銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

SVBと邦銀との違いを日銀が解説している

米銀のシリコンバレーバンク(SVB)が破綻してから1か月超が経ちました。

預金が次々と流出し破綻にわずか数日で破綻に追い込まれてた現代の取り付け騒ぎは象徴的な事件として皆様の記憶にも残ったのではないでしょうか。

このSVBやその後のシグネチャー銀行の破綻後には、日本の地方銀行についても同じように危ないのではないかとの疑念を持った方も多いでしょう。

今回は、日本銀行がSVB・シグネチャー銀行と日本の銀行の違いについて、非常に分かりやすく解説していますので、その説明を確認していきたいと思います。

 

SVB等の破綻影響は限定的

日本銀行は、金融システムレポート(2023年4月号)にて、SVB等の破綻の問題について解説しています。以下は、特に説明のない限り、日本銀行/金融システムレポートからの引用・抜粋となります。

今年3⽉、⽶国のシリコンバレー銀⾏とシグネチャー銀⾏の相次ぐ破綻をきっかけに、⽶欧の⾦融部⾨を巡る不確実性が⾼まった。その後、⽶国では、関係当局による当該2⾏の預⾦の全額保護決定、FRBによる銀⾏向け資⾦供給プログラム(BTFP)の創設、⽶銀⼤⼿による中堅銀⾏への預⾦預け⼊れの表明など、即座に対応が打たれた。もっとも、⾦融市場では神経質な展開が続き、銀⾏の株価が下落し、CDSスプレッドが拡⼤した。⽶国市場で預⾦基盤の脆弱性が指摘されている中⼩銀⾏の株価は、下落幅が特に⼤きくなった。

こうした不確実性の⾼まりがわが国の⾦融システムへ及ぼす影響は限定的である。わが国の株式市場でも銀⾏株価が下落したものの、クレジット市場における銀⾏評価は、AT1債を含め、⽶欧に⽐べて安定している。為替スワップ市場におけるドル調達プレミアムの上昇は、年末越えプレミアム対⽐で⼩幅にとどまっている。

また、⾦融機関の多くが有価証券の評価損を抱えているが、そのことが、⾦融システムの頑健性や⾦融仲介機能に影響を及ぼすような状況にはない。

(出所 日本銀行「金融システムレポート(2023年4月号)」)

上記の通り、日本の銀行の株価は相対的に強く、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドも米欧に比べて低位で推移しています。CDSは、発行体の信用リスクを対象とするデリバティブの一種です。債権を移転することなく信用リスクのみを移転させることに特徴があり、効果としては発行体のデフォルト(債務不履行)に対する「保険」と考えれば外れていません。この保険料が日本の銀行は低位で推移しているということであり、デフォルト懸念が低いということを示しています。

日本銀行は、これらの事実を指摘して、米欧の銀行に比べて日本の銀行は問題が無いと説明しています。

 

SVBは米銀の中でも特殊

SVBの破綻は、SVB自体の特殊性が要因であると解説されることが多いことをご承知の方もいらっしゃるでしょう。この特殊性について、日本銀行はコンパクトにまとめています。

今回破綻したシリコンバレー銀⾏(2022年末時点の総資産は2千億ドル強)には、負債・資産の両⾯で、際⽴った特徴がみられる。負債サイドでは預⾦残⾼の増加率(2019年末〜2022年末で2.8倍増、⽶銀平均が+32%)と1⼝座当たりの預⾦残⾼(2022年末時点で112万ドル、⽶銀平均が2万ドル)、資産サイドでは預証率(同67%、⽶銀平均が31%)がそれぞれ突出して⾼くなっていた。有価証券残⾼は、直近3年間(2019年末〜2022年末)において、預⾦増分(+1,124億ドル)とほぼ同規模(+895億ドル)増加していたことになる。低⾦利下の⽐較的短い期間で有価証券を積み増していたことから、投資の時間分散が⼗分に働かず、損失吸収⼒を上回る評価損リスクと逆鞘リスクに晒されていたと考えられる。こうした特殊な資産・負債構造を背景に、⼀度、預⾦が流出し始めると、評価損を抱えた満期保有⽬的の有価証券まで現⾦化する必要に迫られ、売却損計上と急速な預⾦流出の悪循環に陥ったとみられる。

(出所 日本銀行「金融システムレポート(2023年4月号)」)

この解説は非常に分かりやすいのではないでしょうか。

要は、ベンチャー企業へお金が集まるようになり、それに伴いSVBへも急激に預金が集まり、その預金は大口預金ばかりである一方で、貸出先が少ないので有価証券にばかり投資していたということになります。そして、急激に固定利回りの有価証券に投資したため、金利上昇と共に含み損が出てしまったということになります。

 

日本の銀行の状況

日本銀行は、金融機関監督という観点から、そして日本の銀行の特徴として以下のように解説しています。

これらの事実からは、次の点を指摘できる。 
第⼀に、今回の破綻は、⾦融当局の監督下にある銀⾏で発⽣したものである。前述のとおり、資産・負債の状況は可視化されていたものの、資⾦繰りに窮するという古典的なかたちの破綻であった。リーマンショック時のように、証券化を通じてリスクの所在が捕捉できなかった訳ではなく、監督下にないノンバンク(NBFI)部⾨の隠れたレバレッジが表⾯化した訳でもない。
第⼆に、破綻した⽶銀の特徴である有価証券の評価損については、それに⾒合った損失吸収⼒を確保しておくことが重要である。また、資⾦調達については、破綻した⽶銀の資⾦調達⼿段が特定業種の⼤⼝預⾦に集中していたように、⼀つの資⾦調達⼿段に過度に依存しないことが重要である。⾦融機関は多かれ少なかれ、⾦利リスクをとるものであり、法⼈預⾦や短期市場調達など粘着性が相対的に低い資⾦調達⼿段を併⽤している。そうした⾦融機関には、有価証券の運⽤戦略(ポジション調整やリバランス、⻑期保有など)といった経営上の⾃由度を確保するうえでも、⾦利リスクを適切に管理し、安定的な資⾦調達基盤を維持することが求められる。 
第三に、わが国⾦融機関の中に、破綻した⽶銀のような特殊なバランスシート構造をもつ先はない。損失吸収⼒について、わが国の⾦融機関は、有価証券の評価損が全て実現損になったとしても、それに耐え得る資本基盤を有している。評価損の⼤きい⾦融機関は、⾃⼰資本⽐率の⾼い⾦融機関でもあり、国内基準⾏の⾃⼰資本に評価損益(満期保有⽬的を含み、政策保有株式を除く)を算⼊しても、規制⽔準は維持される(図表B1-4、B1-5)。また、さらなる⾦利上昇リスクに対するストレス耐性の⾯では、保有有価証券のリバランスが進捗し、海外預貸利鞘が幾分改善している。海外⾦利が⼤きく逆イールド化した状態が続くというストレス事象に対しても、相応の耐性を備えている。

資⾦調達について、わが国の⾦融機関は、安定的な資⾦調達基盤を有している。円貨資⾦の調達基盤は、⼩⼝の粘着的な個⼈預⾦を中⼼に、様々な資⾦調達⼿段を併⽤することで、資⾦調達源が分散されている(図表B1-6、B1-7)。法⼈ビジネスを中核とする銀⾏は、法⼈預⾦⽐率が相対的に⾼いが、特定業種の預⾦に集中している訳ではない。また、外貨資⾦の調達基盤は、個⼈預⾦⽐率が低いものの、中⻑期円投などを併⽤して、資⾦繰りの安定が図られている。

今回の局⾯においても、⼤⼿⾏のドル預⾦は安定していたほか、地域銀⾏を含め、期末越え資⾦を前倒しで調達していたこともあって、資⾦繰りに特段の混乱はみられなかった。 

(出所 日本銀行「金融システムレポート(2023年4月号)」)

このように、SVB等の破綻銀行は金融当局の監督下にあったが、米国当局の監督が十分ではなかったのではないかと投げかけ、更に日本の銀行は同じような問題は抱えていないと説明しています。

 

まとめ

筆者も日本の銀行においてSVBのような取り付け騒ぎが起きる可能性は低いと考えています。

但し、絶対に起きない訳ではありません。

銀行のビジネスの根幹は「信用」です。

あの銀行は「しっかりしているから、自らの大事なお金を預けていても問題ない。いつでもお金を引き出せる」と預金者に思われることが何よりも大事なことなのです。ご承知の通り、日本の銀行の金庫には、全ての預金者が預金引き出しに殺到しても対応出来るぐらいの現金はありません。あくまで「この銀行からはいつでもお金を引き出せる」という期待を預金者に抱かせ続けることが出来れば、実際にその銀行は破綻しないのです。

「鶏が先か、卵が先か」というたとえに似ているのですが、銀行の資金調達は、預金者のある意味では根拠の薄い期待に支えられているのです。だからこそ、どんなに強固な財務内容を誇る銀行でも、いっぺんに預金が引き出されれば破綻します。銀行の存続に絶対はないのです。