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産経新聞社が追い詰められつつある現実

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2019年に社員の約1割、180名の早期退職募集等を行い、経営立て直し中である産経新聞社が厳しい状況にあります。

新聞業界では朝日新聞社の社長が業績不振の責任を取って退任すると発表されています。いずれの新聞社も業績は厳しいということでしょう。

業界の中で全国紙とはいえ規模が相対的に小さい産経新聞社の業績はどうなっているのでしょうか。産経新聞社は非上場企業であり、業況についての情報は限られていますが、以下で確認していきましょう。

 

業績概要

2020年4~9月の2020年度上半期の産経新聞社の連結決算概要は以下の通りです。

  • 売上高40,855百万円(前年同期比▲21.7%)
  • 営業利益151百万円(同▲92.1%)
  • 経常利益271百万円(同▲86.0%)
  • 当期利益610百万円(同▲44.4%)

売上高が2割強減少し、それに伴い本業の利益である営業利益はかろうじて黒字を維持しているレベルまで低下しました。

減収要因は、産経新聞社が開示している資料だけでは分かりませんが、販売部数減と共にコロナ禍における広告費減ではないかと想定されます。

一方で、大幅な売上減少となっても黒字を維持出来た要因はコスト削減にあるものと想定されます。

  • 2019年4~9月:売上総利益率34.5%
  • 2020年4~9月:売上総利益率38.4%(前年同期比+3.9ポイント

産経新聞社の決算は情報が限られているので、詳細は分かりませんが、売上が2割減少していても売上総利益率(粗利益率)が上昇していますので、販売経費等含めてかなりのコスト削減がなされてきたものと想定されます。

一方で、一般的な経費である販管費は以下の通りです。

  • 2019年4~9月:販管費16,066百万円
  • 2020年4~9月:販管費15,524百万円(前年同期比▲542百万円)

いわゆる本社経費等の間接費、人件費についてはコスト削減が進んでいないことが見て取れます。紙の新聞販売が回復することは容易ではありません。広告が回復するとしても、それは販売部数の動向によって収益が変化します。産経新聞社は、今後もコスト構造の見直しをせざるをえないでしょう。

尚、財務内容は以下の通りであり、自己資本比率は高くはないものの相応にあります。現在の損益状況だけを踏まえれば、簡単には債務超過に転落することにはなりません。

  • 総資産74,837百万円
  • 純資産17,298百万円
  • 自己資本比率22.8%

 

資金繰り

では、産経新聞社の資金繰りはどのような状況でしょうか。決算が赤字に転落しても、債務超過になったとしても、キャッシュさえあれば企業は存続可能です。

現時点では黒字かつ資産超過ですので問題はないと想定されますが、念のため確認しておきましょう。

以下は2020年4~9月のキャッシュフロー(連結)です。

  • 営業CF1,121百万円
  • 投資CF981百万円
  • 財務CF▲458百万円

本業の現金収入である営業キャッシュフローも黒字であり、投資も回収が多くなっています。そのため借入金を一部圧縮しています。

2020年9月時点では借入金と現預金の状況は以下の通りです。

  • 短期借入金22,215百万円
  • 長期借入金10,730百万円
  • 現預金20,545百万円

短期借入金と現預金はほぼ近い水準にあります。

短期借入金を「今すぐ返せ」と債権者(通常は銀行)から要求されない限りは、まだ資金繰りには余裕があるものと思われます。

 

産経新聞社の今後

産経新聞社の2020年4~9月決算(2021年3月期連結中間決算)は上記の通りでした。

かなり業績面では苦戦していることが分かるでしょう。

但し、これは産経新聞社の経営だけに責任がある訳ではありません。朝日新聞社も中間決算で赤字転落し、業績悪化の責任を取り社長が退任することになりました。

そもそも、新聞業界は以下の通り近年は急激に発行部数を減らしてきています。 

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(出所 日本新聞協会「新聞の発行部数と世帯数の推移」)
2007年までは1世帯当たり1部は新聞を購読していましたが、2019年には1世帯当たり0.66部となっています。

最早、新聞は一家に一部の時代ではないのです。

発行・購買部数の減少は新聞の広告媒体としての価値も低下させてきました。

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(出所 日本新聞協会「新聞の発行部数と世帯数の推移」)
この15年で新聞の広告費獲得は半分以下となっています。

媒体としての価値が低下し広告費が減少、取材にコストをかけられなくなり、それが更に記事の内容低下を招き、読者が離れるという悪循環が起きていることが想定されます。

もちろん、新聞離れの要因は、ネットでニュースを確認すれば十分という個人が増えてきていることも理由でしょうし、会社として新聞を購読することをコスト削減でやめた企業も多いでしょう。

しかし、少なくとも新聞社はネット時代の収益化を真剣に考えていかなければ限界に来ています(随分と前から言われていることでもあります)。

特に産経新聞社は規模が非常に微妙なポジションにいます。全国紙であることの意味と、新聞社としての主義・主張、そして存在意義について改めて見直す局面にあるのではないでしょうか。新聞社が唯一持つのは、情報とそれを集められる記者です。情報をどのようにマネタイズしていくのか、注目したいと思います。