銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「情報銀行と銀行の違い」および「銀行の名称に関する法規制と由来」

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情報銀行という用語をお聞きになったことがある方が多くなってきているのではないでしょうか。

一般に言うところの銀行と情報銀行はどのような違いがあるのでしょうか。そもそも一般の会社は「銀行」の名称を使っていませんが、それはなぜでしょうか。

今回は情報銀行と、銀行の名称に関する法規制について簡単に見ていきましょう。

 

報道内容

日経新聞の記事に情報銀行の記事が掲載されました。まずはこの記事を引用します。

動き出す情報銀行 データ保護との両立課題に
2019/05/09 日経新聞

 本人の同意を得て企業に個人データを活用してもらう「情報銀行」が動き出す。グーグルなど米IT(情報技術)大手にデータ収集で出遅れた日本企業にとって、事業巻き返しの好機だ。総務省が認定基準づくりを主導するなど、国も普及を後押しする。世界的にも珍しいデータ活用の取り組みとなるが、制度定着に向けて課題は大きく3つある。
 第1は認定基準が曖昧な点だ。このままでは関連サービスが乱立する恐れがある。制度自体は2018年6月に総務省が指針を公表し、日本IT団体連盟が認定作業を担う。認定を受けると「認定事業者」として利用者に安心感を提供できるが、認定なしでサービスを提供しても問題はない。
 もともと認定第1号は19年3月に公表する予定だったが、すでに2カ月ほど遅れている。この間に、総務省内で指針の見直し作業も始まった。安心・安全なサービスを広げるには、基準や運用方法をわかりやすくする必要がある。
 第2はデータ保護の仕組みをどう確保していくかだ。通常の銀行は預けたお金を自分の意思で自由に引き出せる。だが情報銀行にはこうした機能はない。日本では法規制でデータを自由に持ち運べる権利などが保障されていないためだ。
 政府が20年の提出を目指す個人情報保護法改正案の原案では、データの利用停止を企業に請求できる「使わせない権利」を盛り込んだ。この権利でデータの利用をやめさせることはできるが、各情報銀行には不要なデータは残ったままになる。企業側が自主的にデータ削除や持ち運びに応じる姿勢も求められそうだ。
 情報銀行は世界でもあまり例がない。利用するユーザーや企業にどう仕組みを認知してもらうか。これが第3の課題だ。
 「銀行法では、銀行以外の事業者が企業名などに銀行の文字を使用することは禁止されている」。総務省の資料は情報銀行への参入を目指す企業に注意を促す。
 米国では同様の仕組みは「Data vault(データ倉庫)」などと呼ばれ、自分のデータを自ら管理できる情報の保管庫というイメージが強い。これに対して日本は「対価」を強調する狙いなどから情報銀行と呼ぶが、各社のサービスに「銀行」の名を付けることには旗振り役の総務省内からも異論があがる。
 情報銀行はデータには金銭的価値があると個人も企業も認め合うことで成り立つ仕組みだ。官民を挙げてデータの活用法を整えなければ、新たな試みもかけ声倒れに終わる。

これが情報銀行についての記事でした。

情報銀行についての説明と「銀行」という名称を使うことの問題等が指摘されています。

 

情報銀行とは

情報銀行とはどのようなものでしょうか。

総務省は以下のように定義しています。

情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。

(出典 情報信託機能の認定に係る指針ver1.0/総務省)

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(出典 情報信託機能の認定に係る指針ver1.0/総務省)

より分かりやすく言えば、情報銀行とは個人から預かったデータをその個人が同意する範囲で提供・運用し、そこから得た便益をユーザーに還元する仕組みのことです。
一般の銀行はお金を預かり、企業や個人に融資したり有価証券で運用し、利益の一部を預金者に利息(便益)として還元します。

個人が預けるものが個人データなのかお金なのかの違いと見えます。

しかし、新聞記事が指摘しているように、個人のデータは持ち運びや預け替えが容易ではありません。

誰もが利用するお金には「価値保存機能」や「交換(決済)機能」があるため、預け替えが容易であり、銀行からは個人の意思でお金の引き出しも自由です。

情報銀行が取り扱う個人データは、そのようなお金とは異なるということです。お金とは異なり、個人データ一つ一つは異なります。お金のように単位当たり(例えば1円)で同じ価値を持つ訳ではないのです。

情報銀行と銀行は似てるように感じるかもしれませんが、かなり異なると言えるでしょう。

 

銀行の名称に関する法規制

そもそも銀行という名称は法律で使用を規制されています。

銀行法

(商号)
第六条 銀行は、その商号中に銀行という文字を使用しなければならない。
2 銀行でない者は、その名称又は商号中に銀行であることを示す文字を使用してはならない。

上記記事の中にあった規制というのはまさにこの法律にあります。

顧客保護のため、銀行という名称を企業名には勝手には使えなくしてきたのです。

総務省も情報銀行という名称を「サービス」に使うことには異論があるとされていますが、このような背景からです。

 

銀行の名前の由来

ところで銀行という名称の由来はどのようなものでしょうか。こちらは日銀のホームページから引用します。

「銀行」という名前の由来は、明治 5(1872)年制定の「国立銀行条例」の典拠となった米国の国立銀行法(「National Bank Act」)の「Bank」を「銀行」と翻訳したことに始まります。翻訳に当たり、高名な学者達が協議を重ね、お金(金銀)を扱う店との発想から中国語で「店」を意味する「行」を用い、「金行」あるいは「銀行」という案が有力になりましたが、結局語呂のよい「銀行」の採用が決まったといわれています。この他に、渋沢栄一が考案したとする説、などいくつかの説があります。

「Bank」の語源は、12世紀頃、当時世界の貿易、文化の中心地であった北イタリアに生まれた両替商(銀行の原型といわれている)が、両替のために使用した「BANCO」(長机、腰掛)とする説があります。
(出典 教えて!にちぎん/日本銀行ホームページ)

こちらは情報銀行とはもはや関係ありません。銀行も今や金や銀を扱っている訳ではありませんが、それに代わる価値保存や交換機能を持つ通貨を扱っています。

やはり、情報銀行というサービスとは、背景が異なるのではないでしょうか。

 

所見

銀行という名称は、まだまだ安心・信用というイメージがあるようです。

情報銀行というサービス名称だと、個人の大事な情報を安心して預けられるようなイメージを個人は持つかもしれません。

しかし、情報銀行と銀行は異なるサービスです。

また、銀行は実際には構造不況業種として、これからさらにイメージが悪化するかもしれません。

情報銀行という名称については、変更した方が良いではないかと、筆者は思う次第です。