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コロナ対策で在宅勤務や時差出勤が出来るのは「上級国民」か?

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コロナウィルスへの対応として企業が在宅勤務や時差出勤を相次いで実施しています。

「休めるのは“上級国民”だけ」と非正規雇用者が嘆いているとの報道もされていますが、そもそも、在宅勤務や時差出勤はどの程度の企業で導入されているのでしょうか。

今回は、企業の在宅勤務や時差出勤について簡単に確認してみましょう。

 

テレワーク導入状況

テレワークとは、ICT を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方です。

在宅勤務、サテライトオフィス動務、 モバイルワークの3形態があります。

コロナウィルス対応としては、 在宅勤務制度が最も有効でしょうが、 サテライトオフィスで勤務することによる他人との接触減(通勤電車の回避等)、モバイルワークを使った実質的な在宅勤務も対応策としては相応に有効と思われます。

企業におけるテレワーク導入状況は、2018年は13.9%でしたが、2019年は19.1%となっています。企業規模別では、おおむね規模が大きいほど導入が進んでいる傾向にあります。

詳細は以下の図表の通りですが、従業員2,000人以上の企業は46.6%が導入しています。

【企業のテレワーク導入率の推移】
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【企業のテレワーク導入率(規模別)】
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(出所 総務省/令和元年版 情報通信白書)

在宅勤務を含めた柔軟な働き方としては、 やはり大企業の方が導入が進んでいることが分かります。

 

時差出勤・通勤ラッシュ回避

通勤時の混雑時間をさけて通勤する時差出勤もコロナウィルス対応として企業が導入していると報道されています。

確かに満員電車での通勤よりは、 混雑が緩和されている電車での通勤の方が、 ウィルスへの感染リスクは低いでしょう。

その時差出勤ですが、そもそも従業員(労働者) 及び使用者(企業)は、その合意により、始業、終業の時刻を変更することができます。 よって双方の合意によって通勤時間帯をピークから回避することは可能です。

また、始業、終業の時刻を従業員 (労働者) の決定に委ねる制度として、フレックスタイム制があります。この制度は、1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯 (コアタイム) と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯 (フレキシブルタイム) とに分けるものです。こちらも有効な手立てとなるでしょう。

尚、平成31年就労条件総合調査によると、フレックスタイム制を含む変形労働時間制を採用している企業割合は62.6%です。

企業規模別では、「1,000人以上」が78.4%、「300~999人」が69.8%、「100~299人」が65.5%、「30~99人」が60.4%となっています。

変形労働時間制の種類では、「1年単位の変形労働時間制」が35.6%、「1か月単位の変形労働時間制」が25.4%、「フレックスタイム制」が5.0%と報告されています。

1年もしくは1か月単位の変形労働時間制は、従業員各人の判断ではなく会社側が始業時間を決めます。

従って、より柔軟性があり従業員の意思によって出勤時間を決められるフレックスタイム制だと、 導入企業は規模別で「1,000 人以上」が26.6%、「300~999人」が12.5%、「100~299人」が6.6%、「30~99人」が3.1%となります。

こちらも大企業の方が導入が進んでいます。

 

今後の動向

現在、大企業で在宅勤務が増加しています。

在宅勤務5割、宴席自粛8割 新型コロナ対策企業調査
2020/02/28 日経新聞

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、在宅勤務を取り入れたり国内出張を禁止したりする動きが広がっている。日本経済新聞が27日、主要企業を対象に緊急調査したところ、約5割の企業が原則または一部で在宅勤務に切り替えた。

(中略)

日本経済新聞が27日に緊急調査を実施。安倍晋三首相が全国の小中学校や高校などの臨時休校の要請を表明する前の同日夕までに136社から回答を得た。
 このうち原則または一部で在宅勤務を実施する企業は46%にのぼった。本社勤務に限ると約12%が原則、約32%が一部で在宅勤務にした。

(以下略)

今年は東京オリンピックも予定されています。このオリンピック期間中に在宅勤務対応を検討していた企業は多く、大企業に限れば相応の準備もしていたでしょう。(ある意味では、現在の状況は、オリンピック期間中の予行演習にもなっていることになります。)

今回のウィルス感染問題のより、在宅勤務やフレックスタイム制の導入は更に加速するでしょう。

しかし、大きな問題は、在宅勤務が出来ない業務を担う従業員や、契約上や企業のリスク管理上、在宅勤務が許可されない非正規社員です。また、非正規社員は、生活費のために休むことが出来ないという人もいるでしょうし、正規社員が利用出来る時差出勤制度は対象外である人もいるでしょう。

このような状況は社内の分断や、正規社員と非正規社員の分断を生みます。

同一労働同一賃金が叫ばれ、格差が日本における関心事になっている状況下、コロナウィルス対応としての在宅勤務等が一部の従業員にだけ適用される状況は、可能な限り解消しなければなりません。放置することは、結果として日本全体にとっても、その企業にとっても、内部での分断を生み、将来的に大きな禍根として残るでしょう。

在宅勤務や時差出勤が可能なのは、現時点では大企業の正規社員であることが多いでしょう。これが上級国民と呼ばれるのかもしれません。ただし、大企業の正規社員は誰でもが上級国民と言えるのでしょうか。大企業の正規社員といっても様々な処遇の方がいるでしょう。

筆者は、在宅勤務や時差出勤については、同じ職場で働く従業員なのに格差があるという点が問題なのだと考えます。

何事も平等にすべきであると筆者は考えませんが、ウィルス対策のような人の健康・生命に関わるような事項については、やはり平等にすべきではないでしょうか。特に正規社員と非正規社員の間の待遇差があるならば、早急に解消する必要があるでしょう。正規社員も非正規社員も職場の仲間なのですから。

(個人的には、このようなコロナウィルス対策に従業員の休暇を会社が命じても、それが有給休暇であったりする事例が報道されているようですが、これもおかしいのではないかと思っています。会社の自宅待機命令として、有給休暇とは別枠とするのが良いのではないでしょうか。)