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新型コロナがユニクロを倒産させるのは難しい理由

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新型コロナウィルス感染症の拡大、それに伴う緊急事態宣言により、日本中の経済活動が停滞しています。

その中で、国内で随一のアパレル強者であるユニクロを運営するファーストリテイリングの業績も厳しいものとなることが想定されています。

2020年4月9日にファーストリテイリングは業績の大幅な下方修正を発表しました。

今や日本人の「国民服」となった感のあるユニクロ=ファーストリテイリングは、会社が存続できるのでしょうか。

今回は、ファーストリテイリングの財務状況を確認してみたいと思います。

 

業績の予想

ファーストリテイリングは4月9日に新型コロナウイルスの影響で2020年8月期連結決算において、売上高が8・8%減の2兆900億円、営業利益が43・7%減の1450億円、当期利益が前年比38・5%減の1000億円となるとの見通しを発表しました。

2020年4月7日現在では、ユニクロ事業はその他アジア・オセアニア地区(東南アジア・オーストラリア・インド)で244店舗、欧州で97店舗、北米で62店舗、中国大陸で5店舗、日本で4店舗、グローバル合計で412店舗を臨時休業しています。

少なくとも日本では更に休業店舗が増加していくことでしょう。

この通期業績予想は、3月の実績に加え、4月、5月は、引き続き新型コロナウィルス感染症の影響により大幅減収、6月以降に事業活動が徐々に正常化する仮定のもとに算出していると発表されています。

したがって、この前提が狂うとファーストリテイリングは更なる収益悪化となります。この場合、ファーストリテイリングはどの程度の期間持ちこたえられるのでしょうか。

 

財務状況

それでは、ファーストリテイリングの財務状況について簡単にみていくことにしましょう。この財務状況によってファーストリテイリングの資金繰りがどのような状況にあるのか想定できます。

2020年8月期第2四半期の連結決算ですので、2020年2月末時点となります。

<ポイントなる資産>

  • 現預金 1兆1,843億円
  • 売掛金及びその他の短期債権 570億円 
  • 棚卸資産   3,539億円 
  • その他の短期金融資産   664億円
  • 有形固定資産 1,331億円
  • 長期金融資産   685億円 

ファーストリテイリングは、現預金と棚卸資産以外にはあまり大きな資産項目はありません。

例えば、有形固定資産は総資産2兆4,543億円のうち1,331億円しかありません。ユニクロのようなアパレル事業は、店舗も賃借し、商品製造は他社へ任せています。そのため、資産はあまりないのです。

売掛金は570億円ありますが、これは月商2,014億円(※)から見てわずかです。

※1兆2,085億円(2019年9月~2020年2月の6ヵ月間の売上高)÷6ヵ月

アパレルは店舗販売(もしくは通販)のため、現金での回収か、クレジットカードでの支払い回収が主となり、資金回収が早いのです。売掛金は換価性はありますが、金額が小さく、かつ買掛金もあるため、今回は考慮しなくても良いでしょう。 

棚卸資産は、商品在庫ですのですぐに資金化は難しいと想定します。

また、2019年8月期決算では、流動資産の「その他の短期金融資産」と非流動資産の「長期金融資産」の合計1,215億円(2019年8月末時点)のうち411億円が定期預金となっています。2020年2月末時点では両資産の内訳は不明ですが、その他の短期金融資産と長期金融資産の中にも定期預金のように換価性の高い金融商品があるものと思いますが、今回は詳細不明のため考慮外とします。

すなわちファーストリテイリングはすぐに資金として使えるのは現預金ぐらいしかないと考えた方が良いでしょう。但し、その水準は1兆1,843億円と月商2,014億円の5.9ヵ月と日本全体で見ると非常に高水準です(一般的に企業が保有する月商対比の現預金は2~3ヵ月です)。

 

費用(キャッシュアウト)の想定

2019年9月~2020年2月の6ヵ月間の売上原価は▲6,317億円であり、1ヵ月あたり1,053億円です。また、販管費は同期間で▲4,388億円であり、1ヵ月あたり731億円です。

この販管費には「減価償却費及びその他の償却費」が含まれているものと想定されます。 2019年9月~2020年2月の6ヵ月間の同費用は879億円ですので、1ヵ月あたり147億円となっています。この数字は会計上の費用でありキャッシュの流出を伴いませんので、簡易的な試算では、ファーストリテイリングの1ヵ月のキャッシュアウトは、売上原価1,053億円、販管費584億円(=731-147)の合計1,637億円と想定されます。

 

ファーストリテイリングはいつまで持つか

ファーストリテイリングは、新型コロナウィルスの影響により営業が全くできなかったとしても、手元の現預金1兆1,843億円÷毎月のキャッシュアウト想定額1,637億円=7.2ヵ月は企業として持ちこたえることができます。

通販である程度は販売できるほどのブランド力があることを考えると、リアルの店舗を休業させていたとしても、より長い期間持ちこたえることができるでしょう。

そして、ファーストリテイリングの自己資本比率(親会社所有者 帰属持分比率)は41.6%です。社債による資金調達や、銀行からの借り入れの余力はまだ十分にあると言えます。

ファーストリテイリングは新型コロナウィルスの影響で倒産するような事態になった場合には、同業他社はほとんど軒並み倒産している可能性が高いでしょう。

新型コロナウィルスがファーストリテイリングを倒産させるのはかなり難しいと言えるでしょう。