為替)があります。

(出所 全銀ネット「全国銀行データ通信システムパンフレット」)

上図にあるように、金融機関同士は全銀センター=全銀システムを通じてほとんどの為替取引を実行しています。今回、障害が起きたのはこの全銀システムです。

尚、上図の「郵送など(メール振込)」は、為替通知の授受に時間を要すること、振込票の作成等金融機関の事務負担が大きいため利用が減少したことから、一部の振込を除いて廃止されています。

基本的には全銀システムが止まってしまえば振込のような内国為替取引は止まってしまうということになります。

 

全銀システムとは

一般社団法人全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営する全国銀行データ通信システム(全銀システム)は、金融機関間の振込を中継する資金決済システムであり、1973 年に稼動して以降、概ね8年ごとにシステム更改を行っています。

全銀システムは、これまでに6度の更改を経て、現行システムは、2019年11月に稼動した第7次全銀システムです。

全銀システムは、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合等、日本のほとんどの預金取扱金融機関が参加しているネットワーク性のほか、東京および大阪の2か所のセンターで並行運転することにより、大規模な災害等により一方のセンターがダウンしても、もう一方のセンターでほぼ通常と同様の運用を継続することができるほか、電源、記憶装置、各種制御装置や通信回線も二重化し、世界にも類を見ない極めて高い安全性・安定性を有すると説明されてきました。また、24 時間 365 日常時運用状況を監視しており、1973 年に稼動して以来、オンラインを停止する事故・障害は一度も発生していない、と全銀ネットの説明文には誇らしげに記載されていました。

全銀システムの構成は以下の通りです。

(出所 全銀ネット「全国銀行データ通信システムパンフレット」)

全銀システムは、高い可用性を確保するため、いわゆるオンプレミス方式を採用し、主要な業務機能であるテレ為替や担保管理に関する部分はメインフレームを、周辺機能等はオープンシステムを採用しています。

尚、オンプレミス方式とは、ソフトウェア・ハードウェアを自前で保有・管理し、システムを自前で構築する運用方法であり、まさに従来型のシステム構築方法です。2000年頃からクラウドという新方式が登場したことに伴い、クラウドと区別するために従来の方式をオンプレミスと呼ぶようになりました。

また、メインフレームのアプリケーションは主にCOBOLというプログラム言語で構成されています。COBOL(Common Business Oriented Language)とは、1959年にアメリカで生まれた事務処理用に開発されたプログラミング言語です。COBOLは人間の文法に近く理解しやすいことから、プログラミングの入門用としても扱いやすかったため、利用者が世界中に広まり、現在も基幹システムや事務処理のシステムなど現役で使われています。但し、一昔前のプログラム言語であることから、COBOLを扱えるエンジニアの年齢層が高くなっており、中心は50歳代ぐらいとされています。この世代のエンジニアが退職する頃にはCOBOLを使ったシステムはさすがに運用が出来なくなるでしょう。

全銀ネットは信頼性に定評がある一方で、管理や維持費用の高さから加盟金融機関が負担する利用料は年3500万〜2億円弱にのぼるとされています。新興勢が参入するときの障壁にもなっていると指摘されており、富士通がメインフレームの製造・販売や既存顧客向けの保守から撤退する方針を表明したこともあり、2027年にはより廉価なオープン系システムへと刷新する予定とされています。

 

障害の要因

今回の障害は、全銀システムと各金融機関を接続する「中継コンピューター(前掲図のRC)」のソフトで発生しました。

各金融機関は、自社に設置した2セット以上の中継コンピュータ(RC)を通じて全銀センターと電文の発受信を行っています。各金融機関は、それぞれ独自のシステムを構築しており、全銀システムと接続するためには、伝送制御手順、電文形式等を揃える必要があります。そこで、中継コンピュータは、伝送制御手順等を変換するなどしてデータを送信するほか、自行システムが障害となった場合には、直接中継コンピュータで発受信を行うことにより、全銀センター・自行センター間の通信を継続するというバックアップ機能を果たすものです。

全銀ネットはこれまでの会見で、各金融機関と全銀システムをつなぐ中継コンピューター(RC)の更新に伴い、新たに運用を始めた中継コンピューター(RC)に組み込まれている内国為替制度運営費(旧銀行間手数料)の設定をチェックする機能に不具合が生じたとの認識を示していると報道されています。

尚、今回、中継コンピューター(RC)を2台同時に交換したことは疑問視されています。「なぜ2台同時に交換したのか。片系を残す施策は検討しなかったのか?」と記者会見で質問された全銀ネットは以下のように回答しています。

「片系ずつの移行はリスクの低減につながる手段だと分かっていた。しかしシステム定義上の問題などもあるため、移行の難易度が高くなる側面もある。そのためRCは両系移行を前提に行った。」

中継コンピューター(RC)を1台ずつ交換すれば、リスク低減となることを認識しつつも、総合的に判断して一気に交換したところ、問題が発生してしまったと想定されます。

全銀システムは、東京および大阪の2か所のセンターでの並行運転に加え、電源、記憶装置、各種制御装置や通信回線も二重化し、世界にも類を見ない極めて高い安全性・安定性を有するとされてきました。せっかくの2重化を捨ててまで中継コンピューター(RC)を2台とも交換したことが正しかったのか、今後検証されていくでしょう。

 

今後

1973年の稼働以来、50年もの間、オンラインを停止する事故・障害は一度も発生していなかった全銀システムが障害を起こしたことは大きな驚きをもって受け止められています。

最初に全銀ネットが対応すべきは、原因究明と金融庁への報告です。

また、それと並行して障害が発生した各金融機関への補償も必要となる可能性があります。

例えば、三菱UFJ銀行は送金できなかったことで生じた二重送金を取り消す際の手数料を免除すると発表しています。この手数料免除相当を三菱UFJ銀行が全銀ネットに請求するのは普通に考えられることです。このような補償問題が今後発生します。

そして、何よりも方向性が決まっている「次期」全銀システムをどうするのか、という議論が再燃する可能性があるでしょう。見直しをすることになってしまうと、議論に時間がかかると更に様々な問題が出てくる可能性があります(エンジニア不足等)。銀行業界には早急な対応が求められます。