銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の本質は「信用」にある

全米16位の規模であるシリコンバレー銀行が破綻しました。リーマンショック以降では第2位の規模の銀行倒産です。これはFRBの金融引き締めの副作用という側面もあり、大きなニュースと言えるでしょう。

このシリコンバレー銀行の破綻は、明らかに銀行の取り付け騒ぎによるものです。

今回は、銀行の破綻原因の主なものである、この取り付け騒ぎに焦点を当ててみたいと思います。

 

取り付け騒ぎとは

取り付け騒ぎとは、特定の銀行に対する不信・不安が煽られた結果、預金者が払い戻しを求めて銀行へ殺到し、大混乱を招くことを意味します。不安の種は根拠の希薄な風評であることが多いともされています。

今回のシリコンバレー銀行の破綻は、シリコンバレーの親会社が3月8日に財務改善のために有価証券の売却や増資計画を発表したことがきっかけでした。この発表が逆にシリコンバレー銀行への信用不安につながり、預金の流出が加速し一気に資金繰りに行き詰まった可能性があると報道されています。

銀行はその事業の特性上、全ての預金者から一斉に預金を引き出そうとされると、どんなに財務が強固な銀行であっても破綻します。

銀行は預かった預金を全て現金で持っている訳ではありません。預かった預金を元手に貸出や有価証券投資を行っています。貸出は債務者にお金を渡すことですから、銀行の手元からはお金(≒キャッシュ)が無くなるのです。また、有価証券投資も銀行の手元からお金は無くなり、有価証券を発行した主体や有価証券を売却した主体にお金が渡ります。貸出は銀行がすぐに返して欲しいと考えても出来ません。例えば、住宅ローンを借りている人が、銀行が資金繰りに困ったから今すぐ返してくれと銀行から要求されても、返せないでしょうし、返さないでしょう。それは契約で返済期日が決まっているからです。有価証券のうち債券や株式は流動性があるのですぐにキャッシュ化できるものはありますが、銀行の本業はやはり貸出です。

銀行の分かりやすいビジネスモデルは、預金のような短期資金でお金を調達し、それを長期資金として貸し出すことで、資金を運用しています。短期金利と長期金利の差で銀行は儲けるのです。預金はすぐに払い戻しを要求される可能性がある一方で、貸出はすぐに返済を求めることが出来ません。その代わりに貸出は利回りが高い運用手段となります。

これが銀行のビジネスモデルである以上、銀行は取り付け騒ぎが起きないように「信用されること」が最も大事だということになります。

 

銀行が信用を受けるということ

では、どのような銀行が信用されて預金を預けてもらえるでしょうか。どのような銀行だったら預金者から預金を一斉に引き出されないでしょうか。

有名なところ、儲かっていそうなところ、立派に思えるところ、格式高そうなところ、歴史がありそうなところ、財閥の名前が付いているところ、そんな銀行だったら、預金者にきちんとお金を返してくれそうではないでしょうか。

銀行には目に見える商品はありません。

銀行が信用されるためには、立派な建物に入り、格式で預金者を圧倒し、この銀行にお金を預けても安心と思わせる必要があったのでしょう。だからこそ、銀行の建物は立派でした。

筆者は若い頃、銀行の本店・店舗が立派なのは儲かっているからだと思っていましたが、銀行の建物が立派だった本質は預金者から信用されるためなのです。もちろん、今は自己資本比率が開示されたり、金融庁が検査して信用が置ける銀行としてお墨付きを与えたりしています。建物が立派だからといって信用される時代でもなくなってきましたが、銀行が信用される本質は「印象」「イメージ」なのです。

シリコンバレー銀行が破綻した理由は、単純化すれば預金者から信用されなくなったからです。

シリコンバレー銀行は黒字企業ですし、財務の安定性もありました。有価証券投資の割合が、貸出中心の他銀行よりは多かったものの、有価証券投資の割合が多いことは、むしろ財務の健全性にはプラスとなることが多いものです(債券はすぐにキャッシュ化出来るものが多いため)。

しかし、今回、シリコンバレー銀行はすさまじい勢いで信用を失い、わずか2日ほどで破綻しました。銀行の信用というのは構築するのに多大な労力やコストがかかる一方で失うのは一瞬です。それをまざまざと見せつけられたのがシリコンバレー銀行の破綻でした。銀行の本質は、やはり信用にあるのです。