銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

金(ゴールド)は本当にインフレに強いと言えるか

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ロシア軍によるウクライナ武力侵攻が懸念されています。このウクライナ危機の中で原油価格や商品価格が上昇しています。「有事の金(きん)」とも言われるように金(ゴールド)価格も上昇しています。

また、米国では物価上昇が問題となっています。FRB(米連邦準備制度理事会)が、物価上昇を抑制するために、米国において利上げを検討しているのはご承知の通りでしょう。世界各国で物価上昇が起きており、そこにウクライナ危機が出てきているのが今の世界の状況です。

金(ゴールド)は、有事の金(きん)と言われるだけでなく、物価上昇(インフレ)にも強いとされています。

この「金(ゴールド)=インフレに強い」は当然のように様々な媒体で述べられています。

しかし、今回はあえて疑問を呈したいと思います。

我々日本人にとって、金(ゴールド)はインフレに本当に強いのでしょうか。

皆さんと確認していきたいと思います。

 

インフレとは

インフレとは「物の値段が上がり続ける状態」を指します。

商品等の値段が上がることは、「お金の価値が下がる」ことと同義です。

例えば、今まで120円で買うことが出来ていたコンビニのおにぎりが240円になったとします。同じおにぎりを手に入れるのに2倍のお金が必要になったことになります。これは、「お金の価値が2分の1になった」ということと同じ意味になります。

インフレの環境下では、お金をそのまま持っていても価値が下がっていってしまうので、価値を維持するために「何かに変えておく」ことが推奨されます。

その「何か」として金(ゴールド)や不動産が挙げられることが多くなっています。

 

金(ゴールド)がインフレに強いとされる理由

米国のドルや日本の円、欧州のユーロのような国家が発行する通貨(貨幣)は、発行する国の状況に価値が左右される可能性があります。

一方で、金(ゴールド)は実物資産であり、宝飾用・工業用としての実需もあります。金(ゴールド)はそれ自体の希少性に価値があるのであり、だからこそインフレに強いとされているのです。

 

本当にインフレに強いのか

では、金(ゴールド)の価値は過去にどのように推移してきたのでしょうか。

まずは以下のグラフをご覧ください。

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(出所 消費者物価指数は政府統計データ、金価格は田中貴金属 参考小売価格(税抜、円/グラム)データを利用しグラフを筆者作成)

この消費者物価指数(CPI総合)は、政府統計データであり、2020年を100としたもの(2020年基準)です。

そして、金(ゴールド)のグラフは、田中貴金属の参考小売価格の推移(金輸入自由化以降)です。我々は日本に住み、日本円を使っていますので、金価格も円ベースで見ていきます。

この両者のデータを見ると、1970年代には物価(CPI)と金価格には相応の連動性がありそうに見えます。しかし、1980年代以降については物価と金価格が連動しているようには見えません。

次に以下のグラフをご覧ください。

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(出所 消費者物価指数は政府統計データ、金価格は田中貴金属 参考小売価格データを利用しグラフを筆者作成)

こちらは前掲のグラフよりは古いデータを基にしたものです。

消費者物価指数については「持家の帰属家賃を除く総合」については古いデータが公表されていますので、それを使っています。

そして、金価格については田中貴金属のWebサイトで公表されている金輸入自由化前のデータを使いました。但し、年によって掲載されているところと、掲載されていないところがあるため、データとしては上記のようになっています。

戦後においては、物資不足によって物価が上昇し、さらに旧軍人への退職金の支払い等で世の中にお金が溢れ、猛烈なインフレが起きました。円(えん)の信用が棄損されていたのです。

この時期においては、金(ゴールド)は有力なインフレの回避(ヘッジ)手段だったものと思われます。

また、1970年代のオイルショックがもたらした世界的なインフレは、金(ゴールド)の需要を促進し、金(ゴールド)価格を押し上げました。この時期に、「金(ゴールド)はインフレヘッジになる」との定説が生まれたとされています。

 

まとめ

戦後とオイルショック時以降で考えると、物価(CPI)と金価格が連動している、すなわち「金(ゴールド)はインフレに強いとは言えなさそう」ということが分かると思います。

金(ゴールド)はインフレに強いというのが定説です。しかし、自分で数字を見てみると、少し違うことに気づくかもしれません。思い込みは禁物なのではないでしょうか。