地方銀行(地銀)の苦境がマスコミで報道されています。
今回は大手地銀の池田泉州銀行の決算について見ていくことにしましょう。
地銀の置かれている状況が理解出来るのではないかと思います。
2018年3月期単体決算の概要
池田泉州銀行の動向が良く分かるように、同行単体での決算について確認していきます。
- 業務粗利益(一般企業の売上高に相当) 379億円(前年度比▲229億円)
- 国債等債券損益を除くコア業務粗利益は517億円(前年度比▲38億円)
- うち、資金利益(貸出金利息、有価証券利息配当金等) 472億円(前年度比▲17億円)
- うち、役務取引等利益(投資信託販売手数料、為替手数料等) 63億円(前年度比+13億円)
- うち、その他業務利益▲155億円(前年度比▲224億円)
- その他業務利益のうち、国債等債券損益▲137億円(前年度比▲190億円)
- 業務純益(一般企業の営業利益に相当)▲84億円(前年度比▲207億円)
- 臨時損益のうち株式等関係 +184億円
- 経常利益 122億円
池田泉州銀行の業績概要は上記の通りとなりました。
全体感で言えば、業務粗利益は急減していますが、主因は国債等債券損益の赤字によるものです。
他の業務でのカバーも出来ず業務純益は赤字となっています。
この国債等債券損益の赤字を埋めるために持合株式を売却し、経常利益は黒字としています。
これが池田泉州銀行の決算における大きな流れといえるでしょう。
では、同行の単体決算について、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。
単体決算のポイント
地銀は貸出業務が苦戦しているというイメージがマスコミで報道されています。
池田泉州銀行の場合は、どのようになっているでしょうか。
まずは、貸出業務について見ていきましょう。
同行単体の貸出残高の推移は以下となっています。
<単体貸出残高>
2014年3月末 35,848億円
2018年3月末 39,080億円(2014年3月末比+9%)
したがって、貸出残高は相応には増加していることが分かります。
また、スルガ銀行のシェアハウス融資で問題となっているような賃貸用不動産向けの残高推移は以下の通りとなります
<賃貸用不動産向け貸出残高>
2014年3月末 2,795億円
2018年3月末 3,582億円
このように賃貸用不動産向けの貸出だけで上記全体の貸出残高が増加している訳でもありません。
一方で、残高は増加しましたが、貸出金の利回は低下しています。
<貸出金利回(国内業務部門)>
2014年3月末 1.44%
2018年3月末 1.07%
<国内預貸金利鞘(貸出金利回と預金等調達コストとの差) >
2014年3月末 0.34%
2018年3月末 0.12%
預貸金利鞘が0.12%ということは、1億円を貸し出すと年間12万円の儲けとなります。
あえて言うならば「わずか12万円」です。
貸出残高が増加しても池田泉州銀行が収益面で苦戦しているのは、この預貸金利鞘の縮小の問題が大きいといえるでしょう。
しかし、池田泉州銀行における2018年3月期決算(単体)の最大のポイントは、有価証券の含み損処理です。
有価証券投資を同行が取り組んできたこと自体は当然のことです。
貸出金残高39,080億円に対して預金残高は49,540億円(いずれも2018年3月末時点) となっており、貸出と預金の差額1兆円を運用する必要があるためです。
これを踏まえ、中期的にみた有価証券の残高推移を確認します
<有価証券>
2014年3月末 13,993億円
2017年3月末 9,542億円
2018年3月末 7,604億円
<うち、国債>
2014年3月末 192億円
2017年3月末 620億円
2018年3月末 721億円
<うち、ドル債>
2014年3月末 2,517億円
2017年3月末 2,206億円
2018年3月末 858億円
<うち、投資信託>
2014年3月末 2,132億円
2017年3月末 1,964億円
2018年3月末 1,491億円
以上で分かる通り、同行の有価証券は全体として2014年3月末比で半減しています。
その内訳では、低金利の進行に伴う国債への投資回避に加え、前年度比ではドル債および投資信託の残高を大幅に減らしています。
この要因は、含み損が発生している投資の手仕舞い。
<ドル債/評価損益>
2014年3月末 ▲35億円
2017年3月末 ▲131億円
2018年3月末 ▲26億円
<投資信託/評価損益>
2014年3月末 ▲106億円
2017年3月末 ▲86億円
2018年3月末 ▲95億円
この数値で分かることは、同行がドル債の金利上昇等で大幅な含み損を抱えることになり、ドル債を売却し損失を顕在化させたこと、投資信託でも評価損が出ており含み損を処理しているものの損失が拡大していると想定されること、の2点です。
この処理を2018年3月期に実施したため、同行は本業の収益である業務純益が大幅な赤字となったのです。
これが同行の2018年3月期を正確に理解するためのポイントです
池田泉州銀行の収益力および今後の戦略
以上みてきた同行の状況をまとめると以下の通りとなります。
- 本業の貸出業務は貸出残高が増加してきたが、利鞘が低下しており貸出業務での収益確保は容易ではない。
- 他地銀が取り組んできた賃貸用不動産向け貸出は、同行では比較的保守的に対応しており大きな問題となる可能性は低い
- 貸出業務の補完として取り組んできた有価証券投資(特にドル債を中心とした外国債券投資および投資信託投資)は含み損が発生し、リスクを軽減させるために縮小中
- 有価証券投資処理には一定の目処をつけたものの、現時点でも問題は残っている状況
では、同行は今後どのような対応をとっていくのでしょうか。
同行が直近で発表した中期経営計画にその方向性が記載されています。
まずは人材の再配置です。
<人材再配置>
- 業務のセンター集中(▲230名)
- 店舗の多様化(▲60名)
- 本部効率化(▲100名)
- 組織のスリム化により、営業担当者を増員(+150名)
- 戦略子会社への出向者増員(+20名)
- センター(+30名)
- 全体としては190名の人員削減
これを見て分かるように、同行はミドル·バック (いわゆる事務や本部の間接部門)の人員を削減し、お客様との接点を持つ「稼ぐ」部署へ人材を再配置します。
顧客基盤・接点の拡大と共に、店舗・業務におけるICTの活用等コスト低減を進めることになります。
また、池田泉州TT証券等の子会社も活用しながら、預かり収益(投資信託、保険等)等を拡大することにより、役務取引収益のコア業務粗利益に占める割合を2018年3月末の12%から2021年3月末に18%程度まで引き上げることを計画しています。
そして、問題となっている有価証券投資は低減させていくのです。
この戦略自体には何ら違和感はありません。
むしろ他の銀行もほとんど同じ戦略を取っているといっても過言ではありません。
池田泉州銀行は、地銀としては相応の規模ながら、有価証券投資で「失敗」しました。これは事実です。
地銀の経営は、マイナス金利政策の導入による貸出業務収益の低迷に加え、賃貸用不動産融資、外債投資、カードローン等、あらゆる新規事業につき金融庁から問題視されるようになり、八方ふさがりの状況といえます。
この状況に対応するには、コストを削減することと、収益向上に直結する顧客基盤・取引の拡大を狙うしかありません。
池田泉州銀行の問題は、他地銀と多かれ少なかれ共通なのです。