銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

スルガ銀行の取締役・執行役員の責任について

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旧経営陣のほとんどが退任し、新体制となったスルガ銀行が旧経営陣の責任追及に動き出しました。

今回は、スルガ銀行の旧経営陣にどのような責任があるのかについて考察していきましょう。

もちろん、この取締役等の責任論は銀行のみならず企業全体に当てはまりますので銀行関係者以外にも参考となるはずです。

 

発表内容

まずは、スルガ銀行の発表内容を確認しておきましょう。以下はスルガ銀行のプレスリリースの抜粋となります。

「取締役等責任調査委員会」及び「監査役責任調査委員会」の設置について

2018年9月14日

 当社は、本年9月7日付け「第三者委員会の調査報告書の受領と今後の当社の対応について」でお知らせしましたとおり、本日、下記のとおり「取締役等責任調査委員会」及び「監査役責任調査委員会」を設置いたしました。

   記

 当社は、シェアハウス関連融資その他における不適切な取り扱いをはじめとする一連の問題に関して、現旧取締役がその職務執行につき善管注意義務違反等により当社に対する損害賠償責任を負うか否か等について、法的な側面から調査・検討を行うため、本年6月の定時株主総会において新たに選任された社外監査役2名及び独立性を確保した利害関係のない立場にある外部弁護士からなる「取締役等責任調査委員会」を本日設置いたしました。
 「取締役等責任調査委員会」の概要につきましては、別紙1をご参照下さい。

(中略)

 当社は、「取締役等責任調査委員会」及び「監査役責任調査委員会」に対して、会社として全面的に協力し、各委員会による調査・検討結果につきましては、報告をいただき次第、公表します。また、各委員会の調査・検討結果を真摯に受け止め、責任が認められた者に対しては、訴訟提起も視野に入れた厳正な態度で臨むとともに、当社に対する信頼を一日も早く回復すべく抜本的な改革に取組んでゆく所存です。

以上

 

<別紙1>

【取締役等責任調査委員会の概要】

1.取締役等責任調査委員会の位置づけ
取締役等責任調査委員会は、シェアハウス関連融資その他における不適切な取り扱いをはじめとする一連の問題について、現旧取締役において、その職務の執行につき善管注意義務違反等により当社に対する損害賠償責任を負うか否か等について、法的な側面から調査・検討を行う。
現旧執行役員についても、その職務の執行につき当社に対する債務不履行責任等を負うか否か等について法的な側面から調査・検討を行う。
その他当委員会における調査の過程等において、現旧取締役の職務の執行につき善管注意義務違反等に該当する行為があった可能性を認めた場合には、当該行為についても(1)と同様の調査・検討を行う。現旧執行役員についても同様とする。
2.委員の構成
 当社、現旧取締役及び現旧執行役員から独立した弁護士及び当社の社外監査役(本年6月に新たに選任された2名)とする。

(以下略) 

以上がスルガ銀行のプレスリリースです。

現旧取締役、現旧執行役員、現旧監査役について法的責任があるか否かを調査するとしています。今回は、取締役の責任についてさらに考察していきましょう。

 

取締役の善管注意義務

そもそも取締役の善管注意義務とはどのようなものでしょうか。以下では中小企業基盤整備機構のサイトから引用します。

 会社法上、株式会社の取締役は会社から経営の委任を受けていると考えられており、その関係には、民法の委任に関する規定が適用されます(会社法330条)。民法は、委任を受けた者は「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」(民法644条)と定めており、これを「善管注意義務」といいます。
 一方、会社法でも「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」(会社法355条)と定められています。これは「忠実義務」と呼ばれていますが、善管注意義務とは別個の義務を定めたものではないと解されています。
 善管注意義務の中身をもう少し具体的に言うと、「会社経営に携わる者として、その会社の規模、業種等のもとで通常期待される程度の注意義務」であり、単なる従業員とは異なり、取締役としての職務や地位に値するだけの高度な注意力が要求されます。

 

【善管注意義務違反の例】
 取締役が善管注意義務に違反したことにより会社に損害を与えた場合には、会社に対し損害賠償責任を負うことになります。
 いわゆる放漫経営などはその典型ですが、取締役の善管注意義務が問われるのは、不作為、つまり会社としてなすべきことを怠ったことによる場合の方がむしろ多いといえます。たとえば、会社が借りていた不動産の賃貸借契約が解除された後、そのまま会社が不動産の占有を続けていたという事例につき、代表取締役に善管注意義務違反が認められた裁判例があります。さらにこのケースでは、他の取締役は代表取締役を監視すべき義務を怠っていたとも判断されました。

【他の取締役を監視する義務】
 このケースもそうですが、何かトラブルがあった場合にしばしば問題になるのは、取締役が他の取締役の不適切な行為を監視・監督しなかったという、いわゆる「監視義務」の違反です。取締役には、他の取締役を監視し、不適切な行為があれば、取締役会を自ら招集し、業務執行の適正化を図るという義務もあるのです。この監視義務は、取締役会の議題になった事項だけでなく、会社の業務一般が対象となります。

【経営判断の原則】
 なすべきことをしなかったという、いわゆる「消極ミス」とは異なり、取締役が経営上の判断を誤ったために損失を招いたという「積極ミス」についても、善管注意義務違反が問題となります。
 この場合は、通常の経営者としての知見や経験を基準として、事実の認識や行為の選択に著しい不合理があったといえるかどうかがポイントになります。これは、企業経営に関する判断は、流動的な状況で行わざるを得ず、ある程度のリスクも伴うものであることから、取締役の裁量権がある程度認められるべきだという考え方によります。この考え方は「経営判断の原則」と呼ばれています。
 つまり、取締役は、会社の利益のために行動する限り、仮にその行動が失敗したとしても、その失敗自体が善管注意義務違反となるわけではありません。ただし、その行動は合理的な根拠と判断に基づいていることが必要です。合理的というのは、その業界における通常の経営者のレベルを基準にして、ということですから、それなりの高度な専門知識や能力を前提にしていることを忘れるべきではありません。

【その他の義務】
 今回は詳しく触れることができませんが、取締役には他にも、自分や第三者のために会社の事業と同様の商取引を行ってはいけない「競業避止義務」や、自分や第三者のために取引して会社に不利益をもたらしてはいけない「利益相反取引禁止義務」も課せられています。もちろん、これらの義務違反には損害賠償責任が伴います。
 このように、取締役の負う責任や義務は、従業員とはまったく異なるものであり、従業員から取締役になった社員は、そのことをよく自覚し、責任の中身を熟知しておく必要があります。

(出典 中小企業基盤整備機構 J-Net21)

http://j-net21.smrj.go.jp/well/law/column/2_5.html

これが取締役の善管注意義務です。

取締役というのは、株主から「経営のプロ」として経営の委任を受けています。従業員とは根本的に異なります。会社から雇われているというよりは、株主に雇われているのが取締役であり、「法的には」従業員の出世街道のゴールが取締役であるということではありません。 そして、プロである取締役には、経営のプロとして「会社経営に携わる者として、その会社の規模、業種等のもとで通常期待される程度の注意義務」を課されており、単なる従業員とは異なり、取締役としての職務や地位に値するだけの高度な注意力が要求されています。

なお、取締役の会社に対する責任の消滅時効は10年となっています。

最高裁は、「取締役の賠償責任は、商法でなく民法の時効(10年)が適用される」と判断しています(最高裁平成20年1月28日第2小法廷判決)。

取締役は退任したとしても、その就任中の責任を長期間追及される可能性があります。これも経営のプロとして株主から委任されていることの裏返しです。

 

本件ケースにおける善管注意義務 

スルガ銀行の第三者委員会の報告書は取締役の善管注意義務を学ぶ上で非常に参考となります。判例上、株式会社の取締役の責任が発生するのは、本事案のようなケースでは概ね4つの場合とされています。

  • 役員に法令違反行為があった場合
  • 意思決定に過誤がある場合
  • 監視義務違反行為があった場合
  • 内部統制構築運用義務違反があった場合
法令違反行為は、個別具体的な法令に違反する行為があった場合で、これは役員に裁量の余地はなく、責任が発生します。意思決定の過誤は、いわゆる経営判断原則を逸脱した場合です。監視義務違反は、前述の通り、他取締役の問題行動等を差し止める努力をする必要があるとするものです。
今回、特に問題となる観点としては、内部統制システム構築義務違反があります。
これは、第1に、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えていたかどうかが問われ、第2に、以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど個々の役員において不正行為の発生を予見すべきであった特別な事情があったかどうかが問われます。
また、取締役であることによる職務とは別に、「業務担当」取締役等として別途会社から委嘱された業務を負っている取締役も存在します。その場合には、その職務の内容を特定し、その職務を適切に履行しているかということが問題となります。この場合の職務の内容は、その管掌分野における意思決定(権限分配規程等による)、内部統制組織の構築(取締役会決議に基づく詳細部分の構築)及び運用状況のモニタリング、管掌分野の部下に対する監督等です。管掌役員としての「監督義務」は、自己の管掌分野については積極的、能動的、恒常的に業務執行の状況を監視し、それぞれの組織が果たすべき機能を果たしているか、不正行為や新しいリスクが発生していないか等をモニタリングする必要があります。
まず、内部統制システム構築義務違反という観点については、第三者委員会では取締役会に責任はないと判断しています。
以下の報告書内の記載が分かりやすいのではないでしょうか。
以上のほかにも種々の仕組みはあるが、取締役会として関与すべきレベルの制度あるいは組織としては、外形上、「通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制」が整備されていなかったとはいえないものと思料する。現実にこれらの制度が機能しなかったことは、運用上の問題である 。スルガ銀行の場合、大きな特徴は、形式だけはきちんと整っていることが多く、その本質が空洞化しているのである。
よって、取締役(会)については、内部統制構築上の善管注意義務違反は認められない。

このように、取締役会として仕組みは作っていた訳ですから、内部統制システム構築についての問題はないと判断される可能性が高いものと思われます。

では、取締役個人にとってはどうなるのでしょうか。

 

取締役個人の責任(第三者委員会報告)

スルガ銀行の一連の問題を調査した第三者委員会は報告書の中で、取締役等の責任について以下の通り記載しています。

なお、当該報告書で留意すべきは、「法的責任」と「経営責任」が記載されていることです。取締役の善管注意義務等は法的責任であり、経営責任とは峻別して考える必要があります。

(1) 岡野会長について

 個別の不正、又はシェアハウスローンに係るリスクを具体的に知り又は知り得た証拠はない。

 一方で、以下の点(以下、併せて「本件問題発覚後の諸行動」という。)に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。

 2017 年 7 月 5 日に開催された第 4 回サクト会議の結果、シェアハウスローンのリスクや問題が判明し、会社に著しい損害を与えるおそれがある重大な問題が発生していることを認知したにもかかわらず、取締役会を開催して報告・付議をすること、及び監査役に直ちに伝達すること(会社法 357 条)を怠ったこと。

 同年 10 月 19 日の取締役会で、上記問題について、担当取締役に十分な説明を求めず、また自ら説明もしなかったこと。

 同年 10 月 19 日の経営会議で、融資の基準(業歴 5 年以上、完成時一括実行等の条件)が改定されたにもかかわらず、同月 31 日の社内会議で事実上それが覆されてしまったことについて、経営会議決議違反を認識しつつこれを是正しなかったこと。

 「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、その諸要因について、故岡野副社長と同等の最も重い経営責任がある。

(2) 米山社長について

 個別の不正、又はシェアハウスローンに係るリスクを具体的に知り又は知り得た証拠はない。

 一方で、本件問題発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。

 「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、2016 年 6 月以降は代表取締役であり、また 2017 年 4 月以降は最高執行責任者(COO)であるから、就任後の経営に関し一定の経営責任は免れない(ただし、経営責任が「重い」というのは酷である。)。

(3) 故岡野副社長について

 1998 年 4 月から 2016 年 7 月に逝去するまでの間、長年にわたり、スルガ銀行の業務執行全般における実質的な最高意思決定者であったが、①営業を極端に重視した人事、②過大な営業目標、③営業重視かつコンプライアンス軽視の組織風土の形成、④審査部門の弱体化、その他により「本件の構図」を構築してしまった主たる責任者であり、問題となり得る点は少なからずある。

 しかしながら、これらは現在の役職員らのインタビュー結果に依拠していること、既に逝去されており弁明の機会を付与することができないこと、本人に対する責任追及の余地がないこと等に照らし、当委員会としては法的責任についての判断を留保する。

 ただし、経営責任については、「本件の構図」を作り上げ企業風土の著しい劣化を招いた主たる責任者であって、優に認定できる。

(4) 白井専務について

 本件問題発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。

 「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、①コンプライアンスを管掌する取締役として自己資金確認資料の改ざんの疑いがあることを認識し得る契機はあったこと、②スマートライフとの取引中止の旨の社内への周知不足に関し、適切な対応を欠いていたこと、③人事部を管掌する取締役でありながら、人事異動に関する報告が自己に対して一切なされない状況を放置したこと、④「お客様の声」や内部通報制度を適切に運用しなかったこと等に照らすと、専務取締役(代表取締役)として、その職責を十分に果たしてきたとはいえず、経営責任がある。

(5) 望月専務について

 個別の不正を具体的に知り又は知り得た証拠はない。

 一方で、本件問題発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。

 「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、2011 年 6 月以降は専務取締役であり、また CFO として財務関係の数値に関して恒常的に報告を受け、社内の各種情報にアクセス可能な立場にあったのであり、専務取締役として、その職責を十分に果たしてきたとはいえず、経営責任がある。

(6) 岡崎氏(元専務取締役)ついて

 個別の不正を具体的に知り又は知り得た証拠はない。

 しかしながら、以下の点に関しては、営業管掌取締役としての職務を懈怠したものと認められる。

 営業戦略に結びつくような情報も含めて業績をモニタリングする義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったこと。

 長年の営業現場での経験からも、業者(チャネル)が不正なエビデンスを作成してスルガ銀行に持ち込む可能性があることや、いったん出入禁止としたはずの業者が別の法人の形式でスルガ銀行に再度接近してくるリスクがあることを認識していたにもかかわらず、営業本部においてこうしたリスクに対応した内部統制(不適切な融資が増加しないための内部統制)を構築・運用されていることのモニタリングを怠ったこと。
 また、以下の点に関しては、営業本部長を兼務する取締役としての職務を懈怠したものと認められる。

営業本部において必要な内部統制を構築・運用する義務を怠っていたこと。

 加えて、本件問題発覚後の諸行動に関して、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。

 さらに、「本件の構図」を産んでしまった要因のうち、営業本部と経営陣との間の情報の断絶を作出したのは岡崎氏に他ならず、その経営責任は、故岡野副社長に次ぐ重いものである。

(7) 柳沢常務について

 本件問題発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。

 また、常務取締役就任(2017 年 6 月)以前は執行役員審査部長、執行役員常務審査部長、常務執行役員審査部所管を歴任していたところ、以下のような認識を有していたにもかかわらず、適切な対応を怠っており、執行役員としての善管注意義務違反が認められる。

 審査部内の融資管理部において把握した、レントロールの妥当性の疑義、自己資金確認資料の偽装事案等、営業現場の課題について報告を受けていた。

 シェアハウスの入居率を精査する必要性及びサブリース会社が自転車操業に陥ることの危険を認識していた一方で、シェアハウスについては目視での入居状況の詳細確認が困難であるという現場の状況も認識していた。

 シェアハウスローンが他の資産形成ローンとは全く異なるリスク特性を備えていることを認識していた。

 個別の融資事案で審査担当者と営業担当者との間で意見が対立した際、ほとんどの案件で融資が実行されている等、審査の意見よりも営業の意見が優先される状況を認識していた。

 他方で、2017 年 6 月に常務取締役に就任した後は、自発的に「シェアハウスの疑問点」と題する資料による問題提起を行ったり、信用リスク委員会で融資条件の厳格化を提案したりと、収益不動産ローン全体の是正に向けて積極的に行動している。

 また、取締役就任時には既に「本件の構図」が出来上がっており、その作出への寄与は認められず、「本件の構図」との関係での責任は負わない。

(8) 八木取締役について

 個別の不正、又はシェアハウスローンに係るリスクを具体的に知り又は知り得た証拠はない。
 一方、審査部管掌取締役として、自己の管掌部門に関わる不正常な情報が集積してきている状況にあったと認められ、遅くとも 2016 年末頃までには、問題がどこまで広がっているか適切な調査をし、あるいは審査部長に調査を指示すべきであったにもかかわらずそれをしなかったことは、管掌取締役としての職務を懈怠したものというべきである。

 「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、2012 年 6 月以降取締役であり、審査部門の管掌もしていたことから、一定の経営責任がある。

(9) 有國取締役について

 個別の不正、又はシェアハウスローンに係るリスクを具体的に知り又は知り得た証拠はない。

 2016 年 6 月に取締役に就任した後は、監査部管掌兼 CRO(最高リスク管理責任者)、システム部管掌、システム部管掌兼業務部管掌、融資管理部管掌を歴任しているところ、まず、これらの管掌取締役としての職務に関し、明らかな善管注意義務違反があったとは認められない。

 一方、取締役就任前は、経営企画部キャスティング部(現人事部)の部長を務めており、人事に関する様々な問題を認識していた。とりわけ、審査部の人事に営業の意向が色濃く反映されることにより、審査が無力化し、与信リスクが発現する可能性を具体的に認識し得たにもかかわらず、取締役就任後、遅滞なく当該問題を取締役会に報告する等の方法による是正を試みなかったことに関しては、明らかな善管注意義務違反があったとまでは断定できないまでも、一定の経営責任は免れない。

(10) 麻生氏(元専務執行役員・Co-COO)について

 以下の点等に関して、営業本部の執行役員としての注意義務に違反していた。

 審査部の人事に介入したこと。

 シェアハウスローンについて、構造的な問題やリスクが非常に大きいことが議論されたにもかかわらず、ごく限定的な対応だけでさらにシェアハウスローンを推進してしまったこと。

 故岡野副社長の指示に反してスマートライフとの間の取引を営業店が行っていること知りながら、それを差し止めるなど適切な措置をとらなかったこと。

 2017 年 10 月 19 日の経営会議で融資条件を厳しくすることが決定されたにもかかわらず、同年 10 月 31 日の社内会議でそれに抵触する取扱いを決めたことに関与し、その後実際に経営会議決議違反となる融資の稟議申請をし、融資実行させたこと。

 収益不動産ローンにおいて、各種リスクが増大しているにもかかわらず、営業本部において必要な監督を行う義務を怠ったこと。

 この他、センター長会議での度重なる叱責、営業邁進の厳命、審査部に対して審査を通すよう強く要求したこと等は、直ちに注意義務に違反するとまではいえないものの、企業風土の劣化を招く行為であったことは否定できず、スルガ銀行で生じた企業風土の著しい劣化に寄与した度合いは大きい。

一方、経営陣ではなく、情報の断絶が生じているスルガ銀行の中で、現場に明確な形で介入しない経営陣の下、ひたすら営業に邁進した立場というべきである。したがって、「本件の構図」を作った張本人ではないし、その構図について責任があるとするのは酷であろう(それは経営トップの責任である。)。

これが第三者委員会の報告です。

ただし、法的責任という観点での法的責任の有無は、裁判所の判断にゆだねられます。弁護士が中心となっている第三者委員会が決定することではないということには留意が必要でしょう。

 

今後の流れ

今後は、今回発表した「取締役等責任調査委員会」等が現旧取締役等の責任を調査し、スルガ銀行に報告します。

その後、スルガ銀行としては、責任があると報告された現旧取締役等への訴訟提起(善管注意義務違反による損害賠償等)を行うか否かを決定することになります。

スルガ銀行として責任追及を行わない(訴訟を提起しない)とした場合には、株主から株主代表訴訟(株主が会社に代わって会社へ与えた損害を賠償するように取締役個人を訴えるもの)が起こされる可能性もあります。

スルガ銀行の現旧取締役等にどのような「法的」責任が認められるかは今後の動向次第(最終的には裁判次第)ですが、今後の企業運営にとって重要な事例となることは間違いないでしょう。