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ビットコインは「環境の敵」になるかもしれない

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仮想通貨(暗号資産)ビットコイン価格が2021年に入ってからさらに急騰しています。

ビットコインの価格がバブル化は筆者には分かりません。これは株価におけるPERやPBRのような尺度が、ビットコインにはないためです。

ビットコインは誰もが「まだ上がる」と考えれば、どこまでも上昇する可能性を秘めています。それは、尺度が無い分、制約がないためです。

しかし、このビットコインの価格上昇については、一つ大きな問題が発生します。

それは、ビットコインの電力消費です。

今回は、ビットコインの制約要因となりかねない電力消費量について簡単に確認していきましょう。

 

ビットコインの仕組

今回の考察を理解するために、まずビットコインの仕組みを確認しておきましょう。

ビットコインの運営にはマイナーズ(採掘者)によるマイニング(採掘)という作業が必要です。このマイニングは電力を消費しますが、ビットコインの価格が上がれば、電力消費量も増加する仕組みになっています。以下は国際通貨研究所の公表資料からの抜粋ですが、ビットコインのマイニングについて分かりやすく解説されています。 

マイニングとは、ビットコイン取引の真正性を承認する作業のことである。1つまたは事前に特定している複数の主体が承認する中央集権的なシステムとは違い、ビットコインはシステムの運用主体がないため、「競争原理を用い参加者が取引の真正性を確認。そして 1 番最初に確認した参加者に対し報酬(インセンティブ)を与える。」ことにより取引の連続性を確保している。そして、その取引の真正性の確認を誰よりも早く行い報酬を得ることを生業とする者を「マイニング業者(または、マイナー)」と呼ぶ。
マイニングは、およそ10 分間に 1 回の頻度で行われるようビットコインの運用システムにあらかじめプログラミングされている。そして、マイニング業者間の取引確認・承認競争が激しくなり、恒常的に 10 分以内にそれが完結する場合(逆に恒常的に承認作業が 10 分以上要する場合)は、2 週間ごとにその作業の難易度を自動的に難しくする(易しくする)ようにシステムが設計されている。
(中略)「マイニングの難度上昇 ⇒ マイニング業者が最新鋭機器の新規購入等により計算能力を高める ⇒ それがさらにマイニングの難度を上昇させ、過去最高を記録する」という循環ができていることが分かる。そしてこの上昇傾向は、採算悪化によるマイニング業者の大量撤退、そしてそれによるマイニング難易度の易化及びハッシュ値の低下がみられない限り続くことになる。

(出所 公益財団法人国際通貨研究所「ビットコイン価格上昇に伴い再燃する消費電力問題」2019年7月18日)

このようにマイニングとは全取引記録を一定時間ごとに台帳に追記する作業です。マイニングを行う報酬として新たなビットコインが付与されるため、マイニング業者は、高性能コンピューターを揃え、膨大な電気を使用しながらマイニングを行うことで収益を獲得しています。

問題は、ビットコインの価格が上がるほどに、ビットコインの採掘競争は加速し、そのためにマイニングに費やされる電力消費量が増加することにあります。 これは、ビットコインが内在する大きな問題です。

 

ビットコインの電力消費量

価格上昇と共に電力消費量が増加してきているビットコインですが、そのマイニングによる電力消費量を分かりやすく示したものとして「Cambridge Bitcoin Electricity Consumption Index (CBECI)」をイギリスのケンブリッジ大学オルタナティブ金融センターが公表しています。

この調査によるとビットコインの電力消費量は127.98TWh(2021年2月24日時点)と想定されています。

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(出所 Cambridge Centre for Alternative Finance Webサイト https://www.cbeci.org/cbeci/comparisons

これはノルウェー、アルゼンチン、ウクライナ、スウェーデン並みの消費量です。

以下の2つのグラフはビットコインの電力消費量の推移です(濃い黄色のラインが想定される電力消費量、細い線で最大と最小の想定も記載されています)。

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(出所 Cambridge Centre for Alternative Finance Webサイト  https://www.cbeci.org/

このようにビットコインは2020年後半から電力消費量が急増しています。

そして、現在のビットコインの年間電力消費量と想定される128TWhは、国別の電力消費量ランキングでは全世界で29位に位置するレベルまで到達しました。

参考までに数字を挙げると、1位は中国で6,453TWh、2位は米国で3,989TWh、3位はインドで1,277TWh、4位はロシアで965TWh、5位は日本で902TWhとなっています。

尚、ビットコインの電力消費量は、全世界の電力消費量20,863TWhの0.58%に相当します。

マイニングは全世界で行われていますが、中国において全世界の65%が実行されています。米国とロシアは約7%であり、中国が突出しています。

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(出所 Cambridge Centre for Alternative Finance Webサイト https://www.cbeci.org/mining_map )

中国でマイニングがなされている理由はコストが安いことにあり、電気代の安さもマイニングが盛んな理由です。

 

所見

ビットコインは非常に大量の電力を消費していることは間違いありません。そして、その内在する仕組みによって価格が上昇すると電力消費量も増加します。

そのため、ビットコインは「環境に悪い」もしくは「特続可能ではない」と今後注目を浴びる可能性は十分にあります。

筆者はビットコインというものに対しては、良いとも悪いとも思っておりません(少なくとも思想は面白いと考えておりますが、通貨主権の観点から各国政府がこれ以上「通貨」として拡大を許すのは難しいようにも思います)が、環境という側面から、ビットコインがネガティブキャンペーンにさらされる可能性は増加していると認識しています。

中国のマイニングでは安い水力発電が利用されていると聞いたこともありますので、完全に環境に悪い訳ではないかもしれませんが、少なくとも再生可能エネルギーでマイニングによる電力消費を全額賄うことは出来ていないものと思われます。既に一国に匹敵する電力消費量に到達していますので、無視できるレベルでもないでしょう。

そして、ビットコインは「環境に悪い」というイメージを作り上げたい勢力も存在すると思われます。少なくとも国や中央銀行であれば、排除したいと考えていてもおかしくはありません。

ビットコインは、そもそも価格に姿当性はありません。株式のように会社の資産という裏付けや、一株利益や配当利回りというような指標もありませんので、取引者が妥当と思う価格が適正価格と言えます。そのため、いくらでも高くなる可能性もありますが、ビットコインの普及に対して電力消費量が一つのネックとなる可能性があるということについては、投資家としても留意が必要なのではないでしょうか。