邦銀最大手のMUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)が2020年4~9月の決算を発表しました。
コロナ禍の影響を受けているものの、冷静に見て数字は悪くはないでしょう。
今回はMUFGの2021年3月期2Q決算を簡単に見ていきたいと思います。
決算概要
まず、MUFGの2020年度上期業績の概要は以下の通りです。
(出所 MUFG「2020年度第2四半期決算ハイライト」)
一般企業の売上高に相当する業務粗利益が増加した一方で、営業費(経費)は増加が抑制されたことから、一般企業の営業利益にあたる業務純益は増益となりました。
一方で、不良債権処理費用等によって経常利益・純利益は減益となっています。
これをもう少し詳しく説明したのが以下の図表です。
(出所 MUFG「2020年度第2四半期決算ハイライト」)
この図表の①~④に対応する説明は以下の通りです。
①業務粗利益(≒売上高)
• 海外子会社の新規連結化に伴う資金利益の増加に加えて、市場関連収益の増加もあり
業務粗利益は1,238億円増加
②営業費・経費率
• 海外子会社の新規連結化影響があったものの、国内経費削減もあり営業費は105億円増加に留まった結果、経費率は64.6%に低下
③与信関係費用総額
• 新型コロナウイルス感染症拡大による世界的な信用リスクの増加や、海外子会社における新会計基準導入の影響もあり、前年同期比2,403億円増加し、2,584億円の費用計上
④親会社株主中間純利益
• 上記の与信関係費用総額の増加に加えて、退職給付費用の増加もあり、親会社株主
中間純利益は2,061億円の減益
以上がMUFGの2020年3月期中間決算の概要です。
この中間決算を受けて、MUFGは通期の業績見通しを上方修正しました。
(出所 MUFG「2020年度第2四半期決算ハイライト」)
最終利益は、外貨預金残高・海外証券ビジネス上振れ、経費削減への取組み加速のプラス要因がある一方で、与信関係費用の増加があるものの、全体としてみれば増加する予想となっています。
中間時点の最終利益が4,000億円あることを考えると、残り半年で+2,000億円となるので保守的といえるかもしれません。ただし、2020年度下期はコロナ影響による与信費用増加を警戒しているということでしょう。
MUFGの決算は本当に良いのか
前項では、MUFGの決算概要について見てきました。特に本業の利益である業務純益が増加している点がポイントとなるでしょう。
しかし、本当に「良い」決算なのでしょうか。地銀の業績は厳しいと報道されていますし、低金利環境も続いています。MUFGは丸の内のオフィスを縮小する、店舗を大幅に削減する等の方針も出しています。このような環境下で、なぜMUFGは本業の利益を増加させることができているのでしょうか。
(出所 MUFG「2020年度第2四半期決算ハイライト」)
このグラフはMUFGの事業本部別営業純益(社内管理上の連結業務純益)です。
この推移を見ると顧客部門の営業純益はほとんど変わっていません。
一方で、市場部門の営業純益が大幅に増加していることが分かります。
違う切り口でグラフにしたものが以下です。
(出所 MUFG「2020年度第2四半期決算ハイライト」)
上図表はMUFGの置かれた状況を分かりやすく説明しています。
<用語の定義>
- R&C :法人・リテール事業本部(個人と中小・中堅企業取引)
- JCIB :コーポレートバンキング事業本部(大企業取引)
- GCIB :グローバルCIB事業本部(海外投資銀行等と想定)
- GCB :グローバルコマーシャルバンキング事業本部(海外銀行ビジネス)
- 受財 :受託財産事業本部(主に資産運用・管理)
- 市場 :市場事業本部(マーケット運用等)
この図表が示すように、顧客部門の業績は「GCB」が増益になっているものの、他の事業本部は苦戦しています。GCBは「米国は金利低下により減益も、タイにて顧客の流動性確保に伴う預貸金積上げ、及びインドネシアの連結効果や経費削減が奏功し、増益」と説明されており、基本的には現地銀行の業績が上乗せされているということになるでしょう。すなわち、他の顧客部門は苦戦しているのです。
そして、MUFGの本業利益の増益要因となったのは市場部門であることが明らかです。市場部門は1,264億円の増益になっていますが、MUFG全体の中間期の業務純益が前年同期比+1,133億円となっていますので、市場部門の増益でMUFGの増益理由は説明できるといっても過言ではありません。
コロナ対応としての貸出金が増加し本業の利息収入が増えた等の要因というよりは、マーケット(市場)によるところが大きいのです。
市場部門業績についてMUFGは「顧客ビジネスはコロナ禍で為替取引が減少するも、海外のフロートレーディングが貢献、トレジャリー業務は金利低下局面を捉え増益」と説明しています。
一般論になりますが、金利低下局面では債券は価格が上昇します。日本の銀行は、金利低下局面で債券の保有・売却等で利益を確保してきました。コロナショック後は、米国を中心に海外での金利が低下しています。この金利低下局面でMUFGも収益を上げたものと思われます。
所見
以上MUFGの2021年3月期第2四半期決算を確認してきました。
コロナ影響による貸出増加や不良債権処理については、マスコミ等で説明されるでしょうから、今回はMUFGの増益は市場部門が要因であることを簡単に説明させて頂きました。
そして最後に以下の図表をご覧頂きたいと思います。
(出所 MUFG「2020年度第2四半期決算ハイライト」)
このグラフは中間純利益の構成要因(内訳)を説明しています。
三菱UFJ銀行が中心となっていることは間違いありませんが、モルガン・スタンレーが全体の4分の1強を占めていることが分かります。モルガン・スタンレーは持ち分法適用会社であり日本では証券会社を合弁で運用していますが、モルガン・スタンレーはMUFGの連結子会社ではありません。
言い方を変えれば、モルガン・スタンレーはMUFGにとって素晴らしい投資だったと思います。今もこれほどの利益をもたらしてくれています。しかし、連結子会社ではないことから、MUFGの本質的な稼ぐ力(顧客部門へのサービス)としてはカウントができないでしょう。
MUFGは邦銀トップの規模と利益水準を誇るものの、少なくともその最終利益は、モルガン・スタンレーへの投資による利益が上乗せされていることは忘れてはならないでしょう。
そして、その上で、MUFGの2020年4~9月の半年間の業績は、マーケットに助けられたものでした。もちろん、コロナ影響をうまく市場取引でカバーしたという言い方もできるでしょう。但し、少なくとも顧客部門でうまく利益を上げたからMUFGの決算が好調だったとは言えません。
あえて言えば、MUFGの中間決算はマーケットに助けられた決算だったと言えるのではないかと筆者は考えています。