日本学生支援機構(以下学生支援機構)の奨学金について、「日本人学生に約450万円貸して約600万を返済させている一方で、外国人留学生には返済不要で約380万円支給しており不公平そのものである」と東京都豊島区議が選挙活動で演説し、少々話題となっているようです。
今回は、この話題について少し確認していきたいと思います。
話題の内容
前述の豊島区の議員が発言した内容は以下の通りです。内容はご本人のTwitterに掲載されている文書の引用です。
「日本人学生には約450万円貸して約600万を返済させ、外国人留学生には毎年約380万円を返済不要で支給してることは不公平そのものです!奨学金を仕切ってる文科省の外局、日本学生支援機構はただの金貸し、日本人学生を支援する気など全くありません!」
この内容を見て、外国人優遇・日本人いじめであるとか、是正していくべき等の声がネット上では挙がっているようです。
発言内容が意味すること
上記の通り、「450万円貸して、600万円の返済を受ける」仕組みが学生支援機構の奨学金だとすると、これは何を意味するのでしょうか。
まず、学生支援機構の奨学金は、利子の付かない第一種奨学金と、利子の付く第二種奨学金があります。利子が付かなければ、元本を返済すれば良いのですから、今回の区議の主張は、利子の付く第二種奨学金に関する返済を対象としていることは間違いありません。
第二種奨学金は、基本的に月額の返済が定額となっています。いわゆる元利均等返済という返済方法です。学生から見ると、450万円の借入となっている場合の返済期間は240か月(20年)となります。
そして、450万円を金利3.0%、20年に渡り毎月元利均等返済とした場合の最終的な支払総額は5,989,642円です(日本政策金融公庫/事業資金用 返済シミュレーション使用)。
すなわち、「450万円貸して、600万円の返済を受ける」奨学金は、金利3.0%で貸していることになります。
奨学金の金利
では、上記の主張は本当に正しいのでしょうか。金利が3.0%という水準であることに少し違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
学生支援機構の「利息付き奨学金の貸与利率」は、きちんとWebサイトで公開されています。
2021年11月時点では、利率固定方式=0.268%、利率見直し方式=0.004%となっています。
利率固定方式とは、貸与終了時に決定した利率が、返還完了まで適用される方式であり、将来、市場金利が変動した場合も、利率は変わりません。
一方で、利率見直し方式とは、貸与終了時に決定した利率を、おおむね5年ごとに見直す方式であり、将来、市場金利が変動した場合は、それに伴い利率も変わります。
現在は低金利時代ですので、利率見直し方式では0.004%という恐ろしいほどの低金利が適用されています。
2021年11月時点では利率固定方式でも上記で触れた区議が主張している金利3.0%の10分の1未満の金利が適用されていることになります。
ちなみに、450万円の元本を金利0.268%、20年間、元利均等返済とした場合には、返済総額は4,622,183円となります(日本政策金融公庫/事業資金用 返済シミュレーション使用)。
返済総額が全く異なることがお分かりになると思います。
返済例
金利というのは、当たり前ではありますが、返済総額に大きな影響を及ぼします。特に返済期間が長期に渡る場合には、驚くような効果をもたらすものです。
以下は、学生支援機構が公開している返還例です。金利が変化した際のパターンとして示しています。
前提は、4年制、貸与月数48か月、月の貸与金額10万円、貸与総額480万円、返済期間240か月(20年間)の場合となります。
- 年利0.5%、返還総額5,056,654円、返還月額21,069円
- 年利1.0%、返還総額5,321,420円、返還月額22,172円
- 年利2.0%、返還総額5,874,754円、返還月額24,478円
- 年利3.0%、返還総額6,459,510円、返還月額26,914円
月々の返済額には数千円の差しか付きませんが、返済総額でいけば大きな差となることが分かるでしょう。
所見
豊島区議が選挙活動で演説した内容である、学生支援機構が「日本人学生には約450万円貸して約600万を返済させ」ているということについては、現在の金利環境では考えられないことを今回はお示ししました。
このような主張が相応の人物からなされた時には、ついつい信じてしまいそうになるものですが、前提条件をきちんと調べ、その言説が正しいか否かを自ら判断することも必要な姿勢ではないかと筆者は考えています。
特に、金利の効果は大きいものです。金融の基本的な仕組みを学ぶことは(そして違和感を感じられるようになることは)、大事なことではないかと思います。