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栃木銀行の2019年3月期中間決算は、銀行の有価証券運用の行き詰まりを象徴するもの

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北関東の栃木銀行が運用に苦戦しています。

栃木銀行の問題は、規模は違えど地銀に共通するものです。

今回は栃木銀行の2019年3月中間決算について注目していくことにしましょう。

 

報道内容

まずは概要をつかむために日経新聞の記事を確認しましょう。

外債運用頼み限界、市況変化への対応後手
北関東 地銀サバイバル 2番手行の苦悩(上) 2018/11/20 日経新聞

 北関東の地銀の経営環境が厳しくなっている。特に2番手行の苦戦が鮮明だ。超低金利で貸出金利息の縮小が続くなか、頼みの有価証券運用も米国の長期金利上昇で外国債券が損切りを迫られる「不良債券」となった。規模に勝るめぶきフィナンシャルグループ(FG)や群馬銀行は株式売却益などで補ったが、2番手行にその余力はない。難局をどう打開するか。3行の取り組みを追う。
 「安全・確実な運用に軸足を移す」。栃木銀行は7日、2019年3月期の連結純利益予想を期初の41億円から5億円に引き下げた。記者会見した黒本淳之介頭取は大幅な下方修正の理由として、有価証券運用の行き詰まりを暗に認めた。
 栃木銀はマイナス金利政策で貸出金利回りの低下が続くなか、外国債券の運用に頼ってきた。15年3月期の最高益も運用益によるところが大きかった。だが、米国の利上げ対応で後手に回り、9月末で有価証券全体で評価損を抱えるに至った。10月に入りようやく米ドル建ての固定金利債券を全て手放した。
 痛手は大きい。「収益計画を再構築する必要がある」。黒本頭取は今期業績の下方修正にとどまらず、中期経営計画に掲げた20年3月期に連結純利益40億円の目標の撤回も示唆。4期連続の最終減益にとどまらず、収益計画の再考を迫られている。

(以下略)

このように栃木銀行は外国債券の運用が上手くいかず厳しい業績となっていることが分かります。

では、栃木銀行の現状はどのようになっているのでしょうか。以下でもう少し詳しく見ていきましょう。

 

栃木銀行の2019年3月期2Q決算

栃木銀行の2018年度の上半期は非常に厳しい決算となりました。以下は単体決算のポイントです。

<主要数値>

  • 業務粗利益(≒売上高)14,731百万円(前年同期比△470百万円) 
  • うち、国内業務粗利益14,622百万円(同△466百万円)
  • うち、資金利益(貸出金・有価証券利息等)12,659百万円(同△943百万円)
  • 経費12,534百万円(同△111百万円)
  • コア業務純益(≒営業利益、債券売買損益除く)1,748百万円(同△770百万円)
以上のように特に本業の収益とされるコア業務純益が大幅な減益となりました。この要因は資金利益の減少です。資金利益には貸出金からの利息収入のみならず、有価証券投資の利息・配当金、投資信託の売買損益も含まれます。
栃木銀行の場合はどのような状況だったのでしょうか。以下で確認しましょう。
 
<利鞘>
  • 資金運用利回(A) 0.93%(同△0.11%)
  • うち貸出金利回 1.11%(同△0.06%) 
  • うち有価証券利回 0.84%(同△0.51%)
  • 資金調達原価(B) 0.94%(同△0.03%)
  • 総資金利鞘(A)-(B) △0.01%(同△0.08%)=本業赤字
以上のように栃木銀行は貸出金の利回りも減少していますが、有価証券の利回りも大幅に減少しています。その結果、本業の利益となる資金運用利回りが減少し、総資金利鞘がマイナスとなりました。では、同行の有価証券及び貸出金の残高はどのようになっているのでしょうか。 
 
<有価証券・貸出残高>
  • 有価証券残高584,183百万円(同+180,465百万円)
  • うち、国債残高106,999百万円(同△13,679百万円)
  • 貸出金1,900,429百万円(同+65,390百万円)
上記で分かるように、栃木銀行は前年に比べて大幅に有価証券の残高を増加させました。この要因は間違いなく、マイナス金利政策下の運用難です。そして、国債を増加させていないということは、社債や外国債券で運用しているということになります。なお、同行の貸出金額と有価証券残高の割合は2018年9月末時点では3:1程度まで上昇しています。これは預金のかなりの部分を貸出に回せていないということです。
では、有価証券の運用状況はどのようになっているのでしょうか。
 
<有価証券の含み損益状況>
  • 有価証券全体△2,188百万円(同△4,027百万円)
  • うち、 株式+3,672百万円(同△1,439百万円)
  • うち、債券△1,504百万円(同△1,860百万円)
  • うち、その他△4,328百万円 (同△699百万円)

栃木銀行は大量の有価証券を抱えていますが、前年同期と比較すると含み損が拡大しています。債券、その他(この中にはヘッジファンドのような投資信託等が含まれます)の含み損は合計で▲60億円近くまで増加しました。

すなわち、栃木銀行は有価証券の残高を大幅増加させてきましたが、運用はうまくいっていないという状況にあります。

そのため、今回の決算では以下の説明がなされています。 

米国金利の上昇により当行保有の有価証券の評価損が拡大しました。
今後も金利上昇が予想され評価損拡大の懸念があるため、米ドル建固定金利債券全てを売却することといたしました。
その他評価損拡大が懸念される銘柄を含めて当期に売却損約35億円を計上いたします。
その他、与信コストの増加も見込まれることから、通期の業績予想を下方修正いたしました。

(出典 栃木銀行 平成31年3月期 第2四半期 決算説明資料)

このように栃木銀行は有価証券の含み損拡大への対応のため35億円の売却損を計上することになりました。これにより株式を含めた有価証券全体では含み損の状態が解消される可能性があります。

 

所見

栃木銀行は今回、主に外国債券での運用の行き詰まりを認め、損切を行うことになりました。これは債券投資家としては正しい判断でしょう。

しかし、外国債券運用を縮小したからといって、他にどのような資産で安定的に運用できるのでしょうか。

銀行の悩みは、この「安定的に運用できる資産・マーケットがない」ということに尽きます。

銀行の本業である「個人・企業に融資という形で投資するマーケット」は現状でも徐々に拡大はしています。しかし、日銀のマイナス金利政策に加え、各銀行の競争により貸出金利が低下し、儲けは薄くなっているのが実情です。

そして、アパートローン、カードローン等、地銀が注力をしようとしてきた分野では過熱等もあり金融庁がストップをかけ始めています。

地銀は本当に経営が行き詰まりを感じているのではないでしょうか。

何をやっても、上手くいかず、もしくは金融庁にダメ出しをされ、どうすれば良いのかと考えている経営者も存在するでしょう。

現状で見えているのは、収入・利益が減少することが見えている以上、コスト削減を推進することぐらいかもしれません。地銀同士の統合は今後も続くでしょう。

その先に、どのようなビジネスモデルを見出せるのか、もしくは見つけられずに業態として徐々に消えていくのか、そんなに長くない時間軸で結果が現れるのかもしれません。