銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

大塚家具の在庫一掃SALEの評価方法とSALEにおける狙い

f:id:naoto0211:20181103103119j:plain

大塚家具は、在庫品や店頭展示品の入替えのため、通常販売価格の最大80%オフという在庫一掃SALEを実施しています。セールは9月下旬から、全国12店で始めており、当初の10月28日までの予定を11月25日まで延長しています。

この在庫一掃SALEにより2018年10月の売上高は15か月ぶりに前年実績を上回りました。

しかし、こんなに安売りをして問題はないのでしょうか。

今回は、大塚家具が置かれている現状を確認し、在庫一掃SALEの「意味」について考察しましょう。

 

売上実績推移

まずは大塚家具の売上高推移を確認しましょう。

以下が大塚家具が発表している数値です。 

(%) 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月
全店 83.1 92.3 83.7 87.4 90.2 82.6 73.4 78.5 87.9 107.7
関東 80.5 85.2 77.2 86.6 101.4 83.5 72.2 76.6 91.4 113.5
東海 86.5 132.4 107.5 87.7 77.2 67.9 74.7 72.1 73.7 79.8
関西 92.2 99.8 100.9 96.8 70.3 90.7 79.2 81.1 85.4 110.2
その他 81 87 72.6 73.1 78.9 74.4 67.8 92.6 81.9 94.4

2018年10月は店舗売上高(全店)で前年比107.7%、既存店では前年比114.3%となったと発表されています。これは間違いなくSALEの効果でしょう。

なお、東海地区で売上の減少が止まらないように見えるかもしれません。

店舗売上高が前年比で減少してきていた要因には店舗の閉鎖もあります。これについては留意が必要です。店舗数の推移についても確認しておきましょう。

<2018年店舗数> 

(店) 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月
全店 21 21 21 20 19 19 19 19 19 19
関東 11 11 12 12 11 11 11 11 11 11
東海 3 3 2 1 1 1 1 1 1 1
関西 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5
その他 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

<2017年店舗数> 

(店) 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
全店 18 20 21 22 22 22 21 21 20 21 21 21
関東 9 10 11 12 12 12 11 11 10 11 11 11
東海 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3
関西 4 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5
その他 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

以上の通り、東海地区では3店舗あった店舗が2018年3月に2店舗となり4月に1店舗となっています。この点については留意が必要でしょう。

上記で確認した売上推移のように、2018年10月は在庫一掃SALEの効果で売上の減少を止めることはできました。しかし、最大80%オフというSALEを続けることに問題はないのでしょうか。

 

在庫一掃SALEの分析

最大80%オフという在庫一掃SALEは大塚家具にどのような影響を与えるのでしょうか。最大80%オフというと赤字覚悟で販売しているようにしか感じられないでしょう。まずは、この点について考えてみましょう。

第一に、大塚家具の在庫一掃SALEは、あくまで「通常の販売価格」の最大80%オフだということです。

大塚家具が販売している家具の「仕入れ値」は、当然ながら「通常の販売価格」を下回ります。では大塚家具の場合、販売価格の何割程度で家具を仕入れているのでしょうか。

一つの参考値としては、売上総利益率(粗利益率)があります。

2018年12月期中間決算(2Q)時点の大塚家具の売上高総利益率は43%です。売上総利益8,147百万円÷18,825百万円=43%となっています。

また、2017年12月期の有価証券報告書では、仕入高は18,735百万円、売上高(不動産賃貸収入除く)は41,032百万円です。18,735百万円÷41,032百万円=45%となります。当期に仕入れた商品が、そのまま全て当期の売上対象商品とはなることはありませんが、販売価格と仕入価格との差についての参考とはなるでしょう。

すなわち、大塚家具の場合、商品の仕入値は販売価格の40%程度と想定されます。よって、60%オフ程度が仕入値を割り込む水準と言えるかもしれません。

ただし、仕入値と販売価格の差額では利益が出ているとしても、さらに店舗の賃借料や従業員の人件費等を勘案しなければなりません。大塚家具は、仕入値と販売価格の差である売上総利益だけでは、店舗や従業員という経費を吸収できず赤字になっているのです。

大塚家具の今回のSALEは、ほぼ間違いなく「赤字販売」です。

在庫一掃SALEの平均値引額が50%だったとしましょう。すると以下のような考え方になります(かなり単純化しています)。

  • 商品仕入値を40円とする
  • 販売価格は通常だと100円のところ、50%オフのため50円
  • よって、50%オフSALEの儲けは10円
  • 一方で、通常だと100円ー40円=60円の儲け
  • 単純計算だが、通常よりも6倍商品が売れて、通常の販売時と同じ利益となる(10 ×6=60円)
この考えによれば、大塚家具の在庫一掃SALEは通常よりも数倍(平均が50%になるのであれば6倍程度)の売上が出来なければ、通常の販売価格と同じ水準の利益とはなりません。ところが大塚家具の在庫一掃SALEにおける10月の売上高は既存店(店舗閉鎖があるので既存店比較の方が有効)で+14%でしかありません。
したがって、在庫一掃SALEは利益には貢献しないことが分かるでしょう。
では、なぜ在庫一掃SALEを実施したのでしょうか。そして、なぜ延長までしているのでしょうか。
 

大塚家具の狙い

大塚家具の2018年12月期中間決算(2018年1~6月)は、当期損益▲2,037百万円の赤字です。すでに赤字ですので、さらに在庫一掃SALEを実施し、売上高が少々増えたとしても利益面での赤字を増やす意味はないと考えられるのではないでしょうか。
ここで重要な数字があります。
現預金2,205百万円、純資産14,355百万円という2つの数字です。
大塚家具は、保有する現預金が業績悪化に伴い急減してきました。現段階では、何らかの対応をしなければ近い将来に資金繰りに行き詰る可能性が高いといえます(資金繰り関連の記事は以下をご参照下さい)。

www.financepensionrealestate.work

一方で、純資産は140億円超となっています。少々の赤字となっても債務超過には転落しません。2018年12月期の業績予想は、最終損益が▲34億円ですから、まだ余裕があります。

よって、大塚家具にとって重要なのは、赤字の多寡よりも現預金なのです。資金繰りに行き詰らないようにキャッシュを確保しなければならないのです。

そのため、赤字販売であったとしても在庫商品を一掃したい=現金を回収したいということなのです。

これが在庫一掃SALEを行う理由です。

これ以外の理由は、後から付け足したようなものです。

例えば、「在庫を入れ替え新たなお客様層を開拓する」「大塚家具のショールームに来たことがない新しいお客様を呼び込む」「売れない在庫ばかりが残れば品ぞろえの質が低下し、さらに売れなくなる、という悪循環を断ち切る」という理屈が、在庫一掃SALE実施の理由だと挙げられるでしょう。

しかし、企業の存続に最も必要なものはキャッシュです。資金繰りが破綻してしまえば、新たにお客様を開拓することもできません。

大塚家具が2018年11月14日に発表予定の3Q決算では、残念ながら今回の在庫一掃SALEは業績反映されていません。在庫一掃SALEにおける資金繰り、利益状況等については通期決算が発表される時に、改めて確認するしかないでしょう。大塚家具の動向については、これからも目が離せません。