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地銀の有価証券運用には論外の事象も~金融庁のモニタリング結果~

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(画像 NHKホームページより引用)

2018年7月に金融庁が地域銀行(≒地銀)の有価証券の運用状況についてモニタリングを行った中間結果を公表しました。

近時公表されている様々なペーパーから、金融庁の地銀に対する高い問題意識は伺えますが、有価証券の運用については特に問題と考えていることが分かります。

今回は、カネ余りの世の中であり、ゼロ金利政策の環境下でもある日本における地銀の有価証券運用について確認していきましょう。

 

報道

金融庁の「地域銀行有価証券運用モニタリング 中間とりまとめ」について詳細を見ていく前に、概要をつかむためロイターの記事を確認しましょう。以下引用します。

地銀の4分の1超、金利50BP上昇でコア業純上回る含み損=金融庁

2018年7月13日 ロイター

[東京 13日 ロイター] - 金融庁は13日、地方銀行の有価証券運用に関するモニタリングについて中間とりまとめを発表した。円金利・外貨金利が2018年3月末から50ベーシスポイント(bp)上昇すると、地銀の4分の1超で18年3月期のコア業務純益を上回る含み損が発生するとの試算を盛り込んだほか、調査した31行中23行でリスクテークや含み損の処理に問題があった。 金融庁は2016事務年度(16年7月―17年6月)以降、有価証券運用でのリスクテークが経営体力などとの対比で高い地方銀行31行を対象に立ち入り検査を含むモニタリングを実施してきた。

 その結果、31行中23行が経営体力やリスクコントロール能力比でのリスクテークや含み損処理で課題があった。含み損処理に課題のあった23行中8行は、目先の収益確保のため有価証券含み損の処理を先送りしていたという。

 また、地銀の円金利リスク量について、自己資本対比で主要行等の3倍近い状況が継続しているとした。

 金融庁は、地銀の有価証券運用について引き続きモニタリングし、問題のある銀行には有価証券運用に過度に依存しないビジネスモデルの構築などを求めていく方針。

(以下略)

金融庁は自己資本対比で有価証券運用におけるリスクテイク度合いが高い地銀31行に対して立ち入り検査を含むモニタリングを実施してきました。

その結果として、かなりの問題が見つかっているということになります。

そもそも銀行の経営陣がその責任において有価証券投資を行うことは経営判断に属することです。しかし、金融庁は金融システムの安定性を維持していく役割があり、そのため個々の銀行の経営判断の結果であるはずの有価証券投資に対しても口を出してきています。

金融庁は最終的には有価証券運用に依存しないビジネスモデルを地銀が作り上げていくべきと考えており、その実現に向けて今後も指導していくことになるのでしょう。

では、地銀の有価証券運用ではどのような問題が見つかったのでしょうか。以下詳細を見ていくことにしましょう。

(以下、地域銀行有価証券運用モニタリング 中間とりまとめ 平成30 年7月13 日 金融庁から抜粋・引用 

https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180713-1/20180713-1-2.pdf

 

地銀の有価証券運用の全体感

金融庁は地銀の有価証券運用の全体感について以下のように把握しています。外部に公表されているIR資料等を見る限りでも同様の状況にあることが推察されます。

地域銀行の本業利益(顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)の利益、以下同じ)は、長期に亘る金融緩和政策、特にマイナス金利政策の導入に伴う貸出利鞘の急速な縮小などによって悪化している。他方、有価証券運用収益も、同様に、長短金利差の急速な縮小によって悪化している。このため、地域銀行では、一定の収益を確保するため、有価証券運用において、金利リスクのみならず、流動性リスク、信用リスクのほか、それらを組み合わせた複雑なリスクテイクを拡大する動きがみられている。
その結果、地域銀行においては、有価証券運用でのリスクテイクが、量的な面のみならず、保有商品の多様化・複雑化といった質的な面でも、経営体力(自己資本・収益力、以下同じ)やリスクコントロール能力(運用態勢・リスク管理態勢、以下同じ)と比較して過大と考えられる先が少なからず存在している。

そして、具体的には、以下の通り円金利・外貨金利が50bp=0.5%上昇した場合、地銀の1/4超が期間収益(年度の本業利益、一般企業の営業利益に相当)を上回る含み損となると試算しています。 

地域銀行における有価証券(随時の売却が困難な満期保有目的・政策投資株式を除く)全体の含み損益をみると、例えば、円金利・外貨金利ともに2018 年3月末時点から+50bp 上昇した場合、地域銀行の1/4 超の先において、期間収益(18/3 期コア業務純益)を上回る含み損となる試算結果が得られている。

 

モニタリングにおける問題事例

金融庁が実施した有価証券運用モニタリングにおいて、対象31行中23行については、経営体力やリスクコントロール能力対比でのリスクテイクや含み損の処理に課題がみられたと発表されています。

以下はその具体例です。

(ア) 本業利益が悪化を続ける中、経営陣が、本業利益の改善に取り組むことなく、目先の期間収益を確保するため、経営体力やリスクコントロール能力対比で過大と考えられる外貨金利リスクテイクを続けた結果、米国金利上昇により外債等含み損が2年連続でコア業務純益を上回った。外債等含み損を処理する原資が不十分なことから、外債等含み損を複数年に亘って段階的に処理せざるを得なくなっている。

(イ) 本業利益の悪化を挽回するため、担当者数名という運用態勢のもとで、リスク特性を認識しないまま、表面利回りが高く、複雑なリスクプロファイルを有する投資信託に、自己資本の過半となる規模まで投資している。

(ウ) 既に長期固定金利で多額の仕組ローンを実行しているため、金利リスクの削減に長期間を要すると経営陣が認識しているにもかかわらず、目先の期間収益確保のため、新たに自己資本対比でかなりの規模の長期外債型投資信託に投資している。

(エ) リスク分析能力を含む運用態勢・リスク管理態勢が、専門性・人数の両面で確立されていないことを経営陣が自覚しているにもかかわらず、目先の期間収益確保のため、新たに自己資本額の数倍に相当する長期仕組ローンの実行を検討している。

(オ) 本業利益が悪化を続ける中、業務計画上の当期純利益、配当額、配当性向を達成するため、担当者数名という運用態勢のもとで、リスク特性を把握しないまま、販売会社に数億円にのぼる信託報酬・手数料を支払ったうえで、複雑なリスクプロファイルを有する銘柄を含む、合わせて数百もの外債・投資信託・仕組債に投資している。

(カ) 経営陣が、目先の期間収益目標達成を第一に考えた結果、運用態勢やリスク管理態勢が、専門性・人数の両面で確立されていない中で、リスクに関する議論もなく、テールリスクを意識しないまま、表面利回りが3%を上回る、複雑なクレジット関連商品等の仕組債に投資している。

上記の問題事例は、地銀の有価証券運用体制が整っていないところが比較的多いということを示しています。

このような経営陣・運用体制の事例は特殊ではないかと考える方もいらっしゃるでしょうが、大手行であったとしても有価証券運用部門の人数は少ないことが一般的です。

また地銀は104行(第一地銀、第二地銀合算、日本金融通信社調べ2018年6月末時点)しかありません。今回の立ち入り検査は31行(銀行27行、持株会社4社)ということですから、相応のカバーがなされていると見るべきでしょう。

しかし、リスクを把握せずに投資をしているのであれば、それは最早、銀行ではありません。また、貸出債権ではあまりリスクを取らないのに、有価証券では過大なリスクを取っているというのもおかしな話でしょう。

金融庁は、各地銀の運用体制について詳細なモニタリングを今後も行ってくることは間違いありません。

そして、上記事例の経営体力やリスクコントロール能力対比でのリスクテイクや含み損の処理に課題がみられた23行のうち8行では、目先の期間収益を確保するために、有価証券含み損の処理を先送りしている事例がみられました。

(キ) 株式の「ブル型ファンド」と「ベア型ファンド」を両方購入し、含み益となったファンドを売却して期間収益を嵩上げする一方、含み損の処理を先送りしている。

(ク) 本業利益の悪化を穴埋めするために有価証券の益出しを繰り返した結果、有価証券含み益が枯渇した。こうした中、目先の期間収益の赤字を回避するため、外債等含み損が損失限度額管理上のウォーニング・ポイントを大幅に超過しているにもかかわらず、含み損の処理を先送りしている。

この含み損先送り対応は、現行の会計ルール上はおそらく問題ないと言えるでしょう。しかし、投資家に対しては、このようなスタンスで良いのかという問題はあります。

また、商品への理解等についての問題事例も報告されています。

対象31 行中6行では、数名の担当者のもとで複雑なリスクプロファイルを有する投資信託・仕組債等に多数・多額の投資をするなど、複雑な商品の運用態勢・リスク管理態勢に課題がみられたとされています。

(ア) 複雑な投資信託について、経営陣はもとより担当職員さえもその内容・リスクを把握していない。

(イ) 経営陣が投資信託・仕組債が持つリスクを正確に把握していないにもかかわらず、多額の投資を承認している。

(ウ) 投資信託を購入する際の稟議書を販売会社が代理作成しており、担当部署は当該投資信託の月次運用結果の把握・分析さえしていない。

(エ) 同種投資信託の運用成績、手数料などを評価・比較検討することなく、販売会社に勧められるがまま特定の投資信託に投資している。

(オ) 投資信託の商品性・リスクプロファイルを把握していない結果、内部管理規程上投資が許容されていない債券で運用している投資信託に投資している。

(カ) 運用部署が投資信託に投資する際、内部管理規程上の1銘柄当たり限度額を回避するため、同一商品を分割して投資している。また、こうした規程逃れをリスク管理部署や監査部署も見過ごしている。

わずか6行とはいえ、このような状況・体制だと運用はしない方が良いのではないでしょうか。この事象は基本的に論外でしょう。

投資は、どのようなリスクがあるかを把握して投資するものです。また重要なのは、どのタイミングで投資が失敗だった(=損切り)と判断するかでもあります。

この点、対象31行中20行では、市場急変時を想定した対応策に関し、経営体力対比で許容できる損失限度額設定に課題があり、損失が拡大しているほか、限度額に抵触した際の具体的なアクションプランの策定や経営陣の関与・判断にも課題がみられたとされています。

(ア) 外債・投資信託には損失限度額を設定していないため、米国金利上昇時に米国債や米国債型投資信託の含み損拡大に歯止めをかけられていない。
(イ) 損失限度額管理上のウォーニング・ポイントが期間収益の3倍超の水準に設定されているため、米国金利上昇時に外債等含み損の拡大に歯止めをかけられていない。

(ウ) 損失限度額管理上のウォーニング・ポイントに抵触した事実が担当役員に報告されておらず、内部管理規程で定められた協議が実施されていない。

筆者は、地銀の有価証券投資自体は間違いなく必要だと考えていますし、外国債券への投資も国内の資金需要がない(国を除く)以上、当然に行うしかないと思います。

しかし、運用の基本の一つは「損切りの水準を決めておくこと」です。これには個人も法人も、当然に銀行も変わりはないはずです。

筆者は、当初、金融庁がむやみに外債投資を禁止しているようなイメージもありましたが、決算資料の分析および当該モニタリング結果の内容を鑑みると、地銀の外債投資について金融庁が警鐘を鳴らすのも理解はできるようになりました。

 

地銀の有価証券投資についての対応策

地銀(むしろ銀行全体かもしれませんが)の有価証券投資における含み損の先送り、自己資本対比での過大な金利リスクテイクは解決策がないのでしょうか。

金融庁がこのようにモニタリングをするしかないのでしょうか。

解決策は単純です。

債券および投資信託(特に私募投信)への投資についての会計ルールを変えれば良いのです。

例えば、日本では銀行会計において私募投信(プロ向けの投資信託)は「その他有価証券」に分類されます。

この「その他有価証券」は、単純にいえば、評価(含み)損益を損益計算書には反映しなくて良いのです。

また、私募投信は売買益(解約益)等を本業の利益である「業務純益」に計上できます。株式の場合は、売買で儲かったとしても臨時損益(株式関係損益)となり、業務純益に通常は計上できません。

そのため、銀行にとってみれば株式を直接保有するよりは、私募投信の形にして同じ株式に投資した方が本業の収益が良いようにみえるのです(もちろん投資がうまくいき利益が発生すればですが)。

これは債券投資も同様です。

(会計の概要は以下の記事をご参照ください) 

www.financepensionrealestate.work

すなわち、債券も投資信託も常に時価評価を行い、それを銀行の損益計算書に反映することになれば、含み損の先送り、損切りルールもない体制の存続等は許されなくなります。

もちろん、これは暴論と言えるでしょう。今の実務を無視している、銀行の損益状況を分かっていないと批判を受けるかもしれません。

しかし、もしかしたら、銀行は損益計算書(P/L)を中心とした期間損益による経営評価・思考回路から、貸借対照表(B/S)を中心に置いた時価評価を前提とした評価に移行していかなければならない時期にあるのかもしれません。

例えば、上記事例のような損失の先送りは、本質的には無意味であることは間違いありません。

そして、本質的に意味がないことは、大きな流れ・時間の中では解消されてきたのが常ではないでしょうか。

筆者は、事業法人についてはCFの流れを分析・評価上は重視します。金融機関についてはB/Sを重視しています。いずれにしろP/Lは参考にするだけです。

銀行は長らく「貸出金が基本的に簿価評価(≠時価評価)されること」を前提に業務を行ってきました。債務者区分等の査定により、貸出債権を疑似的に時価評価するようになったのは、銀行の長い歴史の中では最近といえます。

貸出金が簿価評価であり、債券投資でも基本的には簿価評価を前提としたような会計ルールであれば、当然にP/Lを重視とした評価・経営を行うことになります。

しかし、IFRS(国債会計基準)の概念等、世の中の流れはB/S重視、時価評価重視になってきました。

暴論かもしれませんが、日本の銀行に適用される会計ルールについても、考え方を整理する時期が来ているのかもしれません。