銀行員のための教科書

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TATERUの改ざん問題は信用棄損という大問題

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東証1部上場のTATERU(タテル)がアパートオーナーの銀行融資にかかる申請書類を改ざんしていた問題で、第三者の調査委員会の調査報告書を公表しました。

今回はこの調査報告書の内容および今後の影響について考察します。

 

報道内容

まずはTATERUの調査報告書の概要を把握しましょう。以下は産経新聞記事の引用です。

タテル、物件15%改ざん 部長ら31人関与
2018.12.27 産経新聞

  東京証券取引所第1部上場で投資用アパートの企画・管理を手掛けるTATERU(タテル)は27日、銀行融資の審査書類を改竄(かいざん)していた不正に関する特別調査委員会の調査結果報告書を公表した。改竄は営業部長や部長代理を中心とする計31人が実行し、契約棟数2269件のうち15%に当たる350件で認められた。

 改竄があったのは、顧客が銀行から融資を受ける際の預金残高データで、西京銀行(山口県周南市)に提出していたことが判明している。タテルは今年9月に調査委を設置し、同様の改竄の有無や背景などを調べていた。

(以下略)

TATERUの発表では同社が販売した物件の15%、350棟(件)で、金融機関に提出する資料の改ざんが認められたとしています。

スルガ銀行同様の問題と比べると問題事象の「規模」は小さいかもしれません。但し、TATERUにとってみれば大きな影響と言えるでしょう。以下でもう少し詳しく見ていきましょう。

 

報告書の内容

調査委員会の報告書は要約版のみが公表されています。

筆者が考えるポイントは以下てす。

  • 当委員会が、エビデンス改ざんを実行したと認定する従業員は、前述のとおり営業部長及び部長代理を中心とする合計31名
  • 2018年9月4日時点で貴社の「TATERU Apartment事業」において新築アパート販売に係る営業部門に所属する従業員及び過去に営業部に所属していた従業員・退職者合計94名
  • 当委員会が、エビデンス改ざんが実行されたと認定する案件数は、本調査対象期間における成約棟数2,269件のうち350件
  • 当時、エビデンス改ざんが行われるようになった背景としては、①営業職員の間ではノルマとして理解されていた販売目標を達成するには、各営業部として、自己資金が少ない顧客とも契約を締結しなければならないような状況に陥っていた一方で、②前述のとおり率直に物を言えない風土において、経営陣は、営業部長以下の状況を把握していなかったため、現場の状況を踏まえた販売目標の見直し等ができないままとなっており、また、③営業職員においても、前述のとおり成約1件ごとに歩合給が支払われる給与体系になっていたことから、エビデンス改ざんにより販売目標を達成しパワーハラスメントを受けることもなく、自らも歩合給を容易に得られる関係にあったことが挙げられる

以上のように、「新築アパート販売に係る営業部門に所属する従業員及び過去に営業部に所属していた従業員・退職者合計94名」のうち31名、すなわち1/3の従業員もしくは退職者が改ざんに関わっていたということになるのではないでしょうか。これは、かなりの割合と言えます。

そして、改ざんが起きた原因は端的にまとめられており、非常に分かりやすい図式となっています。今回は不動産会社で起こりましたが、同じような事象はどの企業でも起こり得るでしょう。

 

所見

TATERUの2019年3月期3Qの売上高509億円のうちの491億円、営業利益45億円のうち39億円(いずれも連結調整前のセグメント売上高および営業利益)が、アパート建築・販売部門によるものです。

すなわち、TATERUという企業はクラウドファンディング等、不動産テック企業のイメージがありますが、実際は売上・収益ともアパート建築・販売に依存しているのです。

アパートを建築して、投資を望むオーナーに販売していくには、投資家からアパートを開発する企業として信用されることが重要です。

また、アパート投資はローンでなされることが多いため、銀行から信用されることも必要です。「あの会社が開発したアパートなら入居者も集まりやすく、家賃も安定している」というような信用があれば、銀行はアパートローンを出します。

ところが、TATERUのような企業のアパートだったらどうでしょうか。

投資家はTATERUからアパートを購入したいでしょうか。買いたいと思っても銀行がローンを付けてくれるでしょうか。TATERUから提出される資料は偽造されているかもしれないのです。

同様に、銀行はTATERUのアパートに融資したいでしょうか。

TATERUは直近の増資によってキャッシュを確保しており、短期的には破綻懸念は少ないでしょう。

しかし、中長期的には販売用不動産(在庫)が回転しなければ、経営は苦しくなっていく可能性があります。

TATERUは今回の調査報告を活かし、実効性のある再発防止策を導入し、銀行からも投資家からも信頼を取り戻さなければ生き残りが難しくなっていく可能性があるのです。