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東芝の株主総会決議後のまとめ(2021年6月25日)

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東芝の株主総会で、永山氏(取締役会議長)と小林氏(監査委員)を社外取締役に再任する議案が、反対多数で否決されました。

今回は、この後の東芝のリリースをまとめておくと共に、東芝の株主総会決議の意味と、それが日本企業に与える影響について簡単に考察したいと思います。

 

株主総会における決議結果

2021年6月25日に開催された東芝の株主総会における決議結果について、東芝は以下のリリースを出しました(抜粋)。

定時株主総会の決議結果に関するお知らせ

当社は、本日開催の第182 期定時株主総会(以下、「本総会」)における決議結果につきまして下記のとおりお知らせいたします。

<決議事項>

■議案(会社提案) 取締役11 名選任の件

候補者番号1 綱 川 智
本件は承認可決されました。

候補者番号2 永 山 治
本件は否決されました。

候補者番号4 小 林 伸 行
本件は否決されました。

非常にあっさりとした文面ではあるものの、会社側の提案した取締役候補者が選任を2名否決されました。

 

 

役員体制

2名の取締役候補者の選任否決を受け、かつ選任された一名の社外取締役からの就任辞退を受け、東芝は今後の暫定的な役員体制について以下のように発表しています。

定時株主総会の決議結果を受けた当社役員体制について

当社は、本日付「定時株主総会の決議結果に関するお知らせ」にて、第182 期定時株主総会(以下、「本総会」)の決議結果をお知らせいたしました。当社は、取締役候補の永山 治及び小林 伸行が本総会において否決されましたことを厳粛に受け止めております。
本総会後に招集された取締役会において、綱川 智を取締役会議長(暫定)に選定いたしましたのでお知らせします。新たな取締役体制、新たに設ける戦略委員会を含む各委員会の構成及び執行役体制の詳細につきましては、添付資料1をご参照下さい。なお、本総会にて取締役として承認可決されましたGeorge Olcott から、総会後の体制を踏まえ、あらためて自身の貢献の仕方とその可能性を再考した結果、取締役を辞任するとの申し出があり、これを受理しております。
当社が、2021 年6月13 日付「調査報告書を受けた当社の対応等について」にてお知らせしております、調査者調査報告書における昨年の定時株主総会の運営に関するご指摘に係る真因、真相の究明、責任の所在の明確化については、新たな監査委員会を中心に、外部の第三者の参画も得て速やかに進めて参ります。当社は、再発防止策等をとりまとめ、今後の経営改善に活かし、引き続き経営の透明性の一層の確保を図ってまいります。
また、当社取締役会は、本日の取締役会後に声明を出しております。内容につきましては、添付資料2をご参照下さい。

以上 

ここにあるように永山氏の後の取締役会議長はCEOの綱川氏が兼務することになりました。但し、あくまで暫定としており、議長の後任を探すことになります。

取締役は13名だったものが、総会後には8名になりました。

<取締役(下線は新任)>
綱 川 智
Paul J. Brough
Ayako Hirota Weissman
Jerry Black
George Raymond Zage Ⅲ
畠 澤 守
綿 引 万 里 子
橋 本 勝 則
※Paul J. Brough、Ayako Hirota Weissman、Jerry Black、George Raymond Zage Ⅲ、
綿引 万里子、橋本 勝則の6氏は社外取締役。

 

このように見ると、取締役会は社外取締役が圧倒的多数を占めており、日本企業とも言えないような構成になっています。

 

今後の東芝の方向性

そして、取締役会の声明が出されています。以下は和訳です(本文は英文となっており、東芝の株主の過半が外国人株主であることを示しています)。 

当社取締役会による声明について(和訳)
2021年6月25日

 本日、新たに選任された当社の取締役会が声明を出しました。
 声明文の全文和訳は以下のとおりです。

 新たに選任された東芝の取締役会は、本日の定時株主総会での決議結果を真摯に受け止めます。株主の皆様のご懸念を受け止め、それに応えることは、取締役会の重大な責務です。

 当社はコーポレート・ガバナンスの改善、資本政策への一層の注力、株主還元の充実、及び株主の皆様からの信頼と支持の回復を目指す、大きな変革の途上にあります。2021年6月10日に公表された調査者による調査報告書、及び定時株主総会における本日午後の決議の結果、取締役会は既に大きな変化を遂げております。

 本日、取締役会は全会一致で綱川智氏を取締役会議長(暫定)として選任いたしました。綱川氏はこの職責にあたり、当社の戦略的能力及び競争優位性に関する深い理解と、当社の課題及び将来性に対する客観的な視点をもたらします。綱川氏は顧客の皆様や従業員に安定をもたらすと共に、取締役会が建設的な変革を推し進めることを可能とします。

 本日の取締役会において、現在の取締役が有する知見や能力を基に、全ての委員会の新たな構成を決議いたしました。今後数週間、指名委員会その他の取締役及び経営陣は、当社の安定、ガバナンス及び将来の収益性に関して、最大限の成果を挙げる上で必要となりうる追加的な変更について検討すべく、当社の主要なステークホルダーである株主、経営陣、従業員及び顧客の皆様との対話を進めて参ります。

 今後取り組みを進めるにあたり、次の重点領域に注力して参ります。

・東芝の従業員及び顧客の皆様は、当社が長期的に成果を上げていく上で不可欠な存在です。取締役会は将来に向けて安定と信頼を築くため、エンゲージメント及び透明性の向上に努めて参ります。

・現在当社の取締役会議長(暫定)兼CEOを務める綱川氏の後継者の選定を進めて参ります。当社の広範な事業ポートフォリオを踏まえ、最も優れた能力を有する者を選定すべく、社内及び社外の候補者について、検討を行います。また、取締役の追加候補者の検討にあたり、1社又は複数のグローバルなエグゼクティブサーチ会社にサポートを要請いたします。
・新たに設置した戦略委員会(以下、「SRC」)の活動範囲を拡大します。SRCは当社が現在保有する資産について全面的な見直しを行い、執行部と共に自己株式取得や配当によるTSR(株主総利回り)の拡大を重視した、将来に向けた事業計画を策定いたします。また、長期的な価値創造を実現するためには、投下資本に対して高いリターン創出が可能な領域における成長を中心に、思慮深く規律ある投資が必要です。
・またSRCは、当社又は当社子会社若しくは当社事業に対する潜在的な戦略投資家及び金融投資家との対話を行います。我々は、株主にとってどのような選択肢があり、またそれらが他のステークホルダーにとってどのような意味を持つのかについて理解する上で、こうした投資家との対話が重要であると考えています。当社は先入観を持たずこの対話に臨み、利益を伴った成長及び高い株主還元を当社自身の手で実現できる能力と比較するためのベンチマークとする所存です。
東芝の企業風土を改めて見直し、経営陣や従業員の士気向上に資する方策を検討いたします。これは、過去の不祥事や、財務問題を繰り返さないために極めて重要であると考えております。また、当社により強い「オーナーシップ・カルチャー」を醸成するための方策についても検討して参ります。

当社取締役会は、日本で最も重要な企業のひとつである東芝の、より明るい未来を見据えております。最後に、この度退任された永山取締役会議長に対し、1年に亘り当社へのコミットメント及びご尽力を頂きましたことについて、感謝の意を表したいと存じます。

この声明で、最初に東芝の従業員と顧客を挙げたのは、さすがに正しいと筆者は考えます。企業というのは、法的主体ではありますが、あくまで作られた幻想であり、その活動を担うのは従業員個々人であり、従業員個人の集合体が企業です。この従業員が企業に愛想を尽かせば、その企業は立ち行かなくなります。

そのため、東芝は企業風土を改めて見直し、経営陣や従業員の士気向上に資する方策を検討するとしています。(「経営陣」の士気向上にかかる方策を考えるというのは、少し何とも言えないところですが、それだけ経営陣でさえも士気が低下しているということなのでしょう。)

その上で、東芝は株主と丁寧に対話をしながら「利益を伴った成長及び高い株主還元」を目指すことになります。「現在保有する資産について全面的な見直しを行う」とも声明を出していますので、東芝が解体されていくこともあり得るでしょう。

これが東芝の株主総会決議後の当日中に発表された内容です。

 

所見

東芝の株主総会は「日本的経営が更に崩れるきっかけとなった」と後の時代には言われるものなのかもしれません。

今回の事案で明らかになったのは、日本の企業は仕組みが整っていても、本当の意味でガバナンスが効いているかが不透明だということです。

そもそも、議決権行使助言会社が選任反対を推奨したのは、指名委員会「委員長」でもある永山議長、監査委員会「委員長」と指名委員会委員を兼務する太田順司氏、監査委員会と指名委員会の委員を兼務する山内卓氏、監査委員会委員の小林伸行氏、指名委員会委員のAyako Hirota Weissman氏でした。

監査委員会メンバーには、株主への圧力問題に対する疑わしい対応を巡って責任があるということ、そして指名委員会メンバーには、監査委員を再任した責任があるとしていました。

議決権行使助言会社から反対推奨された太田氏と山内氏は会社提案者から外れ、株主総会で実際に選任を判断されたのは、永山氏、小林氏、そしてWeissman氏でした。

この中で実際に選任されたのはWeissman氏だけとなります。役割をきちんと果たせなかった取締役は責任を負うということでしょう。

今回の東芝の株主総会が浮き彫りにしたのは「日本において会社は誰のもの」かという問いなのかもしれません。

「日本において会社は株主のものである」ということを明確にしたと言って良いでしょう。

そして、日本ではアクティビストと言われる株主が更に活発に活動していくことになるでしょう。少なくとも経産省は動きにくくなったはずです。

日本企業にとってアクティビストが厄介なところは、「要求してくる主張は正論」であるところです。裏には当然ながら自分たちの利益を狙っていますが、主張は真っ当なのです。

筆者はアクティビストが悪だとは全く思いませんし、良いとも思いません。単に株主の権利を最大限に行使しようとする主体だと考えるだけです。

日本企業の問題点は、アクティビストの正論に反論できない企業があるということです。要は弱点をそのままにしており、攻め込まれる隙があるのです。

株価が高ければ、アクティビストは狙っていません。儲かる匂いがしないからです。

資産が有効に活用できていれば、アクティビストは狙ってきません。もちろん儲かる匂いがしないからです。

したがって、「株主資本主義は問題だ」「これからはステークホルダー資本主義だ」という主張も良いのですが、その前に、各企業が株主に文句を言わせないぐらいの経営を行えば良いのです(言うは易く行うは難しですが)。

東芝の株主総会決議結果は、日本企業の行動にどれだけ影響を与えるのか、注目していきたいと思います。