銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

住宅ローンの返済猶予を銀行に相談することはできるのか?

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緊急事態宣言を受け、小売店舗、飲食店等の営業自粛、売上急減が起きています。事業者としては本当に厳しい状況でしょう。

また、在宅勤務が実施されることで、 残業代が著しく減少しているサラリーマンもいることでしょう。

個人にとって、収入が減少した際に困るのは固定費負担です。固定費で大きな割合を占めるのが住居関係であり、持家となっている場合には住宅ローンの支払いは重くのしかかっているでしょう。

この住宅ローンの支払いは、今回のコロナショックを受けて、何か対応はできないものでしょうか。

今回は、 住宅ローンの返済猶予について簡単に確認していきましょう。


金融庁からの金融機関への要請

金融庁は2020年4月7日に、金機機関に対して「住宅ローンや個人向けローンについて、これまでの要請を踏まえ、さらに個人顧客のニーズを十分に踏まえた条件変更等について、迅速かつ柔軟な対応すること」「新型コロナウィルス感染症により影響を受けた顧客から支払猶予等の申出を受け、一定期間猶予した場合には、信用情報機関に延滞情報として登録しないこと」を要請しています。

まず、行政としては銀行に相応の対応を求めているということです。銀行の許認可を握る金融庁ですから、銀行も無視することは難しいでしょう。

 

全銀協としての申し合わせ

全国の銀行が加盟する全国銀行協会(全銀協)は、「新型コロナウイルスへの対応に関する申し合わせ」として協会として以下の方針を示しています。

「新型コロナウイルスへの対応に関する申し合わせ」 (抜粋)

銀行は社会機能の維持に必要となる決済・資金供給等の重要業務の業務継続体制を構築するとともに、以下のとおり、新型コロナウイルスによる影響を受けたお客さまへの迅速、適切かつ柔軟な対応に努める。これにあたっては、法令等および行政の指導を厳守する。
個人信用情報の取扱いについて、 新型コロナウイルス感染症により影響を受けたお客さまが不利益を被ることのないよう十分留意する。

このように今回のコロナウィルスの影響による住宅ローンの返済猶予等の相談が来て、実際に対応した場合については、単なる延滞扱い(誤解を恐れずに言えばブラックリスト入り)させないという方針を銀行業界として合意しているということになります。

 

住宅金融支援機構の方針

住宅金融支援機構は民間金機機関を通じてフラット35という住宅ローンを展開している政府系機関です。

このフラット35(住宅ローン)の返済が困難となっている個人向けには、住宅金融支援機構が支援策を用意しています。

この支援策の主なポイントは、失業中もしくは収入が20%減少した個人(他にも条件あり)には、返済期間を最長15年(ただし、完済時の年齡上限は80歳)したり、元本据置期間の設定(最長3年)を行うことで住宅ローンの返済を支援することです。

もちろん、「借りた金は返す」必要があり、返済の一部を免除するものではありませんが、目先の返済額を減らすことは可能です。

 

相談のデメリットは少ない

各銀行の対応も住宅金融支援機構と似たようなものです。

信用情報機関に延滞情報として登録しないことになっている以上、本当に返済に困っているならば、個人としては銀行に相談しても良いでしょう。もちろん、将来的には、同じ銀行から借入を行うことは困難になるかもしれませんが、他の銀行から借入を行うことには影響しないものと思われます。

但し、返済期間を延長する対応は、最終的な支払総額は増加します。目先の支払額を軽減することにはなりますが、得をする訳ではないことには留意が必要です。

例えば、15年期間を延長すると以下のように毎月の返済額は減少します。

借入額3,000万円、金利2%、35年元利均等・ボーナス返済なしで【フラット35】を利用すると、毎月の返済額は9万9,378円です。

この人が、5年経過後に返済が苦しくなって返済期間を15年延長できれば、毎月の返済額は7万5,551円に減額できます。約24%の減額です。それでも、難しい場合には、最長3年間の元金据置きが可能です。そうすると、3年間の返済額は4万4,811円にダウンします。当初の返済額の半分以下になるのですから、これなら何とか返済を続けられる人がいるのではないでしょうか。

(出所 ARUHIマガジン https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-3327/)

筆者は期間の延長や元金据置は、返済総額が増加するので、あまりお勧めはしませんが、対応が必要ならばやるしかありません。

 

所見

ほとんどの銀行は、住宅ローンの借入人が破綻してしまい住宅ローンの回収に手間がかかるよりは、条件を多少緩和しても返済を続けてもらう方が結果としては良いと考えているでしょう。

また、金融庁からの圧力も十分過ぎるほど感じているでしょう。

銀行が住宅ローンの返済猶予に応じやすいのは、ビジネスジャッジなのです。

そのため、個人にとってみれば延滞するぐらいならば、事前に銀行に相談した方が良いことは間違いありません。

特に、住宅ローン金利が、店頭金利よりも優遇金利として適用となっている場合、延滞をしてしまうと優過が無くなり、金利が高くなってしまう(元々の金利が適用されてしまう)ことがありえます。 そうすると、住宅ローン返済が苦しいのにもかかわらず、金利が上がり、返済額が増え、さらに厳しい状況に置かれかねません。

住宅ローンが返済できなくなりそうなら、速やかに銀行に相談すべきなのです。

但し、今回の非常事態宣言が解除され、個人として収入が回復した際には、元の返済方法・返済額に戻すようにすべきでしょう。元本の返済を猶予したり、期間を延長したままだと返済の総額は増加してしまいます。これは、将来の自分を困らせることになるかもしれないのです。

返済猶予を相談し、いくら銀行員から優しく対応されたとしても、借入額が減る訳ではありません。この点には本当に留意が必要です。