銀行員のための教科書

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アフターコロナにおけるオンライン消費はどうなるのか

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新型コロナウィルス感染症流行は我々の生活を大きく変えました。

アフターコロナでは戻るものもあるでしょうが、戻らないものもあるでしょう。

特にコロナ禍において著しく増加したものがオンライン消費(EC)です。

このオンライン消費はコロナが終息したならば全体的に低下し、リアル店舗での消費が増えるのでしょうか。それとも、オンライン消費の流れは変わらないのでしょうか。

このような素朴な疑問に対して、日本銀行が分析レポートを発表しています。今回はこの日本銀行のレポートをご紹介したいと思います。

 

家計消費状況調査から見た消費動向

今回の記事は2022年3月に発表された日本銀行ワーキングペーパーシリーズ「新型コロナウイルス感染症拡大前後のオンライン消費動向の分析」からデータを得ています。説明文は抜粋とお考え下さい(筆者が加筆しているところはあります)。

日本銀行は、新型コロナウィルス感染症の拡大を機に観察された経済主体の行動変化が、一時的であるのか、それとも持続的であるのかという論点が、ポストコロナの日本経済を見据えるうえで重要な試金石であると認識しています。特に、オンライン消費の動向に注目しています。

以下は、総務省が実施している家計消費状況調査における全国の(1)EC(電子商取引)世帯割合と(2)EC支出額を時系列で示しているグラフです。

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(出所 日本銀行「新型コロナウイルス感染症拡大前後のオンライン消費動向の分析」)

EC世帯割合は、近年、上昇基調を辿っており、2015年の30%弱から、2020年初の感染症拡大前には45%程度まで上昇しています。感染症の拡大により、一段と上昇し、2020年後半には50%を上回る水準にまで達していることがグラフから読み取れます。

このグラフの破線(点線)は、2015年初から2020年1~3月までの線形トレンドを示していますが、感染症拡大以降のEC世帯割合は、このトレンド線を超えて推移していると日本銀行は指摘しています。

EC支出額も2015年から緩やかな上昇傾向を辿り、感染症が拡大した2020年4~6月以降は、感染症拡大前のトレンドを大きく超えて推移しています。感染症拡大前はEC世帯当たりでみて2.4万円程度であったのが、感染症拡大後は3.0万円を超える水準で推移しており、大きな変化が生じたことがみてとれると日本銀行は説明しています。

次に日本銀行が推計した年代別のEC世帯割合・EC支出額に加え、世帯収入別のEC世帯割合・EC支出額を確認しましょう。

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(出所 日本銀行「新型コロナウイルス感染症拡大前後のオンライン消費動向の分析」)

この推計結果をみると、年収が200万円を下回る層のEC世帯割合を除くと、感染症拡大を機に、EC世帯割合やEC支出額が増加していることが分かります。但し、その変化幅は家計の年収水準によって異なっています。EC支出を行う世帯は、感染症拡大を機に、年収水準が相対的に高い家計で増加した傾向がみてとれるほか、EC支出額をみても、年収800~1,000万円や1,000万円以上の家計で顕著に増加しています。

この背景について、日本銀行は「年収水準の高い世帯の方がオンライン消費を始めるうえでの様々なコストを支払いやすいほか、オンライン販売商品について実物を見ずに試しに購入する行動を取りやすいのかもしれない。」と解説しています。

 

家計アプリデータを用いた分析

次に日本銀行のレポートでは家計簿アプリのデータが紹介されています。家計簿アプリは、マネーフォワード社の家計簿アプリ「マネーフォワード ME」であり、一定の条件によって抽出されたデータが使用されています。

以下のグラフは、この家計簿アプリデータのEC比率を年齢層別に示したものです。

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(出所 日本銀行「新型コロナウイルス感染症拡大前後のオンライン消費動向の分析」)

このグラフにおける「EC比率」とは、1 か月のECサイト経由の支出額を支出総額で除したものをと定義されています。

どの年齢層でも、2016年から2020年初の感染症拡大前までは、EC比率が緩やかに上昇しています。感染症の拡大がみられた2020年4~5月に、このEC比率は大きく上昇し、その後、一度低下したものの、再び上昇基調に転じています。年齢層別の特徴をみると、若い世代の方になるほどEC比率が高く、感染症拡大時の急上昇の度合いも大きいことが分かります。

次のグラフは、全体と年齢層別のEC比率と感染症拡大前のトレンドを折れ線グラフで示したものです。棒グラフは、EC比率のトレンドからの乖離幅となります。

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(出所 日本銀行「新型コロナウイルス感染症拡大前後のオンライン消費動向の分析」)

年齢層別にみると、トレンドからの乖離幅は20代で相対的に大きく、2020年4~5月は+3%ポイントを超え、2020年後半でも+2%ポイント程度となっています。このトレンドからの乖離幅は、年齢層が高くなるにつれて小さくなり、60~70代では+1%ポイント弱となります。

更に、家計簿アプリデータのEC支出ユーザーの変化を見ていきましょう。以下の図は、感染症拡大を機にEC支出を行うようになったユーザーが、その後もEC支出を続けているかどうかを検証するために、アプリユーザーについて、EC支出の有無の変遷を時系列で分析したものです。

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(出所 日本銀行「新型コロナウイルス感染症拡大前後のオンライン消費動向の分析」)

分析では、感染症拡大前の2019年9月~2020年2月の半年間で「EC支出なしグループ」にいて、かつ、感染症拡大初期の2020 年3月~4月にEC支出を行ったユーザーを対象としています。この対象ユーザーのうち、その後の感染症拡大がみられた2020年5月~10月に「EC支出ありグループ」であったユーザーは、81%になっています。さらに、その81%のユーザーのうち、その後の半年間である2020年11月~2021年4月に「EC支出ありグループ」にいたユーザーは、84%になることが分析結果として出ています。

この結果から、感染症拡大を機にEC支出を行ったユーザーの多くが、その後もEC支出を行っていたことが示唆されると日本銀行は説明しています。

こうしたユーザーのEC支出が継続している理由としては、オンライン消費を始める際にOA機器の購入やアカウントの設定といった一定のスイッチングコストを払ったことや、オンラインサイトを一度利用することでその利便性に気付いたことが考えられます。結果として、感染症拡大を機としたオンライン消費の拡大は、相応の持続性をもっていると考えられるというのが日本銀行のレポートでの結論です。

 

今後の動向

上記のように日本銀行は、感染症拡大をきっかけとしたオンライン消費は、一時的なものではなく持続性があるのではないかとしています。

この推論は違うデータでも補強できます。以下はEC比率の国際比較です。

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(出所 日本銀行「新型コロナウイルス感染症拡大前後のオンライン消費動向の分析」)

2019年のEC比率は、日本の3%程度に対して、米国とドイツは10%強となっており、感染症拡大前から既にわが国と比べて相応に高い水準であったことが分かります。そして、2019年から2020年にかけてのEC比率の変化幅をみると、日本の+1%ポイント強に対して、米国とドイツは+3~4%ポイントの上昇となっており、感染症拡大前後でのEC比率の変化に関しても、日本では相対的に小幅にとどまったといえます。また、米国のEC比率の推移をみると、2010年頃には日本の2020年の水準に早くも到達しており、その後は上昇ペースが加速しています。近年、日本と米国のEC比率の差は、一段と拡大しているのです。

すなわち、生活様式や文化等から一概にはいえないものの、日本はまだまだEC比率の拡大の可能性があるということでもあります。

日本では、まだまだ「コロナが終わったら○○となる」という雰囲気があるように思います。しかし、少なくともECの拡大はコロナが加速させたということであり、不可逆の可能性は高いでしょう。

この可能性を鑑みると、例えば、不動産賃貸では物販テナントが今後も安定的なテナントでしょうか。コロナが終わったらリアル店舗で元のように消費されるのでしょうか。

株式投資家、不動産投資家のみならず、様々な業種に働く人々にとって、オンライン消費の動向が大きな影響を与えます。我々はアフターコロナ、ポストコロナというような区切りをしたがる傾向にありますが、冷静にオンライン消費について考えていくことが必要かもしれません。