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株主総会はなぜ集中するのか。今年も到来する株主総会集中日。

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コロナ禍の中、今年の株主総会シーズンが迫ってきています。

今回の株主総会では、実質的にWeb総会に近い開催方法が認められる等、新たな変化が訪れています。

一方で、「株主総会の集中日」という慣行は未だに存在しています。

今回は株主総会の集中日という慣行について簡単に確認しておきましょう。

 

報道内容

まず、報道内容を確認しましょう。今年の株主総会の開催日について、日経新聞の記事が伝えています。以下引用します。

株主総会、6月26日に33% 東証調べ

2020/6/3 日経新聞

東京証券取引所は3日、2020年3月期決算の上場企業の株主総会について、開催のピーク日が6月26日になると発表した。全体の32.8%に相当する747社が開催を予定しており、集中率は前年よりも2ポイント上昇した。
ピーク日がある週の開催率は8割近くとなり、昨年よりも約9ポイント比率が上がった。新型コロナウイルスの感染拡大で決算や監査作業の時間を確保する動きが強まり、全般的に開催が後ずれしている。(以下略)

(出所 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59931210T00C20A6DTA000/

このように2020年3月期決算の上場企業のうち33%が6月26日に株主総会を予定しています。

 

総会集中率の推移

株主総会の集中日は、過去から問題となってきました。

以下はいわゆる株主総会の集中日における集中率の推移です。 

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(出所 日本取引所グループWebサイト)

1990年代は3月決算会社の90%以上が同一の総会集中日において株主総会を開催していました。

これは、株主総会に『総会屋』が物理的に来られないようにするため、6月末の集中日に株主総会を開催するようになったとされています。

株主総会が集中日に開催されるようになった主要な背景の一つには,総会屋の存在と株主総会に対する経営者の消極的姿勢があげられる。
昭和 25 年以来の大改正となった昭和 56 年商法改正において,総会屋を根絶し,株主総会が本来の機能を果たすことができるようにするため,利益供与禁止規定が新設された。この改正商法の施行により,活動を阻止され危機意識を強めた総会屋は,生き残りをかけ,活動を活発化させ,その結果,総会屋は株主総会で執拗に経営者に食い下がるようになったのである。一部の経営者は,株主総会で長い時間をかけて我慢強く丁寧な説明を行い,総会屋に立ち向かったのであるが,多くの経営者は,長時間総会を好まなかった。これは,会社経営に問題があるかどうかは,総会時間の長短で証明されるという規範が当時の企業社会に存在したり,また,会社側の発言回数が増えるにつれ,答弁にスキが生じ余計な発言をしてしまう可能性があったりしたためである。
(出所 日本経営学会誌 第 37 号,pp.51-63,2016)

株主総会が集中日に開催されていた理由は、今はすっかり存在が無くなりましたが、総会屋という「株主総会において、株主の権利を濫用し企業から不当な利益を得ようとする者」対策だったことが分かります。

しかし、この株主総会を集中させる企業の取組は、総会屋以外の株主に様々な企業の株主総会に出席する機会を奪うものでもありました。

そのため、株主軽視である等の批判があり、現在は総会の集中率は低下してきています。

 

株主総会の集中日の決め方

3月決算会社の定時株主総会が6月下旬のある一日に集中することは、よく知られていますが、どのようなロジックで決まっているかは実はあまり知られていないように思います。

この総会集中日は、一定の明確な実務慣行によって決まっており、カレンダーさえあれば、ある年の株主総会集中日が何日であるかは、簡単に分かります。

この実務慣行は、3月決算会社の場合であれば「6月最終営業日の前営業日」「当該日が月曜日である場合には、その前週の金曜日」が総会集中日となっています。

では、そもそも何故6月最終営業日の前営業日(当該日が月曜日である場合はその前週の金曜日)が株主総会の集中日となったのでしょうか。

この理由は、大和総研の解説が詳しいでしょう。

3月決算会社が6月中に定時株主総会を開催しなければならないというわけではないが、通常は定款で「第○条 当会社の定時株主総会の議決権の基準日は毎年3月31日とする」というように、株主総会の権利行使基準日を事業年度末日、つまり決算日と同一日に定めている。この基準日の有効期限が3ヶ月以内とされているため、3月末日決算であれば6月中の総会開催が必須となる。定時株主総会に関する基準日を決算日以外に定めることも可能ではあろうが、実務では採用されておらず、6月下旬に集中的に開催される状況は、変わっていない。

最終の営業日の一日前というのは、総会が紛糾し翌日に繰り越した場合には、3ヶ月以内に終了できなくなると考えられるからだ。もめたとしても6月中に終えるために一日の余裕を置いておくわけだ。また、月曜日を避けるのは、郵便で送られてくる議決権行使書面の集計が開会に間に合わなくなるかもしれないからだ。休日にたまった分を処理するのに、時間を要する恐れがある。ただ、いずれも法律上の要請ではない(以下略)。

(出所 大和総研グループWebサイト)

「なるほど」と思わせられる内容ではないでしょうか。

実務をベースにした慣行というのは、このように決まっていくのだということが分かります。

 

所見

株主総会がある一定の日に集中するのは、実務的に見るとしょうがないと言うことはできるかもしれません。

しかし、株主に開かれた株主総会という大義を目指すのであれば、やはり株主総会は分散すべきです。

今は総会屋がいなくなりましたが、代わりにアクティビストと言われる投資家が存在します。今度はアクティビストの出席を妨げるために総会集中日に集中するようになったら、日本の株式市場が海外投資家から敬遠されるようになります。

開かれた株主総会を目指していく方向性は、日本にとって必要だとは思います。

(ただ、株主総会の手土産狙いの個人投資家の総会渡り歩きは、ちょっとどうかとは思います)