(写真は同社上場申請書類から)
コワーキングスペースを世界中で展開し、ソフトバンクグループが出資したことでも有名なWe Workが話題となっています。
企業価値は470億ドルとされていたものが、いっきに半分以下の評価へ下落すると報道され、その後、上場延期・創業者の退任となり、今後しばらくは上場は難しいだろうとされています。また、全従業員の3分の1にあたる5,000名程度を削減するとも報道されています。
We Workについてはテック企業としての評価を受けていたが、実態は不動産賃貸業にしかすぎないとも言われています。
We Workが目指すビジネスモデル、それから今後の展望については、筆者には正確なところは分かりません。しかし、上場申請書類から見るWe Workの実態については、確認することが出来ます。
報道等に惑わされることのないようWe Workの決算について客観的に確認していきましょう。
報道内容
WeWorkの「魔法は解けた」。CEO辞任でも復活しない収益構造と落ちたソフトバンクの評判
海部 美知/Michi Kaifu [ENOTECH Consulting CEO]
Sep. 26, 2019 Business InsiderWeWork(ウィーワーク)バッシングが止まらない。
ついにWeWorkの親会社We Companyの創業者アダム・ニューマン氏はCEOを辞任。ニューマン氏は日々のマネジメント機能なしの「非業務執行」会長というが、これで騒動は収まるのだろうか。
果たしてWeWorkの問題はニューマン氏個人の問題なのか、コワーキングスペースというWeWorkのビジネスモデルの限界なのか。
そもそもの発端は、8月に株式上場のための情報開示(「S-1」と呼ばれる様式の書類)で公開された事業内容があまりにひどいと投資家やメディアから酷評されたことだった。これに続いて創業者・CEOのニューマン氏の個人的な「奇行」まで騒がれるようになった。
このため、上場株価を何度も引き下げたのちに上場は延期となり、超高速で新経営陣も決まったが、上場はおそらく当分ないだろうと言われている。(以下略)
つい数か月前まではWe Workと言えば巨大ユニコーンとして注目を浴びていたものでした。それが一気に評価が急落してしまったイメージです。
このポイントは上場に向けた開示書類で明かされた「事業内容があまりにもひどい」ということにあります。
次にWe Workの事業状況について見ていきましょう。
We Workが主張する事業状況
We Workの上場に向けた開示書類は以下のリンク先で確認できます。
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1533523/000119312519220499/d781982ds1.htm#fin781982_2
但し、資料が膨大になるため、以下ではポイントを絞ってWe Workの実態について確認しましょう。以下の図は同社の開示書類が出典です。
開示書類で主張されているのはWe Workの強みは通常のビル賃貸業者よりも運営コストが低いということです。
そして、新しい拠点の立ち上げから、損益分岐点に達するまでのスピード感をアピールしています。上図では、拠点の選定からオープンまでが10ヵ月程度、オープンから損益分岐点に達するまでに半年しかかからないことが示されています。
実際に2018年の実績で見るとオープニング時点で52%の契約率が6ヵ月後には84%まで上昇しているとしています。
<Workstation Capacity(単位:千)>
この収益力の高さを売りに、多額の資金調達を行い、同社は凄まじい勢いで拠点・キャパシティを増加させてきています。2019年6月時点で1年前の2倍程度の60.4万名分となります。
<Memberships(単位:千)>
一方で契約数(Memberships)も急増しており52.7万名となっています。
上図を見ると会員数が凄まじい勢いで増加してきたかが分かるでしょう。
<Enterprise Membership Percentage>
但し、We Workのビジネスモデルでは、ビルを長期で賃借し、それを小分けにして個人や法人に短期で賃貸するサブリースがメインとなります。そのため、収益の安定性に欠けるのではないかとの疑問が出てきますが、上図の通り法人契約を増やしており、安定性は上昇しているとWe Workは主張しています。
そして、We Workが展開し、今後展開する予定の都市におけるマーケットは非常に大きく、現時点ではWe Workのシェアは非常に小さいため、成長余地があるとしています。
これだけ見てくるとWe Workには将来性がありそうな気がしてくるでしょう。
では、We Workの問題点はどのようなものなのでしょうか。
We Workの決算状況
We Workの決算については、以下の図表を見るのが良いでしょう。
上図表は単なる損益計算書ですが非常に多くの示唆に富んでいます。
まず営業赤字(Loss from operations)は▲1,369百万USDですから、売上高並みの巨額赤字が発生していることになります。但し、これは通常のコストに「オープン前費用(Pre-Opening Location Expenses)」「新市場参入費用(Growth and New Market Development Expenses)」など、拠点の拡大に積極的な投資費用が加わって、同社は大幅な赤字となっているのです。ここまでは期待されるベンチャー企業としては理解が出来る部分です。
一方で、We Workの売上高は2019年上半期で1,535百万USDです。
それに対して拠点運営コスト(Location operating expenses)は1,232百万USDです。これに減価償却費(Depreciation and amortization)255百万USD、一般販管費(General and administrative expenses)389百万円USDを加えると、1,878百万USDとなります。
広告費等が無かったと仮定しても、We Workは本業で赤字を出していることになります。
もちろんWe Workはベンチャー企業ですから、将来の成長期待があるのであれば、赤字も許容されるでしょう。しかし、ポイントは、この成長期待が剥落したことにあるものと筆者は考えます。
同社の運営するコワーキングスペースの入居率は84%程度であることが想定されます(前述の拠点キャパシティーとメンバーシップの関係:527千÷604千=84%)。
単純に想定するのであれば売上は+15%は伸ばす余地があります(通常の不動産賃貸業はそこまで上昇しませんが)。そうすると1,535百万USD×115%=1,765百万USDとなります。これが、コワーキングスペースもしくは実態としての不動産賃貸事業であるWe Workの売上高の上限です。
これに対して上述の通り経常的な費用が1,878百万USDかかっているのです。
すなわち、決算書だけを見るとWe Workは、高い費用をかけて安い入居者を募集してきた不動産賃貸事業者であり、本業が単なる赤字企業であると評価されることになります。
まとめ
以上、We Workの状況について確認してきました。
We Workの現在のビジネスモデルはテック企業ではないと思われますので、不動産というキャパシティーの制約が同社には存在します。
本業が現時点で赤字であり、将来の収益改善が見込めない不動産賃貸事業であることが上場に向けた開示資料で判明したために、投資家が期待を持てなくなり、We Workの企業評価は急落したのです。
これを跳ね返して株式の評価を回復させるために必要なことは、本業が高い収益性を誇ることを証明するしかありません。
それが出来なければ同社の企業評価・想定株価は回復しないでしょう。
そして、筆者は収益性の回復は簡単ではないものと想定しています。理由は簡単で、収益性を拡大させるには賃料を上げるか、コストを削減するしかありません。しかし、通常の不動産業は「相場」というものが決まっているので賃料拡大には限界があり、同様に長期でビルを借りてサブリースしているためにコスト削減にも限界があることが容易に想定されるためです。
We Workは多数のオープン前の物件も抱え、今後は資金繰りの面でも厳しい局面が想定されます。投資家としてのソフトバンクグループがどのような手を打つかも含めて、We Workの今後には注目していきたいと思います。