銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

あえて言います。アクティビストは悪ではない。

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自動車部品のヨロズが投資会社レノ(旧村上ファンド関連)から株主提案を受けたと発表しました。

今回は、アクティビストと言われるレノがどのような提案をヨロズに行っているのか、そしてレノの反応はどうか、について確認すると共に、アクティビストについて簡単に考察しましょう。

 

報道内容

まずは事案の概要を掴みましょう。以下日経新聞の記事を引用します。

ヨロズ、レノから株主提案
2019/5/9 日経新聞

自動車部品を手掛けるヨロズは9日、旧村上ファンド関係者が運営する投資会社レノから株主提案を受けたと発表した。レノはヨロズに対し、買収防衛策の廃止や政策保有株式の売却などを要求した。同日会見した志藤昭彦会長は「株主提案は適法性について疑義があるため、(6月に予定する)株主総会では取り上げない」と話した。
レノは14~15年ごろに共同保有分をあわせ、12%のヨロズ株を取得。当時も株主還元などを要求していた。16年には全株を売却していたが、19年3月時点で同社株5%を再度保有していた。

この記事を見るとヨロズは買収防衛策の廃止や政策保有株式(=持合株式)の売却の要求を受けていることが分かります。そして、レノは2014~2015年頃にヨロズの株主となっていたが、全株売却していた経緯があり、改めて株式の保有を行ったことが分かります。 

 

ヨロズ側の意見

レノからヨロズに対する株主提案については、レノ側の詳細提案は判然としませんが、ヨロズ側は自社の意向について発表していますので、詳細を見ていきましょう。

株主提案に対する会社側の見解が発表されることはこれからも増加していくでしょう。ヨロズの今回の見解を見ることで、アクティビストと言われる投資家の企業への要求の仕方が分かるでしょう。

なお、ヨロズ側の見解は、かなり「感情のこもった」ものとなっているところが特徴的といえるかもしれません。

株主からのレター受領に関するお知らせ

当社は、当社の株主である株式会社レノ(本社:東京都渋谷区、代表取締役福島啓修。以下「提案株主」といいます。)より、複数回に亘り、買収防衛策の廃止、政策保有株式の売却及び自社株買いを含む株主価値向上策の実施を求める旨の書簡(以下「本書簡」と総称します。)を受領しております。本書簡においては、当社代表取締役社長志藤健について、経営者としての資質を疑問視する旨も併せて述べられているところです。当社は、従前より、本書簡において言及されている事項を含む経営上の課題について継続的に検討を行っているところではありますが、提案株主より、本書簡に対する当社の回答を公表することを要請されておりますので、本書簡に対する当社の見解を下記のとおりお知らせいたします。 なお、当社は、提案株主から、買収防衛策の廃止を、2019 年 6 月 17 日開催予定の当社第 74 回定時株主総会の議案とすること等についての株主提案を行う旨の書面を 2019 年 4 月 9 日付けで別途受領しておりますが、これに対する当社の見解につきましても下記に記します。



1. 買収防衛策の廃止について
提案株主は、本書簡において、当社株式等の大規模買付行為に関する対応方針(以下「買収防衛策」といいます。)の廃止を求めており、その理由として、株価純資産倍率(PBR)1 倍を下回る株価水準にありながら、買収防衛策を維持することは経営陣の保身行為と評価せざるを得ず、企業価値や株主価値の向上の機会を損ねるものである等と主張しております。 しかしながら、当社の買収防衛策は、昨年 6 月 18 日開催の定時株主総会において、株主の皆様のご承認を頂いており、その有効期間は、同株主総会終了後3年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会後最初に開催される取締役会の終結時までとされておりますが、当社としては、同株主総会において株主の皆様から買収防衛策についてご承認頂いた後から現時点までの間に、買収防衛策の必要性及び合理性に変更は生じていないものと考えております。 当社の買収防衛策は、大規模買付者に対して事前に大規模買付行為に関する必要な情報の提供及び考慮・交渉のための期間の確保を求めることによって、当該大規模買付行為に応じるべきか否かを株主の皆様が適切に判断されること、当社取締役会が当該大規模買付行為に対する賛否の意見又は代替案を株主の皆様に対して提示すること、あるいは、株主の皆様のために大規模買付者と交渉を行うこと等を可能とし、もって当社の企業価値又は株主の皆様共同の利益を確保・向上することを目的とするものであり、当社の経営陣・取締役会の保身を目的とするものではございません。 

(中略)

2. 政策保有株式の売却について
提案株主は、本書簡において、当社コーポレートガバナンス・ガイドラインの記載が、コーポレートガバナンス・コードにおける「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」との規定に照らし具体性に欠ける、保有の合理性に乏しい銘柄は直ちに売却すべきである等と主張しております。 当社は、保有する政策保有株式については、そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、主要な政策保有株式の現状について四半期毎に取締役会へ報告をするとともに、有価証券報告書においてこれを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行っております。本年以降に提出する有価証券報告書においては、2019 年 1 月 31 日に改正された企業内容等の開示に関する内閣府令に従って、政策保有株式の保有の合理性の検証方法等についても具体的な開示を行います。 なお、当社は、昨年度において、政策保有の意義を見直し、保有の意義が薄いと判断した銘柄について順次売却を進めることとしており、政策保有しておりました上場株式 29 銘柄のうち 5 銘柄について既に売却を実施しております。当社は、今後も、政策保有株式について、保有する意義や合理性が認められない場合には、市場への影響等を考慮した上で売却を進めるなど、政策保有株式の縮減に努めて参ります。

3. 自社株買いを含む株主価値向上策について
提案株主は、本書簡において、株価純資産倍率(PBR)1 倍を下回る株価水準を放置し続けるのは上場企業としてあるまじき行為であり、上場企業の経営陣は株主価値の最大化を追求することが最大の使命であることから、徹底的な株主価値向上策を実施すべきである、政策保有株式を含む不必要資産の売却資金を自社株買いに充当し、ROE の改善と一株当たり利益(EPS)の向上を図るべきである等と主張しております。 当社としても、自動車業界を取り巻く厳しい経営環境において、他の自動車部品メーカーと同様に当社の PBR 及び ROE が低い水準で推移していることは憂慮しているところであります。他方で、当社は、PBR 及び ROE が経営上重要な指標の一例であると認識しておりますが、中長期的な企業価値の向上を図ることこそが企業の究極的な目標であるべきものと考えております。 当社といたしましては、ここ数年新興国を中心とした新拠点展開や拡張・増強などの投資を進めて参りましたことから、設備投資の減価償却費の負担が重く、営業利益を減少させる要因の一つになっていると認識しております。この点、新車開発に伴う自動車メーカーからの将来の需要を見越して必要となる製造設備・製造能力を積極的に確保し、世界の自動車メーカーとの取引を強化していくことや、今後更に競争が激しくなるであろう技術競争に向けて開発能力を強化すること等が当社の競争力の重要な源泉であることから、投資採算性の評価・管理を強化して設備投資を合理的に抑制しながら、必要な設備投資は積極的に行うことにより、当社の競争力を維持・強化しつつ収益力の強化を図り、株主還元策の拡充を図るという財務戦略を維持していくことが、中長期的な企業価値の向上ひいては株主の皆様の共同の利益の最大化に資するものと考えております。 当社は、もとより自社株買いの実施の可能性自体を否定するものではなく、引き続き、自社株買いを含めて中長期的かつ持続可能な企業価値の向上に向けた施策について検討・実施して参ります。また、当社の業務執行取締役に対して中長期的な業績向上を図るインセンティブを与えるという観点から、株式報酬制度を導入することの可能性についても検討を開始しております。

4. コーポレートガバナンス・コード違反との主張について
提案株主は、本書簡において、当社代表取締役会長志藤昭彦及び当社代表取締役社長志藤健との面談を申し入れたにもかかわらず、当社代表取締役ではなく、当社総務部の担当者が面談に応じたことに関して、コーポレートガバナンス・コード基本原則 5(株主との対話)の観点から問題である等と主張しております。 しかしながら、コーポレートガバナンス・コード基本原則 5(株主との対話)は、株主が指定する取締役との面談を実施すべきことを定めるものではなく、上場会社が適切と考える担当者において株主との面談を実施し、その内容を取締役に対して共有し、検討することも同原則における「対話」に当たるものと理解しております。当社は、予め定めた当社コーポレートガバナンス・ガイドラインに従って、また、諸般の状況をも考慮した上で、当社総務部長において提案株主との面談を実施させて頂き、面談の内容については、速やかに取締役会に共有し、検討しておりま す。したがいまして、コーポレートガバナンス・コード基本原則 5(株主との対話)の観点から問題があるものとは考えておりません。

 

5. 当社代表取締役社長の経営者としての資質を疑問視する旨の批判について

(省略)

 

6. これまでの経緯について
提案株主は、2014 年から 2015 年頃にかけて、共同保有者であった株式会社 C&I Holdings とあわせて当社株式の約 12%を取得しておりました。当該株式の保有時において、提案株主のアドバイザーとされる村上世彰氏は、当社代表取締役会長らとの面談において、或いは、当社役職員との架電において、当社の自動車メーカーに対するグローバルな視点での製品供給の重要性には理解を示すことなく、当社が利益の 100%を株主に還元し、又は、数パーセントを超えるような大規模な自社株買いを実施しない場合には、当社株式に対する公開買付けを実施する旨を繰り返し述べ、実際にも、当社に対して、当社の買収防衛策に規定された大規模買付行為の意向表明書のドラフトを提出しておりました。なお、提案株主等は、その後、上記に関する報道等が行われる中で、当社の株価が上がったタイミングで当社株式の全てを売却しております。 その後、2018 年以降、再度当社株式の取得を開始し、2019 年 4 月 4 日及び同月 5 日付けで、野村絢氏及び野村幸弘氏と連名で当社株式についての大量保有報告書を提出するとともに、本書簡及び面談等の機会において、徹底的な企業価値及び株主価値の向上施策の実施を要求し、その一環として、上記のとおり買収防衛策の廃止その他の施策の実行を再三にわたり主張しておりますが、上記のような従前の経緯及び他社事例に照らし、提案株主が、真摯に当社の中長期的な企業価値の向上を検討しているかについては非常に疑わしいものと言わざるを得ないと考えております。

これがヨロズ側の意見です。

 

所見

以上ヨロズの見解と、レノが提案したことを見てきました。

ヨロズとレノのどちらが正しいのでしょうか。

いずれかが正しいということは難しいですが、筆者なりの見解を以下で述べたいと思います。

 

①買収防衛先

買収防衛策とは、「株式会社が資金調達などの事業目的を主要な目的とせずに新株又は新株予約権の発行を行うこと等により自己に対する買収の実現を困難にする方策のうち、経営者にとって好ましくない者による買収が開始される前に導入されるものをいいます。(出所:経産省・法務省作成「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」)

多くの投資家は買収防衛策を経営者の保身手段と考えています。上記の通り経営者にとって好ましくない者による買収を防衛するためのものだからです。

投資家の視点から買収防衛策が正当化されるのは、「企業の本質的価値を下回る金額で企業を買収しようとする買収提案者が現れた場合、取締役会が提案者と有利に交渉を行う手段として買収防衛策を用いる場合」ぐらいでしょう。この場合とは、業績悪化などで企業評価が一時的に下がり、本質的価値を下回る金額で株式が取引されているときに敵対的買収に対する脆弱性が高まり、買収防衛策による一時的な保護が必要とされる場合が考えられます。

そもそも、買収防衛策を求めること自体が、株価バリュエーションが低く買収のターゲットになりやすいことを取締役会が認めていると解釈されます。取締役会は自社の株価が本質的な企業価値より低く評価されていることを株主のために是正すべきなのです。

本質的には、(経営陣から見た)買収防衛とは、アクティビストが評価する企業価値よりも株価が高く取引されていることです。株価がアクティビスト評価よりは高いのですから手を出しにくいでしょう。

企業価値を増加させ、その企業価値が株価に反映されているのであれば、レノのようなアクティビストは当該企業の株式を購入することを検討しないでしょう。

以上より、筆者は、買収防衛策はあまり意味のないものだと考えています。上場している以上、企業は株主を選べませんし、原則的に選んではいけません。アクティビストも含めて様々な株主と付き合っていく必要・義務があるのです。

 

②政策保有株式

いわゆる持合株式である政策保有株式の問題はどうでしょうか。

筆者は、政策保有株式については結果としては無くすべきだと考えています。

海外含めた投資家は、政策保有株式については以下のように考えているものとも思われます。

  • ビジネスモデルの競争力や製品·サービスの質の優劣ではなく、株式保有(議決権行使)を梃子にした取引条件交渉が国際競争力を損なう一因となっている可能性がある
  • 日本企業は株主資本コストに対する認識が希薄であり、政策保有株による安定株主比率が高いことが、株主資本コストに対する認識が広がっていない理由ではないか
  • 安定株主比率の高さは、少数株主が軽視されてしまうことにもつながっている
そもそも、企業は手元資金をどのように活用すべきでしょうか。
当たり前の話ですが、事業に投資を行うべきなのです。
政策保有株式への投資は「事業」なのでしょうか。政策保有株式を持っていると、対象企業と「有利な」事業が出来ているのでしょうか。
この観点から政策保有株式は考えられるべきであり、現在の日本においては、政策保有株式の意味は「安定株主づくり」でしかなくなっている可能性が極めて高いのではないでしょうか。
 
③自社株買い
レノはヨロズに対して株主価値最大化のために不要資産の売却および大規模な自社株買いを行うべきだとし、ヨロズ側は中長期的な企業価値向上のために設備投資を行っていくべきだという考え方でしょう。
これは、筆者からするといずれが正しいかは現段階では判断できません。
レノの考え方は、設備投資しても収益性が低いのだから、無駄なことをせずに株主に資産を返せ、ということがベースでしょう。
ヨロズの考え方は、設備投資が重く収益は厳しいが、この設備投資をしなければ自動車業界で生き残れず、中長期的に企業が衰退するというものでしょう。
これは、結果としてはヨロズが将来生き残れるかにかかっていることであり、未来にしか結果が出ません。
しかし、筆者の考え方では、せめて株価純資産倍率(PBR)1倍割れを回避することは経営者にとって重要な使命ではないかと思います。教科書的に言えば、企業が存続しているよりも、その時点ですべての資産を売り払った方が株主にとっては儲かる、ということになるのです。経営者が経営する意味がない、と株価では判定されているに等しいのです。
株価の向上策を図れとレノ側が迫っているのは、当たり前のことです。
 
④コーポレートガバナンス・コード違反
レノ側はヨロズの代表取締役への面談を申し込んだにも関わらず、総務部長等が面談したのはコーポレートガバナンス・コード違反だと主張しているようです。
これについては、あまり議論は必要ないでしょう。
面談を申し込んできた株主全てに社長等代表取締役が全て面談していたら、経営は出来ないでしょう。
 
⑤社長の経営者としての資質
これについては判断材料もなく、コメントはできません。
 
⑥これまでの経緯
ヨロズ側からすると、レノは過去に大株主となり様々な提案を行い、交渉している最中に株価が上昇すると株式を売り抜けてしまったという「ずるい」株主だという認識があるのでしょう。
そして、今回も同じだろうと受け取っており、ヨロズの中長期的な企業価値向上など考えていない株主と受け取っています。
レノ側の過去の行動はヨロズ側が指摘している点は正しいこともあると思います。結果としては、レノは短期的に投資収益を上げられるのであれば売却しているからです。
しかし、個人の株主でも短期で売買する投資家は大量に存在します。レノのヨロズへの要求手法は脇に置いておいても、この個人投資家はどのように考えれば良いのでしょうか。
短期投資家を大事にしたくない企業の「気持ち」は分かります。
しかし、レノの上記①~③までの主張は、決しておかしなことを求めている訳ではありません。「正論は優しくない」のです。
レノは単純に安いモノを買って、高く売り抜けようとしているだけです。他の投資家よりも資金規模が大きく、投資の手法と企業としての交渉方法が強引なだけです。
しかし、安いモノ(株式)を買ってくれる投資家は株式市場に流動性を供給している貴重な主体でもあります。誰もが買いたがらない安い株式を購入しているからです。
レノが嫌われることは分かりますが、(恐らく)合法的に投資をしているだけです。レノのようなアクティビストは企業にとっては付き合いたくない相手ではあっても「悪」ではないのです。
一時代前の総会屋とは異なり、レノのようなアクティビストが行っているのは合法的な要求です。法律の範囲内で、自社の運用するファンドにとって有利になるように交渉しているのです。不当な利益を要求している訳ではないのです。
アクティビストは、あくまで、他の投資家が指摘しない点をあえて指摘し、株式市場に流動性をもたらす存在です。もしかしたら貴重といえるかもしれません。
あえて言えば、アクティビストは悪ではないのです。