近時、所得や税金、社会保障についての話題が増えました。
金融庁の審議会が発表した報告書が、老後に公的年金だけでは足りず30年間で2,000万円必要と指摘した老後2,000万円問題や、年金の所得代替率が低下する年金財政検証、消費増税等、話題には事欠きません。
日本の社会全体に、生活の苦しさや世代間格差を感じる空気等が
2019年初には「年収で890万円〜920万円ないと社会のお荷物という説がある」と解説したタレント・予備校講師のテレビでの発言が炎上したと話題になりました。
今回はこの「年収で890万円〜920万円ないと社会のお荷物という説」について改めて確認したいと思います。
社会のお荷物説とは
「年収で890万円〜920万円ないと社会のお荷物という説」は、「年収890万円未満は"社会のお荷物"なのか」という記事が元ネタと思われます。
(記事)
「年収890万円未満は"社会のお荷物"なのか」(出所 PRESIDENT 2016年7月18日号https://president.jp/articles/-/22916)
この記事では、以下のように主張されています。
「内閣府の試算をもとに計算すると、世帯の総収入が890万~920万円を超えるまでは『受益超過』となります。所得がそれ以下の世帯はいわば『社会のお荷物』です。表現は過激かもしれませんが、これは日本社会の素晴らしさでもあります。なぜなら所得が低く『担税力』のない人にも、市民サービスを平等に提供するという合意の表れだからです。ただし、そうした美しき日本社会は、近い将来、経済・財政的に破綻する恐れがあります」
収入が890万~920万円よりも低い人は、様々な公共サービスの恩恵を受けているが、それに対する対価を支払っていないという説が「年収890万円未満は"社会のお荷物"」と言って良いでしょう。
内閣府の試算
上記のPRESIDENTの記事は、内閣府の「税・社会保障等を通じた受益と負担について」という試算をベースにしたとしています。
では、「税・社会保障等を通じた受益と負担について」にはどのようなことが記載されているのでしょうか。
(出所 内閣府「税・社会保障等を通じた受益と負担について」https://www5.cao.go.jp/keizai3/jueki_futan.html)
上記図表の示すところは、例えば以下です。
- 30代男性、配偶者有、子供一人で総収入527万円の世帯は、受けている公共サービスに対して▲53万円の負担超過
- 40代男性、配偶者有(共働き)、子供二人で総収入778万円の世帯は、受けている公共サービスに対して+9万円の受益超過
- 50代男性、配偶者有、子供一人で総収入856万円の世帯は、受けている公共サービスに対して▲143万円の負担超過
- 60代男性、配偶者有、子供無しで総収入382万円の世帯は、受けている公共サービスに対して▲196万円の受益超過
内閣府の試算はあくまでも上記のような試算がなされているだけです。
しかしながらPRESIDENTの記事では、内閣府の試算をもとに計算すると、世帯の総収入が890万~920万円を超えるまでは『受益超過』となるとされているのです。
参考としては、以下の図表も掲載されており、年収が800万円超の世帯では総収入に対する負担超過の割合が大きくなっています。
但し、これを鵜呑みにするのはいくらなんでも短絡的過ぎます。
最初に掲載した図表のように、子供の有無によっても受益の有無は大きく変わります。
将来の社会を形成する子供達を育てる世帯を受益超過だから社会のお荷物だとするのは、さすがに意味のない議論でしょう。
世帯総収入が800万円未満だからといって受益超過の世帯ばかりではなく、仮に受益超過だとしても子育て世帯は将来の日本のためになっているのです。
所見
近時、社会を分断するような言説が増加してきているように筆者は感じます。
特に社会保障の問題は、目先の損得だけの話ではありません。日本社会をどのように存続させていくのか、様々な格差をどのように是正するのか、非常に大事な問題なのです。
短絡的な議論がなされないことを願います。