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いきなり!ステーキの状況は典型的な外食企業の不振状態

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いきなり!ステーキの業績不振がニュースとなっています。

渋谷センター街店に張り出された「社長からのお願い」が話題となり、更に全従業員に親族をお店に連れてきて欲しいと文書を配布したこともあり、いきなり!ステーキの内実はかなり厳しいのではないかと報道されています。

今回は「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスの業況について確認してみます。

 

ペッパーフードサービスとは

ペッパーフードサービスとは、「いきなり!ステーキ」「ペッパーランチ(ステーキ専門の飲食店チェーン)」等を運営する外食企業です。

特に、お客様の目の前で好みの分量に切り分けてステーキを提供するオーダーカット制で、立ち食いスタイルにすることによりコストパフォーマンスを追求した「いきなり!ステーキ」がヒットし、急激に業容を拡大してきました。現在は東証1部上場企業です。

2019年にはNASDAQ GLOBAL MARKETにおける上場廃止を行いました。米国内における「いきなり!ステーキ」等の直営店とフランチャイズ加盟店の新規出店を見据え、知名度とブランド力の向上を目的として、2018年9月にNASDAQへ上場していましたが、米国での「いきなり!ステーキ」の不振があり上場廃止を選択しました。

急激な店舗拡大と米国進出の失敗が近時のトピックスでしょう。

 

足元の業績

ペッパーフードサービスの足元の業績については以下の記事が概要をつかむのに良いでしょう。以下記事を抜粋・引用します。 

立ち食いステーキ店「いきなり!ステーキ」が、いよいよ苦境に立たされている。2017年4月から続いていた既存店の前年比売上高のプラスが2018年3月以降はマイナスに転じ、マイナス35.2%(8月)、マイナス33.6%(9月)、マイナス41.4%(10月)とここ3カ月で大幅に減少している。不調から抜け出せずにいるのは、急速な出店による自社店舗同士の客の奪い合い、人件費や材料費の高騰に伴う値上げ、他社参入や消費者の飽きなど、さまざまな要因が挙げられている。

 今期予定していた210店舗の新規出店を115店舗と半分近くに削減。しかし、それでも出血は止められなかった。飲食業界の平均水準よりも高待遇で従業員を大量採用したこともコスト増を招いた。

 いきなり!ステーキを運営するペッパーフードサービスは当初、2019年12月期の通期業績を売上高764億円、営業利益20億円と見込んでいたが、11月14日、売上高665億円、営業利益マイナス7億3000万円と赤字での着地に大幅修正。業績不振の44店舗の退店などによる特別損失を計上、期末配当を見送る結果となった。前期もニューヨークでの退店による減損を計上しているため、2期連続で最終赤字となる。この発表によって1株1600円台で推移していた株価は1400円前後まで下落した。

(出所 日刊ゲンダイデジタル/赤字に苦しむ「いきなり!ステーキ」が高級店を傘下に収めた理由【抜粋】 2019/11/25 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191125-00000012-nkgendai-bus_all

足元の業績がかなり厳しいことが分かるでしょう。

 

企業存続の可能性

渋谷センター街店に張り出された「社長からのお願い」が話題となり、全社員に親族もお店に連れてくるように要請し、テレビCMも積極的に展開していることを考え合わせると、ペッパーフードサービスは倒産の危機に瀕しているのではないかとの声も上がってきています。同社の直近決算におけるポイントを確認してみましょう。

 

<2019年12月期3Q決算のポイント>

  • 売上高51,857百万円(前年同期比+15.2%)、営業利益44百万円(同▲98.2%)、経常利益19百万円(同▲99.2%)、最終利益▲1,922百万円(赤字転落) 
  • 減損損失1,791百万円
  • 総資産26,031百万円、純資産1,393百万円、自己資本比率4.8%
  • 現預金5,554百万円(2018年12月末=前期末比▲1,178百万円)
  • 有形固定資産10,929百万円(同+1,526百万円) 
  • 投資その他の資産「その他」2,243百万円(同+969百万円) ※増加要因は恐らく建設協力金の増加によるものと推察
  • 長期借入金9,283百万円(同+4,082百万円)
ペッパーフードサービスの2019年12月期3Q決算を見ると、同社はかなり追い込まれてきていることが分かります。
まず、売上高は大幅に伸びていますが、利益は急減しています。そして、店舗の減損損失により赤字となり、純資産が減少し自己資本比率は4.8%となっています。店舗の不振がこれからも続き、更に減損損失が発生した場合には、すぐに債務超過に陥る可能性があります。
現預金は55億円と前年末比▲11億円減少している一方で、借入金(1年以内返済予定を含む)は40億円増加しています。有形固定資産とその他資産が25億円増加しており、積極的な出店のための費用に借入金の一部が充当されていることは間違いありません。
以下の表はペッパーフードサービスの売上高推移です。 

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(出所 株式会社ペッパーフードサービス 2019年12月期第2四半期決算説明会資料)

凄まじい勢いで成長してきたことが分かるでしょう。 

しかし売上高がどんなに伸びても足元の利益は減少しているのです。 これは以下の表が参考となります。

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(出所 株式会社ペッパーフードサービス 2019年12月期第2四半期決算説明会資料)

上記表のいきなり!ステーキにおける既存店売上高の推移(水色の線)を見ると重要なことに気付きます。いきなり!ステーキの成長は大幅な出店によるものです。一方で、既存店は前年同月比で2割以上も売上が落ちこんでいるのです。 

いきなり!ステーキの成長は誤解を恐れずに言えば単に出店を行い規模を拡大したことによる「見せかけ」であり、 内実は既存店の客離れが止まらないということになります。

外食産業では、食材の仕入れは「掛け」(いわゆる後払い)も多い一方で、販売は現金が多くなっています。すなわち、外食産業は運転資金が必要のない業種です。

よって、新規出店を無理しなければ簡単には資金繰り破綻しません。

しかし、いきなり!ステーキの場合は急激に出店をしているため、赤字店舗が増加するならば、経費(店舗の賃借料、店舗の建築費支払等)で現金が外部流出していく怖れがあります。

これは、急拡大している外食・小売企業に見られる典型的な資金繰り悪化のパターンです。

積極的な出店によって企業規模が拡大していて、上手くいっている間には隠れていて見えませんが、急激な出店は既存店の運営がおろそかになり、自社の店舗が競合となり、既存店の売上(=現金収入)が減少することがあります。また、堅調な時期に出店を決めているので、現金収入を見込んで次々と出店を決めており、現金収入がない中で出店費用だけは先行していきます。こうなると資金繰りは途端に苦しくなるのです。

ペッパーフードサービスは、筆者が見る限りは、このパターンに陥っている可能性があります。

まずは、既存店舗のテコ入れ(=コスト削減、売上改善)、新規出店の見直しを行い、現金を確保することを考える必要があるのではないでしょうか。