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東京都区部の新築マンション価格上昇の限界点は近い

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新築マンションの価格上昇が話題となっています。

2019年の新築マンションの平均価格は、首都圏で5,980万円、東京都区部が7,286万円(不動産経済研究所調べ)となっており、バルブ最盛期以来の高水準です。

こんなにも新築マンション価格が上昇していることは「不動産バブル」なのでしょうか。

我々個人の所得(特に手取り)が増えない中、マンション価格の上昇はいつまでも続くのでしょうか。それとも、今がピークでマンション価格は今後下がるのでしょうか。

今回は不動産マンション価格について考察します。

 

新聞記事

まずは、現在の新築マンションの平均価格について概要を確認しましょう。以下、日経新聞の記事を引用します。

新築マンション29年ぶり高値 19年の首都圏5980万円
2020年1月22日 日経新聞

首都圏の新築マンションの価格上昇が止まらない。不動産経済研究所(東京・新宿)が22日に発表した2019年の平均価格は18年比1.9%上昇の5980万円とバブル最盛期以来29年ぶりの高水準となった。一方、価格の高止まりで売れ行きが鈍化しているのが影響し、発売戸数は15.9%減の3万1238戸と27年ぶりに3万5000戸を下回った。

発売戸数は20年も3万戸台前半にとどまる見通しで、市場は「低位安定」が続きそうだ。

19年の首都圏(1都3県)の平均価格は1990年(6123万円)に次ぐ過去2番目の高水準。エリア別にみると、東京都区部が2%上昇の7286万円。このほか都下が4.8%上昇、埼玉県が4.8%上昇、千葉県が2.2%上昇と神奈川県を除き18年を上回った。近年、不動産各社は人気が高い都心部や駅近の好立地に発売物件を集中。都心部の土地代や建築コストの高まりもあって価格が上昇している。

(以下略)

この記事を見る限り、新築マンション価格はバブルの様相を呈しているようにも思えます。

 

新築マンション価格の年収倍率

東京カンテイが2019年12月4日に発表した2018年新築マンション価格の年収倍率では、首都圏が平均年収515万円に対して年収倍率11.0倍、東京都が平均年収578万円に対して年収倍率が13.3倍となっています。

一昔前は、年収の5倍が住宅購入金額の目安と言われていました。しかし、東京であれば現在は年収倍率13倍なのです。

新築マンション価格のピークは、首都圏平均が1990年の6,123万円、東京都区部が1991年の8,667万円です。当時も年収倍率は10倍を超えていました。

これをバブルと言わずして何と言うのだろうと、お感じになる方もいらっしゃるでしょう。

 

金利と不動産の関係

不動産価格、すなわち新築マンションの価格と金利には大きな関係があります。

新築マンション価格は当然に需給のバランスによって決まりますが、その需要は個人が購入できる金額であるかがポイントとなります。どんなに立地が良く、住んでみたいと思うような物件であったとしても、購入できなければ意味がありません。

「金利が下がると不動産価格は上がる」という経験則があります。

新築マンションを購入する個人は、通常、住宅ローンを借ります。新築マンションを全額キャッシュで購入することができる個人はほとんどいません。

この住宅ローンの金利が不動産価格に大きな影響を与えます。

例えば、4,000万円を35年ローンで借りた場合には、金利1%ならば金利を含めた返済総額は約4,750万円となります。一方で、金利が4%ならば返済総額は約7,450万円まで上昇します。

住宅ローン金利が下がれば、返済総額が低下するのは当たり前ですが、「元利均等返済」という住宅ローンの性質上、返済総額には大きな差が生まれるのです。

住宅ローン金利が下がったならば、返済総額が大きく低下するため、もっと高い不動産を購入することが可能になります。よって「金利が下がると不動産価格は上がる」、正確には「金利が下がると購入できる不動産価格の上限が上がる」と言えるのです

 

現在のマンション価格は適正なのか

では、現在の金利環境において、新築マンションの価格は適正なのでしょうか。購入者の返済能力という観点から考察してみましょう。

2019年の東京都区部の新築マンションの平均価格は上述の通り7,286万円です。

仮に6,000万円の住宅ローンを組み、残額は手元資金から充当して購入する場合を想定しましょう。

以下は住宅ローン金利が低いことで有名な三井住友信託銀行にて、ボーナス払い無し、期間30年、八大疾病保障付きの住宅ローンを借り入れた場合のシミュレーションです。

  • 変動金利/年0.775%の場合、毎月の返済額=18万6,845円、総返済額(諸費用含む)=6,888万4,332円
  • 固定金利/10年固定年1%の場合、毎月の返済額=19万2,983円、総返済額=7,109万4,178円
  • 固定金利/30年固定年1.5%の場合、毎月の返済額=20万7,072円、総返済額=7,616万5,947円

東京都区部で新築マンションを購入するために6,000万円の住宅ローンを組むと、月に19〜21万円程度は返済を行わなければなりません(35年のローンを組めばもう少し金額は小さくなりますが、購入する際の年齢によっては、定年後も住宅ローンの返済に追われることにもなりかねません)。

月に19〜21万円の返済ということは、年間で228〜252万円の返済を行うということです。

一方で、年収が580万円(東京都の平均年収程度)の場合の手取りは約440万円です。

平均年収では東京都区部に新築マンションを購入することは現実的ではありません。

年収1,000万円の場合の手取りが約720万円程度ですので、228〜252万円の返済額というのは、年収1,000万円の個人の手取りの30〜35%程度となることが分かります。

現在の低金利環境下においても、年収1,000万円の人ですら6,000万円の住宅ローンの返済はかなり重いと言えるでしょう。

購入者の返済能力という観点から、現在の東京都区部における新築マンション価格は、上限値に近づいてきていると筆者は考えています。

 

 

今後の新築マンション価格動向

現在の新築マンション価格はバブル期の価格に接近してきています。しかし、購入者の負担という観点では実は大きな違いがあります。

バブル期の住宅ローン金利は公的金融機関の借り入れでも5%を超えていました。現在は金利は1%程度です。

6,000万円の住宅ローンで金利が5%とすると、毎月の返済額は約32万円です。上述の通り、現在の金利環境ならば19〜21万円程度の返済となりますので、住宅ローンの負担感は当時と全く異なります。

例えば、返済金額を固定し、毎月15万円を返済するとした場合、金利1%ならば4,660万円の住宅ローン借入となりますが、金利5%ならば2,790万円となるのです。

上記の返済額を勘案すると「年収倍率という観点は、実はあまり意味が無い」ことが分かります。金利水準によって同じ住宅ローン額を借り入れしても返済額が全く異なるからです。

したがって、東京都区部の新築マンションの平均価格、年収倍率がバブル期に接近してきたといっても、返済額という観点で見れば、まだまだバブル期には追いついていないということになります。

バブル期と現在とでは、物価や個人支出のうち固定費の中身・水準(例えば、現在はスマホ代のような通信費の割合が多くなっているでしょう)が異なっているでしょうから一概には言えませんが、手取りに占める返済額の割合という観点では、バブル期に比べて、まだ「余裕がある」=新築マンション価格は上昇余地がある、という説を否定までは出来ないかもしれません。

加えて、現在の東京都区部における新築マンション購入層は共働き夫婦の割合も増えてきているでしょう。共働き夫婦は双方が平均収入を得ていたとしても世帯年収では1,000万円を超えてきます。そして、日本の所得税は累進課税ですから、一人で1,000万円の収入を得るよりも、二人で1,000万円の収入を得る方が手取りは多くなることになります。手取りが多ければ住宅ローンの返済能力も高まり、高いマンションを購入することも可能になります。

一方で、共働き夫婦といっても子供が出来れば、通常は妻が産休・育休に入ります。この間の収入は減少します。また、妻が簡単に仕事に復帰出来るかも分かりません(例えば保育園がなかなか見つからないかもしれません)。夫一人で、多額の収入を得ている世帯の方が、子供が出来た場合には収入が安定していると言えるのです。

また、社会保険料の上昇を主因として個人の手取り収入は、簡単には上昇していかないでしょう。

現実的な生活設計を行い、現在の生活水準を維持することを購入者が選択すると想定すれば、東京都区部の新築マンション価格はすでに上限に近づいていると筆者は考えています。誰もが買えない値段ならば、その価格は需給バランスからいって崩れます。まだしばらくは新築マンションの価格上昇は続くのかもしれません。しかし、長くは続かないのではないでしょうか。