「商業五輪」という用語をお聞きになった方は多いのではないでしょうか。商業五輪が始まったのは1984年のロス五輪からと言われます。
今回の東京オリンピックでも、国際オリンピック委員会(IOC)の組織存続のために中止に出来ない等々の報道が飛び交いました。
今回は商業化、そして肥大化しているとされるオリンピックの期間でもあるので、スポーツ産業の状況について、簡単に確認してみたいと思います。
日本におけるスポーツGDP
まず日本におけるスポーツ産業の規模はどの程度なのでしょうか。
日本政策投資銀行、日本経済研究所および同志社大学が2014~2016 年のスポーツ産業の経済規模を推計したデータがあります。
(出所 わが国スポーツ産業の経済規模推計~日本版スポーツサテライトアカウント 2018~2014,2015,2016 年推計)
上図の通り、スポーツGDP は、2014 年約 7.2 兆円、2015 年約 7.4 兆円、2016 年約 7.6 兆円と推計されています。
このスポーツGDPの内訳は、各年でスポーツ部門は約 5.0~5.3 兆円、流通部門は約 1.0
~1.1 兆円、投入部門(スポーツ産業を生み出すための上流の過程と定義)は約 1.1~1.2 兆円となっています。
そして、スポーツ GDP の国内総生産(GDP)に占める割合は、おおむね1.4%程度となっています。
さらにスポーツGDPを細かく見ていくと、以下のよう分類となっていることが分かります(2016年分、1,000億円以上の主要項目を抜粋)。
- スポーツ活動 25,394億円
- (うちスポーツ施設提供業 12,389億円)
- (うち競輪・競馬等の競走場・競技団 8,288億円)
- (うちスポーツ・健康教授業 2,222億円)
- (うち興行場(映画館を除く)・興行団 2,496億円)
- 商業・輸送 15,516億円
- 教育 14,082億円
- 情報通信 3,496億円
- ホテル・レストラン 1,906億円
- 食品飲料 1,506億円
- 健康 1,350億円
- 建設 1,353億円
- スポーツ用品 1,405億円
- 電力・ガス・水道等 1,281億円
この分類で見ると、スポーツGDPと言いながらも、直接のスポーツ活動2.5兆円は全体7.6兆円の3分の1程度であることが分かります。
これは、違うデータでも同様の傾向が示されています。
スポーツ庁・経済産業省が発表している「スポーツ未来開拓会議 中間報告(2016年)」では以下の産業規模が示されています。
- スポーツ産業全体 5.5兆円
- うちスタジアム・アリーナ 2.1兆円
- うちアマチュアスポーツ 0兆円
- うちプロスポーツ(興行収益等) 0.3兆円
- うち周辺産業(スポーツツーリズム等) 1.4兆円
- うちスポーツ用品 1.7兆円
この数値は、アパレル・スポーツ用品、施設、観戦スポーツ等の売上から、公営競技と学校教育関連費用等を除いたものです。前述のスポーツGDPにおける競輪・競馬に教育を加えると、スポーツGDPと上記産業規模は全体額としては同じ規模となります。
また、以下のデータ(国内スポーツ総生産)も参考となるでしょう。
(出所 産業競争⼒会議 実⾏実現点検会合2016年4⽉13⽇資料「世界のスポーツ産業の動向と⽇本のスポーツ産業の現状」)
これらのデータから見えてくることは、日本のスポーツ産業は、スタジアム・アリーナの施設提供業の収入が多く、スポーツの興行自体はあまり収入がないことです。そして、周辺産業(旅行、テレビ・新聞等)、スポーツ用品がスポーツがあることによって収益を得ているということになります。そして、公営ギャンブルは他スポーツ比でかなり大きな規模であることです。
世界のスポーツ市場
JETROが2019年3月に発表した「世界に向かうスポーツ産業」では、アジアや北米等、全世界的にスポーツ産業統計の定義は統一されておらず、同じ条件での正確な市場比較は難しいとしながらも、以下のように世界のスポーツ市場の規模が示されています。
世界のスポーツ市場は、米国調査会社The Business ResearchCompanyの調査レポート(2019)によると2018年に約4,900億米ドル(約54兆円、スポーツ用品やフィットネスクラブ等のサービス、観戦スポーツ、スポーツツーリズムといった狭義のスポーツ産業を対象)と推計されています。
この全世界のスポーツ市場のうち、およそ3 割を占めるのが米国市場です。2018年の米国スポーツ市場規模は約1,300億米ドル(約14.4兆円)で、世界最大規模を誇ります。
欧州のスポーツ市場規模は米国と並び、約1,300億米ドル(The Business Research Company, 2019)です。各国を見ると、adidas、PUMA等の国際ブランドを抱えるドイツは 314億米ドル(約3.4兆円)で欧州スポーツ市場を牽引しています。次いでフランスの225億米ドル(約2.5兆円)、英国213億米ドル(約2.3兆円)、スペインは182億米ドル(約2兆円)と続きます。
尚、恐らく上記の市場規模と定義は異なるものと思われますが、中国政府はスポーツ産業の規模が2015年に1億8,000元(約28兆円)であったと発表しているようです。
このようなスポーツ市場の規模を見ていると、日本のプロスポーツ選手が、米国や欧州に行くことで高収入を実現している理由が分かります。要は日本よりも市場が大きいということです。
それを示すのが、以下のデータです。
(出所 産業競争⼒会議 実⾏実現点検会合2016年4⽉13⽇資料「世界のスポーツ産業の動向と⽇本のスポーツ産業の現状」)
このデータは、各国のプロスポーツリーグの1クラブ当たりの平均年間収入です。
日本のプロ野球選手がメジャーリーガーにあこがれる理由も分かるでしょうし、サッカー選手が欧州リーグに移籍する理由も容易に想像できるでしょう。
日本のスポーツ産業の参考情報
皆さんはスポーツというと、どの競技を思い浮かべるでしょうか。野球でしょうか、サッカーでしょうか、それとも別の何かでしょうか。
日本においては興行よりも施設提供業の方が収益を得ていることは上記で示しました。
国内スポーツ総生産における施設提供業の内訳は興味深いものかもしれません。
(出所 産業競争⼒会議 実⾏実現点検会合2016年4⽉13⽇資料「世界のスポーツ産業の動向と⽇本のスポーツ産業の現状」)
日本においてスポーツ施設提供産業において最大の規模を誇っているのはゴルフ関連産業です。全体の3分の1強となっています。
ゴルフ練習場はバッティング・テニス練習場と比べると18倍の規模です。
やはり金を持っている個人が参加するスポーツでなければ儲からないということかもしれません。
所見
今回は、スポーツ産業の規模について簡単に確認してきました。
日本はスポーツ産業の規模が5兆円超(公営ギャンブルを入れると7兆円超)と推計されます。しかし、これは他国から見ると悪くない数字にも思えます。
但し、以下の図をご覧ください。
(出所 産業競争⼒会議 実⾏実現点検会合2016年4⽉13⽇資料「世界のスポーツ産業の動向と⽇本のスポーツ産業の現状」)
日本はスポーツ産業において公営ギャンブルの割合が高いことに特徴があります。公営ギャンブルを除いて他国と比較できるようにすると、日本はスポーツ産業の国内産業に占める割合が低いということです。
日本は高齢化が進んでいる国です。スポーツ産業を育成し、それによってスポーツを自ら行う国民が増えることは、国民の健康寿命を延ばし、そして国の財政における最大の課題になる医療費の削減につながるものと思われます。
オリンピックのこの時期だからこそ、スポーツ産業の現状を把握し、未来について考えてみるのも良いのではないでしょうか。