(画像と本文の内容とは関係ありません)
スルガ銀行が、創業家およびファミリー企業向け融資について元会長らを提訴するとの報道がなされました。
スルガ銀行は業務改善計画を金融庁に提出し、会社としての再出発を図ろうとしています。その業務改善計画には、創業家およびファミリー企業との関係の見直しが重要な項目として挙げられています。
今回は、このスルガ銀行の創業家およびファミリー企業向け融資の問題について考察します。
報道内容
まず、報道内容を確認しましょう。スルガ銀行は現時点では何らかの発表をしている訳ではありません。
スルガ銀、創業家向け融資でも元会長ら提訴へ
2018/12/26 日経新聞
スルガ銀行は創業家の影響下にあった関連企業への不適切な融資で損失を招いたとして、創業家の岡野光喜元会長ら旧経営陣を追加で提訴する方針を固めた。旧経営陣は資産などをきちんと把握せず、経営が悪い関連企業に融資を実行。同行は焦げ付きに備えた引当金の計上を迫られた。シェアハウスなどの投資用不動産を巡る提訴に続き、責任を追及する。
具体的な賠償請求額や提訴対象の範囲などは最終調整している。「ファミリー企業」といわれる関連企業への融資残高は2018年3月時点で488億円。創業家に近い経営陣が独断で決めており、対象者は絞られる見通しだ。
金融庁によると保有資産の実態や具体的な返済計画を検証せずに融資したり、融資した関連企業が別の関連企業に転貸して回収が難しくなったりしている例があるという。スルガ銀はこうした融資が焦げ付くリスクに備えて18年4~9月期に134億円の貸倒引当金を計上。同期に1000億円超の最終赤字に転落した一因となった。
返済が進まないなか、関連企業は岡野元会長を含む創業家の個人に69億円を融資。特定の関連企業からの融資を回収するために、別の関連企業にスルガ銀が寄付金名目で資金を出し、それを還流させて返済を受けた実態も明らかになっている。
スルガ銀は11月、シェアハウスを含む投資用不動産向けの不適切融資で多額の損失を招いたとして、岡野光喜元会長ら9人に連帯して総額35億円を支払うよう求める損害賠償訴訟を静岡地裁に起こしている。創業家の関連企業向け融資についても、社外の弁護士らで構成する責任調査委員会が近くまとめる報告書を踏まえて提訴に踏み切る。
これが、報道内容です。概要が確認出来るでしょう。
スルガ銀行への業務改善命令の内容
次にスルガ銀行に対しての行政処分(業務改善命令)がどのようなものだったのかを確認しましょう。
スルガ銀行に対する業務改善命令のうち、創業家ファミリー企業への融資に関する内容は、以下となります(抜粋)。
当社に対する行政処分について
2018年10月5日
1.行政処分の内容
(3)健全かつ適切な業務運営を確保するため、以下を実行すること。
⑤ 当行の営業用不動産の所有・管理や当行の株式の保有等を行い、創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引を適切に管理する態勢の確立
2.行政処分の理由
(4)ファミリー企業に対する不適切な融資
以下のとおり、当行では、ファミリー企業に対する融資に関して、保有資産の実態把握、具体的な返済計画の検証等を行っておらず、不適切な融資管理の実態が認められる。
また、ファミリー企業から創業家個人に対して一定額の融資が実行される中、業況の芳しくないファミリー企業に対する当行融資の回収が進まないなど、信用リスク管理上の問題が認められる。
① 当行が融資を実行したファミリー企業が別のファミリー企業に対して転貸した資金の回収可能性がなく、大幅な債務超過となり破綻懸念先に該当し、当該ファミリー企業向け融資について追加引当が必要となった事例が認められる。
② 特定のファミリー企業からの融資を回収するために、複数回にわたり、当初寄付名目で拠出した資金を別のファミリー企業を通じて当該ファミリー企業へ還流させ、返済を受けている。当該取引は実質的に特定のファミリー企業を支援するものであり、本来であれば、将来の経営改善の見込みや経営支援の必要性について取締役会や経営会議において議論した上で決定すべきであるにもかかわらず、実際は一部の経営陣のみで決定しており、与信管理及びガバナンス上の問題が認められる。<別紙> 当社が現状把握している内容
(4)創業家ファミリー企業への融資総額
①創業家ファミリー企業への融資総額 488億円
②創業家ファミリー企業から創業家個人への融資総額 69億円
ここで特にポイントとなるのは、「特定のファミリー企業からの融資を回収するために、複数回にわたり、当初寄付名目で拠出した資金を別のファミリー企業を通じて当該ファミリー企業へ還流させ、返済を受けている」事象でしょう。
当該取引は「本来であれば、将来の経営改善の見込みや経営支援の必要性について取締役会や経営会議において議論した上で決定すべきであるにもかかわらず、実際は一部の経営陣のみで決定」していたと金融庁が認定しているのです。
この点については、取締役の利益相反を実質的に脱法していたということになる可能性があるということでしょう。
結果としては、創業家取締役(ファミリー企業含む)からみれば、融資取引自体の無効(借入をすぐに返済しなければならなくなるということ)や銀行に損失が出た場合の損害賠償責任を負うことになるのです。
スルガ銀行の業務改善計画
上記改善命令を受けたスルガ銀行の創業家ファミリー企業向け融資に関する業務改善計画は以下の通りです(抜粋)。
業務改善計画の提出について
2018 年 11 月 30 日
業務改善計画
第2章 今回の処分を踏まえた経営責任の明確化
1.創業家への責任追及等
2018 年 9 月 7 日、岡野会長は退任し、後述のとおり、当行は、岡野前会長及び 2016 年 7 月 まで副社長として投資用不動産融資を推進してきた故岡野喜之助氏の相続人に対して、「取締役等責任調査委員会」の判定を経て、2018 年 11 月 12 日、損害賠償請求訴訟を提起いたしました。
さらに、創業家のファミリー企業への不明朗な融資につきましても、その回収を図るとともに、そこで発生する損害については、「取締役等責任調査委員会」がさらに検討を進めております。
その判定により責任が認められた場合には、追加的に損害賠償請求訴訟等を提起する予定です。
また、創業家が保有する当行株式(約 13 パーセント)につきましても、その保有関係の解消を図るべく、当行としてできうる限りの対応を行なっていく所存です。
第6章 創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引解消
1.創業家との資本関係解消について
創業家及びファミリー企業に対しては、保有の当行株式の売却を継続して働きかけ、早期に資本関係の解消を図ります。
2.ファミリー企業向け融資の回収について
ファミリー企業向け融資については全額回収を図りますが、回収不能な部分が生じた場合にはファミリー企業などの債務者に対して貸金返還請求等を提起いたします。また、ファミリー企業向け融資に関係した取締役等につきましても、前述の「取締役等責任調査委員会」「監査役責任調査委員会」の判定により責任があると認められた者に対しては、損害賠償請求訴訟等を提起する予定です。
なお、定期的にファミリー企業側との協議を行ない、資本関係解消や返済計画等を総合的に検討し、着実に資本関係の解消と融資の回収を進めてまいります。ファミリー企業につきましては、全額回収を行なうまでの間、適切に債権管理を行ない、取締役会へ報告いたします。
これが業務改善計画です。この計画に則った調査で、やはり関与取締役に損害賠償請求を行うべきとスルガ銀行が判断したということなのでしょう。
創業家取締役等の責任
創業家もしくは創業家ファミリー企業への融資は、通常は、スルガ銀行と創業家取締役との間で利益相反が発生します。
創業家からすれば、金利は安く、融資額は多く等、一般的な条件よりも有利に借りることを望むでしょう。
取締役は、このような利益相反取引を行う場合には、取締役会を設置している会社では取締役会の承認を受ける必要があります。
そして、利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、その取引に関与した取締役は、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。この場合、当該取引を行った取締役だけでなく、承認決議に賛成した取締役も、過失がなかったことを証明しない限り、任務懈怠として損害賠償責任を負うことになります。
しかし、報道のみならず業務改善命令等を確認する限りは、創業家ファミリー企業への融資は取締役会に付議されていなかった可能性が高いものと思われます。
これは創業家のファミリー企業の取締役を、スルガ銀行の創業家取締役(会長等)が兼務していない等、利益相反を表面的に回避していた可能性があると思います。
しかし、実態として創業家取締役がファミリー企業に関与していた場合、利益相反として取締役会に諮る必要があったのかもしれません。
この利益相反も大きな問題ですが、更に特別背任という法的には大きな問題も想定されます。
会社法
第8編 罰則(取締役等の特別背任罪)
第960条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時監査役
三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
四 民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
五 第346条第2項、第351条第2項又は第401条第3項(第403条第3項及び第420条第3項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
六 支配人
七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八 検査役
これが特別背任です。立証は難易度が高いですが、非常に重い罰則が適用されます。
銀行の場合は特別背任で重要な判例があります。
最決平成21年11月9日刑集63巻9号1117頁(拓銀特別背任事件)
銀行の代表取締役頭取が、実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し、客観性を持った再建・整理計画もなく、既存の貸付金の回収額をより多くして銀行の損失を極小化する目的も明確な形で存在したとはいえない状況で、赤字補てん資金等を実質無担保で追加融資したことは、その判断において著しく合理性を欠き、銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に違反し、特別背任罪における取締役としての任務違背に当たるとされた事件
このようにスルガ銀行の創業家取締役は、関与の状況次第では、特別背任も視野に入る可能性があります。
これが、詳細が開示されていない現時点で考察できることです。