銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

コロナが地域金融機関に何をもたらしたのか

f:id:naoto0211:20220130100047j:plain

コロナ禍は、我々に様々な影響を与えてきました。

リアルで人と会うことが減り、飲み会は激減し、海外旅行は行けなくなりました。そして、通勤用に準備していた様々なことが減ったり、日本全体ではお金を使わなくなりました。

その結果は、地域金融機関に対しても大きな影響を与えています。

今回は、コロナが地域金融機関(地銀と信金)に何をもたらしたのか、簡単に確認していきたいと思います。

 

預金と貸出・有価証券の関係

2022年1月に日本銀行が金融システムレポート別冊シリーズとして「コロナ禍における地域⾦融機関のバランスシート運営」を発表しました。今回はこの金融システムレポートからのデータをベースに確認していきます。

コロナ禍以降、預⾦の流⼊ペースが加速したことが、地域⾦融機関(いわゆる地銀や信用金庫)のバランスシートに⼤きな変化をもたらしています。地域銀⾏・信⽤⾦庫とも、2020年度以降の預⾦増加が預貸差や預証差の拡⼤につながっています。

f:id:naoto0211:20220130104120j:plain

預貸差は、2016年度を直近ピークに緩やかな縮⼩傾向にありましたが、2020年度中の預⾦増加を背景に再拡⼤しています。また、預証差は、2010年代以降、拡⼤傾向にあったが、⾜もとにかけて⼀段と拡⼤しています。

要するに、貸出や有価証券へ資金を振り向けようとしても、それ以上に預金が集まってきたのがこのコロナ禍の状況ということになります。

 

バランシートの変化

2020年3⽉末から2021年9⽉末にかけてのバランスシート変化の内訳をみると、地域銀⾏・信⽤⾦庫の負債サイドでは、各種の助成⾦・給付⾦や⾦融機関からの借⼊⾦の滞留を背景に、法⼈・個⼈預⾦が 50 兆円程度増加していることが分かります。次いで、⽇銀からの借⼊も、新型コロナ対応⾦融⽀援特別オペの利⽤増加を背景に40兆円程度増加しています。⼀⽅の資産サイドでは、貸出が中⼩企業の資⾦需要に応需した結果として増加したほか、有価証券も増加しました。

f:id:naoto0211:20220130105840j:plain

但し、預⾦の増加額が⼤きく、増加ペースが急だったこともあって、その多くはいったん、⽇銀当座預⾦を含む預け⾦に滞留するかたちとなっています。

コロナ禍における政府の支援策等は、個人や法人の生活・事業防衛の動きと相まって、地域金融機関に急激な資金(預金)流入をもたらしたものの、その資金が急すぎて市中(貸出や有価証券)に出回っていないということなのです。

コロナ禍の間に積み上がった預⾦の⼤部分は、各種の助成⾦・給付⾦や借⼊⾦が滞留しているものです。したがって、経済活動が正常化すれば、預⾦も流出する⾒⽅は存在します。特に、法⼈預⾦の⼀部は借⼊⾦であることから、借⼊⾦の返済につれて、借⼊⾦と預⾦が両建てで減少するとみられています。一方で、経済活動が正常化しても、コロナ禍以前のような⽀出⾏動が必ずしも戻って来ない可能性があり、預金は減らないという⾒⽅も少なくありません。

地域金融機関は、預金の残高動向を推測しながら、貸出・有価証券投資をどれだけ増やすのか、前例のない中で難しいかじ取りを迫られています。

 

リスク

預⾦増加の影響は、地域⾦融機関の有価証券ポートフォリオに及んでいます。保有する国債の⼤量償還が続くなか、償還資⾦は、事業債・地⽅債などの国内債のほか、外債や、マルチアセット型などの投資信託に再投資されてきました。

f:id:naoto0211:20220130110913j:plain

(出所 日本銀行「コロナ禍における地域⾦融機関のバランスシート運営」)

コロナ禍以降に資⾦運⽤ニーズが⼀段と⾼まったことも、有価証券の積み増しペースを加速させる要因となっています。その結果、内外⾦利リスク量の増加が残⾼と残存期間の両⾯で顕著となっているほか、市場リスクに対する配賦資本の⽔準も切り上がっています。

f:id:naoto0211:20220130111202j:plain

(出所 日本銀行「コロナ禍における地域⾦融機関のバランスシート運営」)

このグラフで分かるように、地域金融機関は、そのバランスシートに金利「上昇」リスクを溜め込んできているのです。(金利が上昇すると債券の価格は下がります。このようなリスクを抱えていると考えておけば良いでしょう)

日銀によると、地域金融機関の有価証券運⽤を通じたリスクテイクは、今後も、投資信託を中⼼に続くことが⾒込まれています。地域銀⾏・信⽤⾦庫の双⽅において、資⾦運⽤や利回り確保を⽬的に、マルチアセット型の投資信託をはじめとした残⾼の積み増しが計画されているということなのです。このような投資信託運⽤の拡⼤によって、リスクファクターの多様化や複雑化が⼀段と進む姿となっています。

f:id:naoto0211:20220130111900j:plain

特に、地域銀⾏・信⽤⾦庫の多くが保有するマルチアセット型投資信託には、先進国の⾦利・クレジット・株価を含む、複数のインデックスが組み⼊れられています。

地域金融機関のリスク管理は更に複雑化していくことになります。

 

まとめ

コロナ禍以降、地域⾦融機関の預金は急拡大しました。

負債サイドである預金が急拡⼤する下で、地域金融機関は貸出や有価証券への運用拡大を迫られています。日銀当座預金が増加してマイナス金利の適用を大手銀行が約6年ぶりに受けたという報道が先日されていましたが、まさに地域金融機関も同じ状況です。

そして、預金を運用することへのプレッシャーは、⾦利リスク量の増加や、有価証券運⽤におけるリスクテイクを地域金融機関にもたらしました。今後の預⾦の動向次第では、バランスシートがさらに拡⼤する可能性すらあります。

このような状況下において、日銀は、地域金融機関に対して、⾦利リスクや市場リスクの観点から、預貸差や預証差をどう管理していくのか、さらには、有価証券をはじめとするリスクアセットと⾃⼰資本をどうバランスさせるのかなど、バランスシート運営のあり⽅について注目をするようになってきています。

そして、地域金融機関の運⽤⼿段となる有価証券については、リスクテイクに⾒合ったリスク管理体制を継続的に整備していくことも日銀は要求してくるでしょう。

コロナ禍が地域金融機関にもたらしたものは、運用とリスク管理の高度化ということなのです。