銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

総務省の家計調査報告の内容を確認すると危機しか感じない

総務省が6月6日に2023年4月の家計調査を発表しました。

この家計調査については、「実質消費4.4%減少しており、2か月連続減少」であると報道されていますが、内容について詳細は認識が無い方多いのではないでしょうか。

筆者は、当該家計調査を見て、少し暗澹とした気持ちになりました。

日本にとっての重要な問題であると思いますので、今回の記事では、家計調査報告の内容について皆さまと確認していきたいと思います。

 

家計調査の概要

まずは以下の表をご覧ください。

(出所 総務省「家計調査報告」2023年(令和5年)4月分)

4月の家計調査で、二人以上の世帯が消費に使った金額は、物価の変動を除いた実質で前年同月比で4.4%減少しました。減少は2か月連続で1世帯当たりの消費額は30万3,076円でした。前の年の同じ月と比べた減少幅の大きさは2021年2月以来、2年2か月ぶりの水準となっています。そして、名目における消費支出も0.5%の減少となっています。

「名目」とは額面どおりの金額で、普段私たちがスーパーなどで目にしている金額そのものです。 一方、「実質」とは、物価の変動の影響を取り除いたものです。

2023年4月の消費支出は、名目で見ると、食料が前年同月比+7.2%、光熱・水道が▲2.3%、家具・家事用品が+2.4%となっています。しかし、これを実質で見ると、食料は前年同月比▲1.1%、光熱・水道が+1.6%、家具・家事用品が▲6.9%と全く別の見え方となります。

2023年4月は、名目の消費は、食料品の価格上昇や保険医療、交通・通信、教養娯楽などで増加したものの、住居費や光熱・水道、被服及び履物、教育、その他消費支出等で若干減少しました。しかし、実質で見ると、ほとんどの項目で減少幅が拡大しているか、上昇幅が名目に比べて小さくなっています。

2023年4月は、消費者は前年同月とほとんど同じだけ消費支出を行いましたが、実質ベースで見ると消費を4.4%もの高い水準で減らしていることになります。

その要因は、収入の実質的な減少でしょう。2023年4月の勤労者世帯の実収入(二人以上の世帯)は、 1世帯当たり55万3,975円となりました。名目では2.6%の前年同月比上昇ですが、実質では1.4%の減少です。世帯収入の増加(賃上げ等)が物価の上昇に追いついていないことが分かります。

 

消費支出の詳細内容

では、防衛色を強めている家計の消費支出について、2023年4月はどのような特徴があったのでしょうか。

まず、値上げの影響を最も実感する食料ですが、穀類が実質で▲4.6%、うち麺類が▲8.0%です。魚介類は▲8.7%、肉類が▲0.2%、牛乳が▲7.8%、卵が▲0.1%、野菜・海藻が+0.8%、果物が+4.1%、油脂・調味料が▲4.7%、うち油脂が▲12.8%、菓子類が▲5.8%、飲料▲2.3%、うちコーヒー・ココア+4.1%、酒類▲2.7%、外食+12.9%です。

食料の傾向としては、穀物や魚介類、牛乳、油、菓子類は購入が控えられた一方で、肉類や卵、野菜・海藻はほぼ横ばい、果物が増加し、外食が大幅に増加しています。家計は生活防衛をしながらも、特にコロナ明けで外食には資金を使っていることが分かります。そして、宿泊料は+6.8%、パック旅行費+66.4%のように旅行にも積極的です。また、交通は+27.4%となっています。

但し、外に出るといっても被服及び履物は▲9.5%となっています。この4月だけを見ると、家計は外出するために身なりを整えることは抑制したとも言えるかもしれません。

また、少し気になるのは教育が▲19.5%と大きく減ったこと加え、学生への仕送りを含むその他の消費支出も▲11.5%となっています。物価高を背景に子供にかける費用が減っている可能性があります。

 

所見

今回は、2023年4月の総務省家計調査の内容を簡単にご紹介してきました。皆さんはどのように感じたでしょうか。

筆者は、外でお金を消費する傾向を確認し、経済的には良い兆候にあるとは考えています。

但し、問題は家計の教育への支出が低下していることです。授業料等、補習教育の支出である教育への実質支出は、4カ月連続で前年同期比低下しています。

教育は「貧者最強の武器」です。貧しい国が発展するために、そして貧しい人々が豊かになるために、必死で教育がなされ、必死に勉強しています。日本の未来も教育が左右することは間違いありません。この教育に対しての支出が物価上昇と共に低下していることは、やはり家計の苦しさを表している可能性があります。要は、不要不急の支出と位置付けられているということです。

この春は大企業中心に賃上げのニュースが流れ、相当な賃上げになったように報道されました。

しかし、今回の家計調査報告書でも示されているように収入は実質的には減少しており、そしてそれが消費行動に影響を与えています。すなわち物価の上昇に賃金の上昇が置追いついていないのです。家計の実質的な消費支出について今後も低下が続くようならば、日本経済は厳しい状況に追い込まれる可能性があります。賃金の更なる上昇が続くか、物価の推移はどのようになっていくのか、我々は注意深く見ていく必要があります。