米国シリコンバレー銀行が破綻しました。リーマンショック後で2番目の規模の銀行が破綻したことになります。日本の地銀最大手である「コンコルディア・フィナンシャルグループ」(横浜銀行と東日本銀行の持ち株会社)の総資産は24.6兆円ですが、このコンコルディアよりも大きな銀行が米国で破綻したのです。
米国ではシグネチャー銀行も破綻したことから、主に地銀に対して預金者や投資家の目線が厳しくなり、更なる破綻が出てくる可能性も否定はできません。
では、この米国の銀行破綻は日本には関係ないのでしょうか。
日本の銀行株が大幅に下落したところを見ると、決して関係が無いとは言い切れません。シリコンバレー銀行という規模の大きい銀行が破綻したならば、日本のメガバンクも安心・安全ではないのでしょうか。
今回は、日本のメガバンクの財務内容をシリコンバレー銀行と比較し、日本のメガバンクの信用力について簡単に考えてみたいと思います。
シリコンバレー銀行の財務内容
まずは、破綻前(2022年12月末)時点のシリコンバレー銀行(正確にはシリコンバレー銀行の親会社である「SVBフィナンシャルグループ(SVBFG)」)の財務内容等を確認してみましょう。
簡単にするために、主要項目だけを抜粋します。
<資産>
- 貸出金(貸倒引当金等控除後) 736億ドル(約9.9兆円)
- 有価証券 1,200億ドル(約16.2兆円)
- うち米国債 164億ドル(約2.2兆円)
- うち住宅ローン債権担保証券(RMBS) 640億ドル(約8.7兆円)
- うち不動産抵当証券担保債券(CMO) 105億ドル(約1.4兆円)
- うち商業不動産担保証券(CMBS)152億ドル(約2.1兆円)
<負債>
- 預金 1,731億ドル(約23.3兆円)
<自己資本比率>
- CET1比率(普通株式等Tier1比率)15.3%
<有価証券含み損益>
- 含み損▲28億ドル(▲3,780億円)※有価証券分類での内訳無し
SVBFGは、23兆円の預金を16兆円の有価証券と10兆円の融資で運用しています(預金の方が足りませんが、それは資本(株式等)によって賄われています)。預金をどの程度貸出に回しているかという預貸率という指標がありますが、SVBFGは4割強となっています。
そして有価証券は、米国債が多い訳ではなく、その3/4が不動産担保の付いた不動産ローンを証券化したものです。シリコンバレーに存在する銀行ではありますが、有価証券としての投資対象は不動産ということが分かります。
自己資本比率は、新規制で基準となるCET1比率という項目で見ておきます。国際的な銀行に求められる規制の最低ラインが7.0%であり、SVBFGはこれを大幅にクリアしています。
尚、有価証券は保有残高に対して▲2.3%の含み損となっています。
これらの数字を基にメガバンクと比較してみましょう。
みずほFGの財務内容
では、メガバンク内では3番手と言われるみずほフィナンシャルグループ(FG)の財務内容はどのようなものでしょうか。以下は2022年12月末時点のみずほFGの連結決算によるものです。
<資産>
- 貸出金 91兆円
- 有価証券 35兆円
- うち日本国債 15.6兆円
- うち外国債券 10.8兆円
- うち日本株式 3.0兆円
<負債>
- 預金 162兆円
<自己資本比率>
- CET1比率 11.7%
<その他有価証券含み損益>
- 全体含み損益+0.3兆円
- うち国内株式+1.4兆円
- うち国内債券▲0.1兆円
- うち外国債券▲0.9兆円(但し、ヘッジ勘案後▲0.6兆円)
- うちその他▲0.1兆円
みずほFGの財務内容を見ると、シリコンバレー銀行とは異なる点があることに気づくでしょう。
まず、預金のうち貸出に回している割合が異なります。次に、貸出に比べて有価証券で運用している割合がシリコンバレー銀行とは逆です(シリコンバレー銀行は貸出よりも有価証券投資の方が多いのです)。
そして、みずほFGの場合は、保有している有価証券の内訳が、不動産ローンの証券化商品ではなく、そのほとんどが国債(外国の政府発行債券含む)となっています。
外国債券は2021年3月末だと▲330億円だった含み損益が、2022年3月末には▲4,142億円 となり、2022年12月末に▲9,164億円まで悪化しています。但し、ヘッジ勘案後だと2021年3月末が▲270億円、2022年3月末が▲2,789億円、2022年12月末が▲5,599億円であり、相応の対応は図られています。
尚、自己資本比率はみずほFGよりもシリコンバレー銀行の方が勝っていました。有価証券の含み損はみずほFGも多額に出ていますが、ヘッジ取引(損が拡大しないようにカバーする金融取引)を使って外国債券についてはリスクをコントロールしています。そして、現段階では有価証券全体で含み損には転落していません。
尚、みずほFGの場合(というよりは日本のメガバンクの場合)には、少し特徴的な財務面のポイントがあります。
<外貨預貸ギャップ>
- 外貨貸出金 3,054億ドル
- 外貨顧客預金 2,327億ドル
- 貸出に対する預金の割合 76%
このように、みずほFGは海外で貸出を行っていますが、この外貨貸出を外貨預金ではカバーできていません。そのため、みずほFGは外部から外貨を借りてこなければなりません。この点が特徴的ではあります(みずほFGや日本のメガバンクの資金繰りで注意を要するポイントです。
では、次に三井住友フィナンシャルグループを見てみましょう。
三井住友FGの財務内容
次に三井住友フィナンシャルグループ(FG)の2022年12月末時点の財務内容を確認してみましょう。
<資産>
- 貸出金 99兆円
- 有価証券 31兆円
- うち日本国債 9.4兆円
- うち外国債券 11.6兆円
- うち日本株式 3.2兆円
<負債>
- 預金 169兆円
<自己資本比率>
- CET1比率 13.9%
<その他有価証券含み損益>
- 全体含み損益+1.4兆円
- うち株式+1.8兆円
- うち国内債券 ▲0.1兆円
- うち外国債券 ▲0.9兆円(ヘッジ実施もヘッジ効果の記載無し)
- うちその他+0.6兆円
三井住友FGも、預金のうち6割程度は貸出に回しています。これはシリコンバレー銀行との大きな違いです。三井住友FGもシリコンバレー銀行と比較すれば、みずほFGと似通った財務内容になっています。三井住友FGの方がみずほFGよりは自己資本比率も厚いのですが、それでもシリコンバレー銀行に劣後しています。
また外貨預貸ギャップは以下の通りであり、みずほFGと共通している課題となります。
<外貨預貸ギャップ>
- 外貨貸出金 373十億ドル
- 外貨顧客預金 263十億ドル
- 貸出に対する預金の割合 71%
三菱UFJFGの財務内容
では、最後に三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)の財務内容も確認しておきましょう。
<資産>
- 貸出金 120兆円
- 有価証券 82兆円(満期保有目的有価証券が18兆円と多い)
- うち日本国債 34.8兆円
- うち外国債券 22.4兆円
- うち日本株式 5.0兆円
<負債>
- 預金 220兆円
<自己資本比率>
- CET1比率 9.9%
<その他有価証券含み損益>
- 全体含み損益+0.8兆円
- うち株式+2.5兆円
- うち国内債券 ▲0.3兆円
- うち外国債券 ▲1.6兆円(ヘッジ勘案後の評価損益▲1.0兆円)
- うちその他+0.2兆円
三菱UFJFGは、他メガ2行とは規模が異なります。預金のうち貸出に回している率は、みずほ・三井住友よりも低く、その分を有価証券に投資しています。
そして、邦銀最大ではありますが、自己資本比率(CET1)はメガバンクの中では最も低くなっています。もちろんシリコンバレー銀行よりも自己資本比率は低い形です。この自己資本比率では判断が難しいところですが、三菱UFJFGは、米国子銀行であるMUFG Union Bankを売却しており、これで自己資本比率は上昇すると発表しています。ある程度は自己資本比率の向上を意識していることが分かります。ただ、邦銀の他メガよりは配当含めた株主還元を意識し、コントロールしていく方針ということでしょう。
尚、三菱UFJFGの外貨預貸ギャップは以下の通りとなっており、他メガと比べて問題が発生していません。
<外貨預貸ギャップ>
- 外貨貸出金 51兆円
- 海外店その他子会社等預金 52兆円
- 貸出に対する預金の割合 102%
外貨という観点では、最も資金繰りに問題が無いのは三菱UFJでしょう。
まとめ
以上、シリコンバレー銀行と日本のメガバンクを簡単な数字で比較してきました。
シリコンバレー銀行とメガバンクとの財務面における大きな差は、「貸出(融資)を本業としているか否か」でしょう。シリコンバレー銀行は、有価証券投資が多く、ビジネスモデルとしては、預金を集めて債券投資をおこなっているようなものでした。一方で、メガバンクは預金を集めて貸出を行っている割合が強くなっています。この差は、今回大きくクローズアップされて良い点であり、シリコンバレー銀行の破綻は特殊と言われる理由です。
筆者は、現時点ではシリコンバレー銀行の破綻はメガバンクの経営には大きな影響を及ぼさない可能性が高いと見ています。その理由は、この財務内容の違いです。メガバンクの方が、経営が「堅い」のです。メガバンクの預金は個人からの預け入れだけではなく、何よりも融資先の企業の預金も集まってきます。そう簡単には引き出されない預金が大量にあるところは、シリコンバレー銀行とは異なるでしょう。
そして、有価証券運用もメガバンクは堅実です。利回りが多少低くとも流動性のある国債(外国政府の国債含む)へ投資を行い、更にヘッジ取引も活用しています。シリコンバレー銀行は金利上昇をコントロール出来ていなかったのではないかと筆者は推察していますが、メガバンクは金利上昇のリスクをある程度コントロールしています。
これらを考えると、自己資本比率はメガバンクの方がシリコンバレー銀行よりも低かったとはいえ、信用力という観点ではやはりメガバンクの方が高いのでしょう。
しかし、これも結果が出た後から振り返るとそのように思うだけで、シリコンバレー銀行は外から見ると十分すぎるほどに信用力に懸念はなかったものと思われます。
シリコンバレー銀行の事例は、銀行は健全だったとしても、信用を失えばあっさりと倒産することを、この現代においても証明しました。究極的には、銀行は実際の財務内容が不健全だったとしても、だれも疑わなければしばらくは問題なく生き延びるということになりますし、健全であっても破綻に至ることもあるということであり、銀行の最大の生命線は「信用」なのです。シリコンバレー銀行とメガバンクの比較は、この信用について考える材料を我々に提供しています。