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夢の国を休園しているオリエンタルランドに倒産の心配はないのか?

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東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドは、2月29日から休園しています。

4月9日に再開時期については5月中旬に判断すると発表していますので、少なくとも休園は3ヵ月弱に及ぶことは間違いありません。そして、新型コロナウィルス感染症がいつ収束するのか現段階では不透明です。

いわゆる「遊園地」はお客様の入場が無ければ経費ばかりが出ていく業態です。長期間にわたって休園が続けば、財務的ダメージはすさまじいものになるでしょう。

かなりの数の人が再開を楽しみにしている「東京ディズニーランド」や「東京ディズニーシー」は大丈夫なのでしょうか。今回は運営会社たるオリエンタルランドの財務内容について見ていくことにしましょう。

 

オリエンタルランドの財務状況

東京ディズニーランド、東京ディズニーシーがいつも混んでいることは認識していたとしても、運営会社のオリエンタルランドの決算に注目している人は限られるでしょう。

今回は、このオリエンタルランドの財務状況に注目してみます。

<2019年3月期(1年間)>
  • アトラクション・ショー収入 2,017億円
  • 商品販売収入 1,524億円
  • 飲食販売収入 763億円
  • ホテル売上収入 724億円
  • その他の収入(テーマパーク) 71億円
  • その他収入(イクスピアリ、モノレール等)157億円
  • 合計売上高 5,256億円
以上のようにオリエンタルランドは、入場者が来ないと収益を生まない仕組みになっています。アトラクション(入場料等)もグッズ販売、飲食も、東京ディズニーランド、東京ディズニーシーが開園していなければ成り立たないビジネスモデルなのです。もちろんホテルも東京ディズニーランド、東京ディズニーシーが開園しているからこそ、宿泊者が来るのです。
では、現在のオリエンタルランドの状況はどのようになっているのでしょうか。コロナの問題が起こる前の昨年末時点の状況が以下となります。

<2019年12月時点>

  • 現預金 3,292億円
  • 有価証券(流動資産) 390億円
  • 投資有価証券(持合株) 308億円
  • 一年以内の償還予定社債 200億円(2020年3月19日期限)
  • 一年以内の返済予定長期借入 63億円(うち61億円が2020年3月31日期限)

2020年1月末から3月2日までの間に自社株買いを207億円実施しており、加えて、(確度の高いシナリオとして)200億円の上記社債は償還、長期借入61億円も返済していると想定します。2020年1~3月では損益トントンでキャッシュアウトが無かったと仮定すると、オリエンタルランドは、2020年3月末時点で、2,824億円の現預金を保有していることになります。そして、有価証券(短期)といざとなったら売却可能な投資有価証券が合計698億円ありますので、すぐに換金可能な資産を3,522億円程度保有しているものと想定されます。

オリエンタルランドは、いわゆるキャッシュリッチ企業であり、実質的な無借金企業です。

月商420億円(=2020年1月末時点の通期売上高予想5,039億円÷12ヵ月)のオリエンタルランドは、月商の約8.4ヵ月分の「すぐに換金可能な資産」を保有していることになります。

法人企業統計(2018年度)によると、金融保険業を除く全業種・全規模の企業の手元流動性(=(現預金+有価証券)÷平均月商)は1.8ヵ月となっていますので、オリエンタルランドは圧倒的にキャッシュリッチです。

 

オリエンタルランドの現金流出想定額

今回の新型コロナウィルスの影響はいつまで続くかは不明です。

オリエンタルランドがキャッシュリッチとはいえ、いつまでも休園を続けておくことは当然に無理です。

では、オリエンタルランドは、休園している間にどの程度の「現金流出」が想定されるのでしょうか。

2019年3月期の単体決算を見ると、売上原価は3,190億円となっています。

このうち、実際のキャッシュアウトが起きない減価償却費は334億円です。

また311億円のロイヤリティは米ディズニーへの支払いでしょうが、こちらは売上に対しての割合で支払っているものと思われます。そのため、こちらは売上が無ければ支払う必要はありません。

商品原価650億円、飲食売上原価の材料費232億円、販促活動費88億円のようなものは、休園中はキャッシュアウトしなくても良いようなものでしょう。(業務委託費のような通常であれば変動費となる項目も雇用を守る等の観点から、払い続けると仮定します)

以上を前提とすると2019年3月期の単体決算における売上原価3,190億円のうち、休園となった場合に実際にキャッシュアウト(現金流出)となる費用は、1,525億円(=3,190-334-311-650-232-88)となります。

オリエンタルランド連結での売上原価は3,263億円ですので、基本的に単体で売上原価のほとんどをカバーしています。3,263億円と3,190億円(単体売上原価)の差額は73億円であり、これが全て休園していたとしてもキャッシュアウトする費用だとみなすと、オリエンタルランド連結では約1,600億円が売上原価として休園中も外部に現金流出していくと想定出来ます。

そして連結の販管費は701億円です。販管費にある業務委託費73億円等も支払を維持していくと仮定し、販管費に入っているであろう減価償却費も勘案しないとします。すなわち、販管費の701億円がそのまま現金流出すると仮定します。

以上をまとめると、上記の売上原価の現金流出1,600億円と販管費の701億円の合計2,300億円が休園中でも年間で現金流出する費用と想定できるのです。

 

オリエンタルランドはいつまで持ちこたえられるか

オリエンタルランドは東京ディズニーランド、東京ディズニーシーが開園していなければ、ほとんどの収益を得られません。 通販は公式アプリがあるようですが、パークのチケットがなければ使えないようですので、実質的には通販は取り扱っていないためです。これはディズニーとの関係によるものでしょう。

したがって、オリエンタルランドは、休園中は売上による現金収入は見込めず、すぐに換金可能な資産を3,522億円程度保有していると想定される一方、休園中でも2,300億円の現金流出が想定されます。

3,522億円÷2,300億円=1.5年が、現時点でオリエンタルランドが何の資金調達を行わずとも持ちこたえられる期間と筆者は想定します。

全く営業をしなくともこれだけ持ちこたえられる企業はほとんど世の中に存在しないでしょう。オリエンタルランドは顧客に夢の国を提供していますが、株主にとっても収益を夢のように提供してきたということでしょう。